一週目
目の前が真っ白だ。
初めての感覚だ。
真っ暗で何も見えないのでもなく、光でまぶしいわけでもないのに、真っ白。
耳からではなく、頭の中に声が響いた。
『聞こえるか?』
男のような女のような、子供のような大人のような、なんだかよくわからない、不思議な声。
一体何が起こっているんだ。
『ここは、簡単に言うと死後の世界』
は?
どういうこと?
俺が死んだ?
確かにちょっと最近疲れ気味だったけど、即死するような年じゃないし。
『君は、世の理に反してしまった』
まるで意味が分からない。
『肉を落として、食べるまでに十秒かけてしまった』
理って三秒ルールかよ!?
死に至るようなルールなの、あれ!?
『私は、君が毎日祈っていた神。最近にしては珍しいから願いを叶えてやろうと力を貯めていた矢先に……』
確かに、家の近くにある神社に、なんとなく毎日お参りしていた。
願いを叶えてくれるなら、生き返らせてくれよ。
さすがに死因が三秒ルールはダサすぎるだろ!
『あの理は、私よりも上位の神によって定められし理。覆すことはできない』
偉い神様、何考えてんだよ。
『代わりに、来世での願いを叶えてあげよう。来世は、今回とは違う世界で転生できる』
異世界へ行けるのか!
だったら、絶対的な最強の力で転生させてほしい!
あ、もちろん力が無意味な平和な世界とかは無しで。
『随分短絡的な願いだな。まあいいだろう』
やった!
これで夢の異世界で無双生活だ!
『戦闘力百万で転生するようにしたよ』
何の単位だよ。
でかそうな数字だけ言って、実は弱いじゃ話にならないぞ。
『大丈夫。今の世界の状況を調べたら、平均的な鍛えた戦士の戦闘力が一、今最強の勇者の戦闘力は五だった』
てことは、最強の勇者の二十万倍か!
それなら最高だ。
『じゃあ、転生させていいね?』
あ、待った。
ついでに最強の俺をちやほやと称える女の子もいてほしい。
『随分欲深いね』
いいだろ。
死んで神様に願いを叶えてもらう瞬間なんだから。
ここで遠慮してどうするんだよ。
『分かったよ。じゃあ次の世界を楽しんで』
声が聞こえなくなり、真っ白だった世界が暗くなった。
光を感じる。
目が開けられそうだ。
薄っすらと目を開けると、そこは何やら狭い部屋だった。
辺りには怪しげな壺や、紫色や黄色の、絶対に飲みたくない色をした液体が入った瓶が並んだ棚が見える。
横を見ると、俺は箱の中に入っているようだった。
もしかして、棺桶か?
「あ! 目が覚めた! さすが天才の私、魂の固定に成功したわ!」
女の子の声が聞こえた。
ちょっとまだ舌足らずな、子供特有の声。
起き上がって振り返ると、声の主がいた。
薄い茶色の髪を後ろに束ね、紫色の大きな帽子とローブを身につけ、杖を持っている。
見た目からして、大体十歳かそこらってところか?
魔法使い遊びでもしている子供のようだ。
「あなたの魂は、この私、天才魔術師ミルファの魔術でここに呼び出されたのよ!」
魔術?
もしかして、異世界か?
この子もコスプレじゃなくて、本物の魔法使い?
さっきの白い世界は、夢じゃなくて本当だったってことか。
てことは、本当に俺は最強の二十万倍、チートクラスの戦闘力を持って生まれ変わったってことか?
「あー」
声を出してみると、ちゃんと声が出た。
なんか前よりもさわやかな声だ。
あの神、なかなか分かってるな。
「声も強そうな声ね」
今度は起き上がってみる。
俺には、手術服みたいなひらひらした布が着せられている。
体を動かしてみると、明らかに筋肉の付きが良くて、動きやすい。
試しに箱の縁に手をかけて、体を起こそうとした。
バキィッ!
「え?」
少し力を入れただけで、箱の縁が粉々に砕けた。
木片が部屋中に飛び散り、棚に並んでいた怪しげな瓶がカタカタと揺れる。
「ちょ、ちょっと! それ、おばあちゃんが使ってた特注の魂固定棺なんだけど!?」
「いや、俺はただ起きようとしただけで」
慌てて手を離そうとしたら、今度は箱の底がミシミシと嫌な音を立てた。
まずい。
そっとしよう。
できるだけ、そっと。
そう思って体重をずらした瞬間、箱が真ん中から真っ二つに割れた。
「……悪い」
「す、すごいわ! 魂が定着したばかりなのに、魔術強化済みの棺を素手で破壊するなんて!」
ミルファは怒るどころか、目を輝かせている。
「ちなみに、それって普通は壊れないのか?」
「普通の人間なら、斧で一日叩いても傷一つつかないわ」
おい。
俺、寝起きで斧一日分超えたのかよ。
「実際俺、強いのかな?」
「私が保証するわ! だって、魂を探すときに、戦闘力が高い魂がないかなぁって思ってたら、急に百万の魂が来たんだもん!」
お、戦闘力、普通にこの世界では通用する単位なのか。
そして俺は百万らしい。
「ちなみに、普通はどのくらい?」
「普通だったら一よ。五もあったら、最強クラスじゃない?」
ミルファが大事そうに水晶玉を持ち出してきて、それを見てなにかをした後に答えた。
おおおおお!
