十四週目 ④
俺たちは、デカドラゴンの現れた黒霧の谷に向かった。
まだ昼間なのに、デカドラゴンに陽が覆われて、辺りが暗い。
デカドラゴンから見たら、俺たちなんて埃みたいな大きさのはずなのに、もう俺たちのことを見つけているみたいだ。
「人間どもよ。我に挑むか」
いつかも聞いた地響きのような声が聞こえる。
またあの時と同じということは、全く同じ個体が何度も現れているわけではないのかもしれない。
でも、そんなことは今はどうでもいい。
とにかくこいつを倒さなければいけない。
俺は、ミルファの用意した戦闘力即倍薬の瓶を一気に飲み干した。
スッキリとした少し甘い味がして、体に力がみなぎってくる。
「セリア、ニック、頼む!」
セリアとニックが、俺に向かって呪文を唱え始める。
しかし、デカドラゴンはその俺に向かって、攻撃をしようとする。
「うあああああああああ!」
そのデカドラゴンに対して、アルトが叫びながらジャンプして、攻撃を仕掛けようとする。
ドラゴンが一瞬、そちらを見て、爪の先を少し動かした。
爆発がアルトの近くに起きて、直撃はしなかったが、空中で爆風を受けたアルトが紙のように吹き飛んでいく。
アルトの奴、また無茶なことを……!
それでも、アルトが一瞬ドラゴンを引き付けてくれたおかげで、二人の魔法が俺にかかった。
俺は、最初に戦ったときと同じように、思い切り剣を振った。
剣の先から、セリアがつけてくれた聖属性の刃が、デカドラゴンの方へ飛んでいく。
ドラゴンの体に刃が当たるが、体の一部に軽い傷をつけただけで、平然とドラゴンは飛び続けている。
そして、ドラゴンは、山のように大きな爪を俺に向かって突き立ててきた。
「二人とも下がれ!」
そう叫びながら、俺は剣で爪を受ける。
ガキン! と音がして、ドラゴンの爪が俺の剣とぶつかる。
ぶつかったまま、拮抗して動かない。
俺は力いっぱい振り切ろうとするが、全力を出しても全く動かなかった。
くそ! 今は力は五分か!
そう思ったが、黒い爪の表面が、聖属性に焼かれたように白く濁っていく。
力は五分でも、セリアの聖属性が効いてる!
そのままお互いに爪と剣を引き、また振り下ろされる爪と打ち合い続ける。
これは、アルトがブリザードドラゴンでやってたのと同じだな。
打ち合いながらも、ふと思う。
このまま続ければ、少しずつ属性の効果で有利になるはずだ。
しかし、そのまま続けていると、ドラゴンに俺の狙いがバレてしまったのか、それとも埒が明かないと思われたのか、ドラゴンが爪を振り下ろすのをやめ、再び空高く舞い上がった。
空を飛ばれても、衝撃波なら飛ばせる……!
俺は、剣を振り続けて聖属性の衝撃波を何度も飛ばし、それがドラゴンの体に小さな傷をつけ続ける。
ドラゴンは俺の攻撃を無視して、体を震わせた後、辺りに爆発を引き起こしながら、口から何かを放ってきた。
それが通った後は、その部分が黒い空間のようになる、あたかも黒い光線のようなものだ。
速くて避けられそうになかったので、俺は前に剣を構えて備えた。
光線は剣の表面で左右へ弾け、何とか俺の体までは届かなかった。
だが、数秒受けた後、突然爆発し、目の前が白くなった。
空と地面が回転し、俺が吹き飛ばされたことに気付く。
体は痛むが、まだ戦えそうだ。
立ち上がり、また剣を構えるが、少し体が重く、剣の先の光が消えている。
まずい、二人にかけてもらった魔法が解けている!
そこに、また爪が振り下ろされる。
また剣で受けるが、今度は明らかにドラゴンの力が強く、俺は受けきれずに弾き飛ばされた。
「セリア! ニック! もう一度頼む!」
俺が叫んだが、その叫びが終わる前に、俺の体が光に包まれた。
後ろに逃げろと言ったのに、ずっと近くで魔法の更新のタイミングを探っていたらしい。
助かったが、無茶すぎる。
今の世界の平均戦闘力は8192。だいぶ高くなったとはいえ、デカドラゴンや俺と比べたら、あまりにも低い。
何か一発でも巻き込まれたら、無事では済まないかもしれない。
それなのに。
でも、俺はもう一度下がれとは言わなかった。
そのまま、再びかけてもらった光をまとって、もう一度ドラゴンに向き合い、衝撃波を飛ばす。
また振り下ろされた爪と何度か打ち合い、少しずつまたドラゴンの爪を白く染める。
衝撃波も、爪との打ち合いも、全く効いてないはずはない。
戦闘力では拮抗していて、属性では俺の方が有利なんだ。
ただ、相手の体があまりにもデカすぎて、ダメージが決定打に全くならない。
このままだと、またあの光線でダメージを受けたり、魔法が解けた隙のダメージで、ジリ貧になる……。
それに、二人のどちらかが巻き込まれて魔法が使えなくなっても、魔法の更新ができなくなる。
そうなったら、もう勝てない。
どうにかして、隙をついて決定打を与えないと。
でも、ドラゴンと向き合ったままでは、その隙が作れそうもない。
とりあえず衝撃波を何度も飛ばしながら、隙をうかがうが、ドラゴンも今のまま行けば優勢だと分かっているのか、動きを変えてこない。
またドラゴンが飛び上がり、あの光線の動作に入った。
くそ! あれは受けきれない!
