十四週目 ⑤
デカドラゴンを倒した翌日、また凱旋パレードが開かれていた。
神輿のような台の上で、先頭に立ったリーダーのアルトが、伝説の勇者として再び称賛を受けている。
前回は全く納得いかなかったが、今回は納得だ。
アルトがいなければ、デカドラゴンは倒せなかった。
アルトが、ドラゴンにしがみついて攻撃し続けてドラゴンの隙を作るという、一番危険で、一番重要な役をやった。
それに、パーティリーダーでもある。
名実ともに、伝説の勇者で間違いない。
凱旋パレードが終わると、俺たちは人混みから離れて、人目につかない所に来た。
「ふぅ~。さて、俺たちも宿に帰るとするか」
アルトが疲れたように言う。
ん?宿?アルトはあの、うらやま宮殿に住んでいるはずじゃ。
「お前、あの宮殿はどうした?」
「え、あ、あれな、ちょっとな」
「アルトは、お金がなくなったんですよ。さすがにあそこのレンタルをずっと続けるのは無理ですから。あ、でも、今回のお金でまた借りられるのかな」
アルトが言葉を濁していたら、ニックが言った。
「え?あれ、レンタルなの?レンタルだったの?」
「当然じゃない。あんな宮殿、すぐに建つはずないもの。昔の王宮を貸し出して、財政の足しにしてるのよ」
た、確かに。よく考えたらそうだ。
くそっ!完全にアルトだけ、あのうらやま宮殿を与えられたと思ってた。
「でも、あの王侯貴族ごっこも楽しかったわ。アルトが急にあんなの借り始めるから、急に周りの注目を浴びておかしくなっちゃったのかと思ったけど、よく考えたらそんなに長く借りられるわけないものね」
なんだよ。王侯貴族のふりをする、ごっこ遊びだったのかよ。
アルトが理想の生活を手に入れてると、完全に騙されてたぞ。
「あ、ああ、当然だ。当然俺も、ごっこでやったし、金がそんなにもたないことも分かってたぞ」
アルトがしどろもどろになりながら、目を泳がせて続けた。
おい。こいつ、やっぱりあの時は調子に乗っていて、本気であのうらやま宮殿の生活を続ける気だっただろ。
「でも、伝説の勇者って割に、そこまで報酬は多くないんだな。あのすごい宮殿とはいえ、数か月でなくなっちゃうなんて」
「あら、伝説の勇者は、あのドラゴンを倒した称号みたいなものだもの。事前にどのドラゴンが来るか分からないんだもの。ドラゴンは一律、最高ランクのSS級報酬よ。というか、ルインはあの後、毎週ドラゴン退治してたはずなのに、何で知らないのよ」
え、そうなの?今さら明かされる真実が多すぎる。
「それに、最初の報酬は四分の一ですしね」
「え?四分の一?」
「当然じゃない。四人パーティなんだもの。みんなで均等に分けるのが普通でしょ」
え、俺も同じ額もらってたの?
デカドラゴンはすごいからめちゃくちゃ金額が多くて、うらやま宮殿を実現できると思ってたのに。
「毎週一律ってことは、それ以降、俺、それの四倍もらってたってこと?」
「そうよ。だから、何で知らないのよ」
「え、俺、この世界のお金よく分からなくて、ミルファに全部渡してたから……」
「なるほど。それで魔術院に、新しくてすごい魔具がいくつかあったんですね」
おい!ミルファのやつ、俺の稼いだ金、魔具に使ってんじゃねぇか!
