十四週目 ③
「今週の竜は、常闇をもたらす竜よ」
アルト、セリア、ニックの三人も魔術院に到着し、俺たちは全員で、ミルファの水晶玉の魔術を見ていた。
ミルファが、全員の前で、淡々と竜の名前を告げた。
「ほんと、その水晶玉、綺麗ね」
セリアが、ミルファの水晶玉を見て、しみじみと言う。
ミルファは、嬉しそうな、寂しそうな様子だ。
「おい、ミルファ、何だよそれは!」
俺はそれを見て、少し強い調子でミルファに声をかけた。
ちょっとミルファは驚いたようで、ビクッとしてから、
「何って何よ?そんな声出して」
と答える。
やっぱり、そんなんじゃダメだ。
そんなビクビクして、全然ミルファらしくない。
こんな湿っぽい魔術発表なんて、全然ミンダレイ魔術院らしくない。
「なあ、お前は、ミンダレイ魔術院の院長なんだろ。それなのに、自分の一番好きな魔術をそんなにつまらなそうに俺たちに披露するのか?そんなんじゃ、誰も弟子になんかなりたくならないぞ」
俺が言うと、ミルファは目を見開いている。
「それに、ドラゴンの名前もそうだ。俺はお前から、そんな名前を聞いたことがない。魔術院の発表で、正式名称を言わないなんて、おかしいだろ」
ミルファの顔が、少しだけ、重荷を背負った魔術師から、いつもの顔に戻ったような気がした。
「何よ!今のは、おばあちゃんの魔術院の再現をしていただけよ!次が本番だわ!」
ミンダレイさんは、自分でドラゴンを退治していたんだ。
弟子の前で、ドラゴンの名前を披露するはずがない。
でも、俺は何も言わなかった。
そして、ミルファはもう一度、水晶玉に魔力を込めた。水晶玉が淡く光り、それをミルファが覗き込む。
ミルファは、顔を上げると、笑顔で高らかに宣言した。
「今週の竜は、エターナルダークネスウルトラスーパーミラクルチート最強チートホーリーアルティメットレジェンドゴッドハイパーインフィニティカオスファイナルブレイブエンシェントドラゴニックエクスプロージョン強すぎチートデカドラゴンよ!」
うん、そうだ。その方がよっぽどお前らしい魔術院だ。
「なあ、デカドラゴンってルインが最初に言ってた……」
「そういうことだったのね」
「ルインさんらしいですね!」
三人も、賑やかさを取り戻した。
「ああ、そうだな。あのドラゴンは、そのくらいの名前の方が合ってる。あれは本当にありえないデカさだった」
「お前、しりもちついてあわあわ言ってたもんな」
「おい!お前!ここでそれを言うのかよ!」
「ふふふ、私も途中で気絶しちゃったわ」
「僕なんて、何が起きてるのか分からなさすぎて、逆にぼーっとしてましたよ!」
「くそ、ニックだけまともに立ってるなんてって、ずっと思っていたのに、そういうことだったのかよ!」
皆がひとしきり最初のデカドラゴンの時のことを語り終わった後、俺が言う。
「よし、デカドラゴン退治に行くぞ!」
皆が、それに応じて立ち上がる。
「ちょっと待ちなさい、これを持って行って」
ミルファも立ち上がり、皆に薬を二つずつ渡した。
一つは、前にもらった戦闘力即倍薬だ。もう一つは見たことがない。
「これは?」
「おばあちゃんが遺していた、戦闘で受けたどんな傷も、一日一回だけ完全に治す薬よ」
「名前は?」
「回復薬」
なるほど、そんな薬の名前なら、一番ふさわしい名前だ。
俺たちは二つの薬を受け取り、ギルドへ向かった。
パーティリーダーのアルトを先頭に、俺たちはギルドの受付嬢の前に行く。
俺たちの登場で、普段から騒がしいギルドが、さらにざわめきを強めている。
「勇者様、今回も、あれを討伐していただけるのですか?」
受付嬢が、アルトに向けて問う。
「ああ、当然だ。俺たちは、」
アルトは、そこで言葉を切り、俺たちの方を振り返る。
それに合わせて、俺たち四人全員で高らかに宣言した。
「「「「エターナルダークネスウルトラスーパーミラクルチート最強チートホーリーアルティメットレジェンドゴッドハイパーインフィニティカオスファイナルブレイブエンシェントドラゴニックエクスプロージョン強すぎチートデカドラゴンを退治する!!!」」」」
それを受けて、騒がしかったギルドがシンと静まり返った。
笑うなら笑え。これが、ミンダレイ魔術院の現院長がつけた、正式名称だ。
おい、今のって。
前にルインが言ってたやつだよな。デカドラゴン。
でも、今回は全員で言ってたぞ。
勇者様も言うなんて、こっちが本当なのか?
名前なんてどうだっていいだろ!とにかく、あれを退治してくれるってことだよ!
誰かの言った最後の一言に押されて、一気にギルドが、うおおおおおお! と大歓声に包まれた。
俺たちは、歓声に包まれながら、ギルドを後にし、デカドラゴンの討伐へ向かった。




