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十四週目

 手紙を出してから数日後、ミルドさんから返事が来た。

 突然変な手紙を送ったので、返事はもらえないかもしれないと思っていたが、無事にもらえて安心した。


 それに、返事が来たということは、ミルドさんはやっぱり神器のことを知っていた可能性があるということだ。

 早速、中を開いた。


『ルイン様、


家を数日空けており、返事が遅れてしまって申し訳ありません。

母の魔術について、ルイン様のご推察通り、私は、母から神器を預かっています。

母の魔術の内容も知っています。


しかし、神器は魔術に使われてはいますが、直接的に魔術を発動した道具ではありません。

魔術は、神器の力を活用するための、母が作った別の魔具を使って発動されています。

その魔具は、今もルイン様が住む、魔術院に置かれており、ルイン様もご覧になったことがあるかと思います。


恐らく今も、ミルファがずっと大切にしている、あの水晶玉です。

母から託された紙を同封します。詳細は、そちらをご覧ください。


そして、私的なことで大変恐縮なのですが、ルイン様にお伝えしたいことがございます。


一点目は、竜退治についてです。

私は、母とは違う形で、竜と戦おうと、竜が現れる原因をずっと探っております。

少しずつ、分かってきていることはあります。

しかし、母が竜と戦える間に、母が生きている間に、母の魔術の効果が切れる前に。

そう言って自分に課した期限を何度も伸ばしながらも、いまだにその原因を特定できておりません。

結局、私は、竜退治の重荷を、誰からも解き放つことはできませんでした。

今、ルイン様が竜退治のために母の魔術の止め方を探っているということは、今はルイン様がその重荷を担っているのだと思います。

この私が、礼を言う資格などないことは承知しております。

しかし、それでも言わせてください。

竜退治の重みを担っていただいて、ミルファが無事に暮らせる世界を守っていただいて、本当に、ありがとうございます。


そして、二点目はさらに私的なお願いになってしまうのですが、もし、ミルファに同封した紙を見せる場合は以下のミルファ宛ての手紙も、見せていただければ幸いです。


ミルド』


 そして、その下すぐに、続けてミルファへの手紙が書いてあった。


『ミルファ、


父さんは、子供の頃に、竜退治の重荷を背負いきれなくて、杖を折って、魔術師になる道を諦めた。

その時期は、おばあちゃんのことを恨んだこともあった。

そしてそれ以来、ミルファの知る通り、魔術からは離れていた。


でも、それからは、今も、父さんは、おばあちゃんのことを、母としても、魔術師としても、重荷を背負い続ける人としても、ずっと尊敬している。

おばあちゃんは、今でもずっと、父さんの誇りだ。

そして、ミルファと同じように、おばあちゃんのことが、大好きだ。


これを口でおばあちゃんに直接言えば良かったのに、言わなかったから、おばあちゃんにあんなことを書かせてしまった。

おばあちゃんに、竜退治の重荷以外にも、背負わせてしまった。


そして、水晶玉のことは、自分にはやるべきことがあると言い訳して、ミルファに背負わせてしまった。

自分は重荷から逃げておいて、本当に悪いことをしてしまった。

どう謝っても謝り切れないが、謝らせてほしい。


父さんより』


 ミルドさんは、やはりあの魔術の内容を知っていたみたいだ。

 そして、何よりあの戦闘力を見るために使っていた水晶玉が関係しているらしい。


 同封している紙を見ないと、ミルファ宛ての手紙のことも、よく分からない。

 とにかく、そちらを見ることにした。


 そちらの紙は、文字がミルドさんの手紙と違い、日記で見たミンダレイさんの字だった。

 これは、ミンダレイさんが書いたもののようだ。


『ミルドへ


最期まで、竜退治のことで本当にごめんなさい。

お前が竜退治のことも、魔術のことも、見たくないのは分かっている。

それでも、お前の他に、これを託せる人はいない。


まず一つ。私の寝室のベッドの裏に、隠し扉がある。

そこに、握り拳くらいの物が入っている。

これが何なのかは、正確には私にも分からない。

でも、その複雑で精巧な作り、年月を経ても全く色褪せない、そして、世界を揺るがすほどの効果を持っている。

私はこれを神器と呼んでいる。

古代から、もしくはそれ以前の神代の時代から存在したとしか思えない、それほどの物だ。

もしかしたら、お前の研究にも役に立つかもしれない。

調べても良いが、厳重に、傷つけたりすることがないよう、保管してほしい。


この神器は、世界の強度というべきものを変える力がある。

私が分かった範囲で、その内容を別の紙に書いておいた。

読みたくはないだろうが、お前なら読めば理解できるだろう。


そして二つ目、私は、この神器を使って、魔術を開発して、発動した。

竜退治にかかわる魔術だ。

この魔術によって、この世界は、毎週二倍の強度になっている。

全ての人も、物も、動物も、全てだ。

しかし、一度呼び出された竜だけ例外で、そのままの強さだ。

この魔術の効果で、竜を倒すのが一週間たつごとに二倍楽になるようになっている。

私がいなくなっても、この魔術があれば、以前のような惨事になることは防げるはずだ。


この魔術は、世界の形を模した水晶玉を介して、神器の力を使うことで発動している。

ミルファがお前に自慢して見せていた、あの水晶玉だ。


お前も知っている通り、魔具は、一定期間魔力を込めないと、その力を失う。