許さん。ミルファがそういうつもりなら、俺にも考えがある。
「なあ、みんな。デカドラゴンを倒した週は屋台が大量に出るだろ。明日から、屋台巡りしないか?全部、ミルファの奢りだ!」
「何でルインが決めてるのよ」
「ふふ、あいつなら、魔術院の院長は弟子に奢るものだって言えば、絶対奢る」
「はは、それはいいな。俺も弟子になっておいて良かったぜ」
今度は弟子全員で、屋台巡りをすることになった。
一週間丸々奢らせてやるからな。覚悟しとけよ。
「そういえば、今の報酬は、昔よりはだいぶ少ないらしいですよ」
「そうなの?」
「ああ、俺もそれは聞いたことあるな。なんでも、昔の勇者が、ドラゴン退治のための魔術開発に金がいるとか、王国中に後継者を育てる道場を作るために金が要るとか、いろいろ言って報酬を要求しすぎたせいで、国の財政が危なくなって減額されたらしい」
それ、完全にミンダレイさんとガルドさんじゃん。お前もガルドさんの弟子なんだから気づけよ。
二人とも、すごい人だけどめちゃくちゃな人だな。逆か?めちゃくちゃだからすごい人なのか?
「さっき言ったレンタルも、その分を補填するために始まったらしいわよ」
そうなの!?まさか、うらやま宮殿もあの二人が関係してたの!?
さっきから、明かされる世界の真相が多すぎて、頭がパンクしそうだ。
「じゃ、また明日な」
話しながら歩いていたら、いつの間にか宿に近づいていたので、俺はみんなと別れて、ミンダレイ魔術院に帰った。
「あ、おかえりなさい!今回も常闇をもたらす竜を倒すなんて、本当にすごいわね!」
結局、俺をちやほやしてくれるのは、こいつだけか。
「というか、結局、常闇の方で呼ぶのかよ」
「当然よ!正式名称を毎回言ってたら、疲れるじゃない!普段は略称を使うわよ!」
「略称?」
「そうよ!ギルドにも、今後は竜を正式名称と略称の二つで呼ぶことにするって通達したわ!おばあちゃんのつけた名前が略称よ」
「略というか、全然違うけどな」
「それはいいの!正式名称と略称、どっちも大切にするっていう、魔術院の方針なの!」
まあ、名前が全然違って略になっていないことを置いておけば、その方針自体は、俺もすごくいいと思った。
そして俺たちは、机に置いてある水晶玉の方に、自然と向き合った。
「ルイン、これ、あなたが壊して」
「いいのか?」
「私が壊す方が、もっとつらいもの。それに、あなたは今でも平均の百倍以上強いんだから、簡単に壊せるはずよ」
そうだな。
ミルファがそう判断したなら、その方がいい。
「じゃ、いくぞ」
「うん」
ミルファが頷いたのを見て、俺は水晶玉を少し強く叩いた。
バリン、と音を立てて、ミルファが十年間、毎日魔力を込め続けた水晶玉は、簡単に割れて、ばらばらになった。
ミルファは何も言わず、奥から箱を取り出してきて、水晶玉の破片を一つも残さないように慎重に、箱の中に全て入れた。
そして、全部の破片が入ったことを確認した後、箱を大事そうに棚にしまった。
ミルファは俺の前に戻ってきたが、何も言わず、しばらく沈黙が流れた。
「なあ、ミルファ」
「何?」
「明日、みんなで屋台に行こうって話をしたんだ。お前も来るよな?」
「当然よ!明日は、私の奢りよ!」
「え?」
「魔術院の院長は、弟子に屋台を奢るものなのよ!」
そう言って、ミルファは偉そうに胸を張った。
まさか、自分から言い出すとはな。好きなだけ食ってやろう。
「あ、そうだ。大切なことを忘れていたわ!」
「大切なことって?」
「あなたの称号を更新しないと!」
「称号?いいって、そんなの」
「ダメよ!」
ミルファはそう言って、少し考えた後、高らかに宣言した。
「あなたの称号は、最強勇者よ!」
なんだか普通の、短い称号になっちまったな。
でも、これも悪くない。
完
【十四週目の戦績】
ルインの戦闘力:1,000,164
世界の平均戦闘力:8,192
現在の称号:最強勇者