俺は全力でダッシュして、黒い光線が近づくと同時に、前に飛び込んだ。
頭上近くを光線が過ぎ去り、爆風が俺に襲い掛かる。
それにまた吹き飛ばされるが、さっきよりダメージは少なくて済んだ。
でも、やっぱりジリ貧。
また剣を構えながら、頭で作戦を考えようとするが、何も浮かばない。
俺がドラゴンに向き合って動けないでいると、突然ドラゴンが俺とは違う、自分自身の体の方を向いた。
ドラゴンの視線の先をよく見ると、アルトがいつの間にかドラゴンに飛びついて、剣を突き立てている。
おい……! 無茶が過ぎるぞ!
さらにドラゴンがまた違う方向を見た。俺とは違う方向の地面。
そちらを見ると、さっきまで俺の後ろで構えていたはずのニックとセリアが、ドラゴンに向けて弓矢と攻撃魔法を放っていた。
くそ! アルトの時は補助に徹して攻撃しないって言ってたのに、なんでだよ!
ドラゴンが、二人の方に光線を放とうとする。
どうする、守りに行かないと!
そう思ったときに、アルトが戦っていた時のセリアの言葉を思い出した。
ドラゴンに攻撃して、ドラゴンがセリアの方を向いたら、アルトの隙になる。アルトはセリアを守ろうとするから。
セリアはその時はそう言っていたのに、攻撃をしている。
俺が守りに行ったら、ダメだ。
この隙は、攻撃に使わないと!
ドラゴンがセリアたちを向いている隙に、俺は大きくジャンプして、ドラゴンの顔付近に飛び上がった。
そのまま、ドラゴンの頭の上に着地する。
ドラゴンが気づいて頭を振ろうとするが、もう遅い。
俺は、そのまま剣を思い切りドラゴンの頭に突き刺した。
「ギィィィァァァ!」
あの地響きのような叫び声が、辺りに響き渡った。
よし! 初めて与えた決定打だ!
そのまま突き立てた剣を何度も振るおうとしたが、ドラゴンが頭を大きく動かすと、突然俺が乗っていたドラゴンの頭部で爆発が起きた。
俺は、まともに受けて、空に舞い上がる。
どれほど続いたか分からない浮遊感があった後、ドサッと音がして、突然体に強い痛みと重みを感じた。
高く飛んでいたドラゴンの上から、まともに地面に落ちてしまったみたいだ。
くそ、体が動かない。
動けない俺に向けて、爪が振り下ろされる。
爪が俺に当たる直前で、爪に小さな爆発が起きて、俺の顔の横の地面に爪が突き刺さった。
ドラゴンがまとってる爆発で照準が逸れたか?
一瞬そう思ったが、横を見ると、杖を構えるセリアが見えた。
そして、俺のそばにニックが駆け寄ってきた。
「ルインさん、これを!」
そう言って、俺に回復薬を飲ませてきた。
俺は倒れたまま、何とか回復薬を飲み込んだ。
すると、不思議なことに、さっきまでは全く動かなかった体に、また力が湧いてきて、痛みも引いた。
すごいな……。ミンダレイさんの薬は。
感心しながらも立ち上がると、またセリアとニックが俺に魔法をかける。
さらに俺の体が軽くなる。
ドラゴンが、また爪を振り下ろそうとしてきた時、飛んでいるドラゴンの体が少しよろめいて傾き、不安定になった。
ドラゴンが自分の体の方を見る。
そこには、ずっとしがみついて剣を何度も突き立て続けたアルトがいた。
「ガァァァァ!」
ドラゴンが怒りの叫びとともに、そこに爆発を起こし、アルトが吹き飛ばされた。
しかし、その時には俺は、空高くジャンプして、ドラゴンの顔の前まで飛んでいた。
「二回も俺から目を離すとは、学習しないな!」
そう言って、思い切り剣を頭上に構え、上から下に振り下ろした。
ドラゴンは、とっさに目の前の俺へ光線を吐き出して対抗しようとしたが、間に合わない。
俺の剣が、ドラゴンの顔を思い切り切り裂いた。
さらに、俺はそのままブンブンと剣を振り回して、追撃を続けた。
「グオォォォォォ!」
と叫び声を上げながら、深い傷を何度もつけられたドラゴンは、ついに空から墜ちた。
同時に着地した俺は、またジャンプをして、今度は落ちたドラゴンの胴体の上に飛び、着地の勢いで剣を胴体に突き刺す。
剣が胴体の奥深くまで刺さると、そのままドラゴンは動かなくなり、光に包まれ、ドラゴンの体が少しずつ消えていった。
「倒した……!」
俺はつぶやいて、さっき吹き飛ばされたアルトのことを思い出す。
「アルト! 大丈夫か!」
「ああ……なんとかな」
遠くに倒れたまま、かすれた声でアルトが答えた。
俺たちがアルトの近くに寄ると、本当にアルトはボロボロだった。
「全く、さすがに無茶しすぎだろ」
「これくらい、なんてことないさ」
「何カッコつけてんだよ」
ニックが、アルトに近寄って回復薬を飲ませると、アルトは体を起こした。
「本当にすごいな、これ。普通に動けるようになった」
「薬があるからって、あんなことするなんて」
セリアがちょっと非難するように言う。
「いや、セリアも人のこと言えないだろ。何でドラゴンを攻撃してるんだよ」
俺が思い出して言う。
「一番人のこと言えないのは、ルインさんでしょ」
横からニックに言われる。
「ああ、そうだそうだ。あんなに正面からドラゴンと打ち合いやがって」
さっきまで倒れてたくせに、アルトがニックに加勢してきた。
「あれはお前の戦い方を思い出して真似したんだよ!」
「ああ、それであんな無茶な戦い方を。納得しました」
「納得すんなよ!」
「結局、みんな無茶してたってわけね」
セリアがそうまとめると、ふと笑いが込み上げてきて、皆で笑い合った。