お前には、あの水晶玉に、魔力を込め続けるのをお願いしたい。

魔力を込め続ければ、魔術は、ミルファが十六になるまでは続くはずだ。

一か月に一度、魔力を込めれば持続する。

ただ魔力を込めればいいだけだ、五歳の子供でもできる。

お前なら簡単だろう。

今は、ミルファが毎日のように魔力を込めているから、その必要はない。

ミルファが魔術をやめて、魔力を込めるのをやめた時は、お前に引き継いでほしい。


水晶玉の状況を遠隔から確認し、あと何日以内に魔力を込めればいいのかを確認する魔具も、同封してある。

これは、簡単な魔具だから、ミルファが十六になるまでなら、一度も魔力を込めずに済むはずだ。

魔具なんて手元に置きたくないだろうが、これを手元に置いて、ミルファが魔力を込めていないようだったら、水晶玉に魔力を込めておくれ。


そして三つ目、もし、意図的にこの魔術を止めたくなった場合は、神器に触れてはいけない。

水晶玉に一か月魔力を込めなくても止まるし、水晶玉を破壊しても止まる。


神器は、破壊したら何が起こるか分からないが、水晶玉は、私が開発した普通の魔具だ。

壊せば、魔術は止まり、世界の強さは長い長い時間をかけて、元に戻るだろう。

規模は小さいものだが、同じものを一度発動して壊す実験は行ってある。


止めるときはよく考えて止めてほしい。

この魔術は、竜を倒すために、私が必要だと思って発動した魔術だ。

だが、世界全体に影響を与える魔術だ。後世にかえって迷惑をかける可能性がある。

私の魔術がもう不要だと思ったら、止めてかまわない。


お前に託したいことは、以上だ。


お前には、小さいころから、竜退治の魔術ばかりを教え込んでいた。

好きな薬の一つや二つ、作らせてあげれば良いものを、それすらも許さなかった。

お前が、魔術のことも、竜退治のことも、私のことも、嫌いになるのは当然だ。


それなのに、また最期に託すのは、また竜退治のこと。

それに、ミルファにも、最初に教えた魔術は、よりによって水晶玉の魔力の込め方だ。

息子にも、孫にも、竜退治のことばかり。


お前には、謝っても謝り切れない。

そんな母だが、もうこれが、最期のお願いだ。

もうお前に、何かをさせることはずっとない。

どうか、頼まれてほしい。


母より』


 ミンダレイさんの手紙、いや、これは、遺書だろうか?

 とにかくそれで、魔術の解除方法は分かった。

 ミルファがいつも眺めていて、俺も戦闘力をずっと聞いていた、あの水晶玉。

 あれを壊せば、魔術が止まるし、何も副作用のようなものは起きないようだ。

 これを見た後で思えば、あの水晶玉は、おかしかった。

 板のように、竜の力を測るのは分かる。

 でも、世界の平均戦闘力が分かるのは、世界が二倍になるのを前提にしている。

 俺は便利だと思っていたけど、普通だったら、そんなもの頻繁に変わるものじゃないし、意味がない。

 魔術の効果が分からないと、できないものだ。


 それが分かれば、後は簡単。簡単だ。

 あのミルファの水晶玉を壊せばいい。それだけ、簡単な話だ。


 後は、先に読んだときによく分からなかった、ミルドさんのミルファへの手紙の意味も分かった。

 ミンダレイさんの遺書では、ずっとミルドさんに謝って、自分を責めている。


 でも、ミルドさんは魔術から離れていたとしても、これを頼まれたら、普通に引き受けることくらい、分からなかったのだろうか?

 ミルドさんは、魔術師にはならなかったけど、生涯をかけて竜退治につながる仕事をしている。

 それに、本当にミンダレイさんや魔術や竜退治が、一瞬も見たくもないほど嫌いなら、ミルファを、自分の娘を、ミンダレイさんに預けて魔術を教えてくれなんて、言うはずがないじゃないか。

 俺でも簡単に分かることなのに、どうしてミンダレイさんは分からなかったのだろう。

 ミンダレイさんは天才魔術師で、俺なんかよりもずっとずっと頭がいいはずなのに。


 ミルドさんができるだけ魔術を使わなくてもいいように、追加の魔具まで作って。

 そんなことしなくても、竜退治のために必要な魔術なんだ。

 今はミルファが続けているからやらないだけで、そうじゃなかったら普通に引き継いだだろう。


 天才なのに、ミンダレイさんは、ずっと若いころ、ミルドさんが十八の頃に囚われてしまって、それが分からなくなってしまったのか?

 俺には全然分からない。


 それに、ミルドさんが俺に重荷を担うと言っているのも、よく分からない。

 竜退治で感謝されるのは分かるが、別に俺は、やれと言われてこの竜退治を始めたわけじゃない。

 最近は、退治できなくなるかもしれないと少し焦っていたけど、ちやほやされたくて始めただけだ。


 全然分からなかったが、とりあえずミルドさんには、思ったまま返事を書いて、魔術院に帰ることにした。

 返事の内容は、こんな感じだ。


『ミルド様、


ありがとうございます。魔術の解除方法が分かりました。


私は、特にドラゴン退治を重荷とは思っていません。

ただ、自分がやりたくて始めただけです。

それに、今は一人では難しくなってきたので、ミルファさんや他の魔術院の仲間たちと一緒にやってます。


ミンダレイ様の魔術が解除できれば、当分はドラゴン退治を続けることができそうです。


でも、その後はドラゴン退治は誰かの重荷になるかもしれません。

だから、ミルド様は、引き続きドラゴンの現れる原因を探してください。


ルイン』


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