あの神が言ってた通りだ。
俺の異世界無双ライフが実現しそうだ。
てことは、ついでに言っていた女の子も実現するのか?
「本当にすごいわ! 強いって次元じゃないわ。私が天才なことを差し引いても、あり得ないくらいよ!」
ちょっと待て。
今、なんかちやほやされてる気がする。
もしかして、俺をちやほやしてくれる女の子って、このちんちくりんのことか?
確かに女の子ではあるけど、違うだろ!
俺は大人だったんだから分かるだろ!
もっと具体的に条件指定するから、もう一回白いとこ行かせてくれ!
手を合わせたが、何も起きない。
突然手を合わせ始めた俺を、不思議そうにミルファが見つめている。
いや、慌てるな。
別に最初から、ちやほやしてくれる女の子が近くにいなくてもいいんだ。
俺はこの世界最強。
しかも勇者がいる異世界だ。
そこで最強なところを見せれば、いくらでもちやほやされるに決まっている。
そう考えたら、この力を見せつける場を探さないと。
「おい、何かこの世界で問題は起きてないのか? 魔王がいるとか、恐怖の大王がいるとか、魔物が湧いてるとか」
「転生してすぐでよく分かったわね。ここでは、毎週、竜が現れて人々を襲っているの。そして、今週の竜は特に危険」
いいネタがあるじゃないか。
やっぱりあの神、分かってるな。
「おばあちゃんの記録でも、一回しか現れてない本当にやばいやつよ。その名も」
「その名も?」
「エターナルダークネスウルトラスーパーチートミラクルチート最強ホーリーアルティメットレジェンドゴッドハイパーインフィニティカオスブレイブファイナルエンシェントドラゴニックエクスプロージョンチート強すぎデカドラゴンよ!」
「は? なんて?」
「だから、エターナルダークネスウルトラスーパーミラクルチート最強チートホーリーアルティメットレジェンドゴッドハイパーインフィニティカオスファイナルブレイブエンシェントドラゴニックエクスプロージョン強すぎチートデカドラゴンよ!」
長すぎるしダサすぎだろ!
なんか強そうな言葉を並べた、小学生の考えた名前かよ!
なんかチート三回くらい言ったし!
ダークとホーリーがあった気がするし!
一回目と二回目で変わった気がしたし!
最後のデカドラゴンってめちゃくちゃダサいし!
「それ、誰が考えた名前?」
「私よ!」
お前かよ!
そりゃこのちんちくりんなら納得か。
「前はおばあちゃんがつけた名前があったけど、カッコ良くないし、あんまり強そうに見えなかったから、私が新しく考えたの」
「ちなみに、その、おばあちゃんがつけた名前ってのは?」
「常闇をもたらす竜、よ」
「なんか別の中二臭さを感じるけど、ちょっとかっこいいのが腹立つな!そっちのが絶対いいだろ!」
「ダメよ。これじゃ強さが伝わらないわ!」
子供に何を言っても無駄か。
後で黒歴史に気付いて、もだえ苦しめ。
「まあいい。そのドラゴンを倒したら、世界を救うことになるよな?」
「もちろんよ。そのために呼び出したんだもの。戦闘力が高すぎて、普通じゃ倒せないから」
高すぎるって、もしかして百万でも足りないとか?
ちょっと怖くなる。
「ちなみに、いくつ?」
「三百よ!」
「余裕じゃねーか!」
「あなたが強すぎるの。普通は最強でも五なんだってば」
そうだった。
あまりの俺の最強ぶりに、忘れてしまっていた。
「それと、この世界には、冒険者が仲間を集めるようなところはあるか?」
「冒険者ギルドのこと? あるけど」
よし!
異世界お決まりのギルドもある。
そこで俺の活躍を見せつける仲間を探せば、完璧だ。
「別に、仲間なんていなくても余裕だと思うけど?」
「ダメだ。俺の活躍を見せるために必要なんだ」
「あなたが活躍したら、私には分かるからそれでいいじゃない」
「お前じゃ絶対ダメ!」
俺の完璧な異世界生活を果たすため、まずは何とかドラゴンを退治する前に、冒険者ギルドへ行くことにした。
「まあいいけど。でも、この魔術院はおばあちゃんが死んじゃってから寂れちゃったけど、王国一権威ある魔術院よ。ここが出した名前が正式名称なんだから、竜の名前は覚えていってね!」
は?
嘘だろ。
あのクソダサい名前、正式名称なの?




