十三週目 ③
俺たちは、依頼を受けてきたあと、ドラゴンと戦う前に作戦会議をしていた。
「なあ、ミルファ、今週のドラゴンの戦闘力は?」
「五万よ!」
「もう数字聞いてもわからなくなってきたな。世界の平均は?」
「四千九十六ね、今週の竜は大体平均の十二倍よ!」
「それなら、これまでのドラゴンと比べたら弱い方か」
俺とミルファが、いつもの戦闘力の話をしていると、
「お、おい。ちょっと待て。何言ってるか全然わからん」
アルトが横から口を挟んできた。
そうだった。この戦闘力は、伝わらないんだった。
何か説明方法を考えないと……。
と思ったが思いつかなかったので、もう魔術になると急にまともになるミルファ先生にお任せしよう、とミルファの方を見る。
「全く、仕方ないわね!おばあちゃんの開発した魔術で、普通の冒険者を基準にして、竜がどのくらいの強さかわかるのよ!」
なるほど、世界の平均値の値とかの説明は省いてしまって、何倍かわかるって話にすればいいのか!
くそ、またミルファに感心してしまった。悔しい。
「なるほど。さすがは伝説の魔術師だ。それで、俺は勝てそうなのか?」
「それは分からないわ!」
「え?ミルファ、普通に俺の戦闘力測ってただろ」
「これは、元々竜の戦闘力を測るためのものみたいなの。ルインも召喚されてきたからたまたま測れただけで、他の人の戦闘力はわからないわ」
そういうものなのか。だとすると、アルトの力がドラゴンより強いかどうかがわからない。
弱いドラゴンだし、大丈夫なのだろうか。
「ガルド師匠に聞いてみるのはどうだ?俺に修業をつけてくれているし、ドラゴンとも戦ったことがある」
確かに、ガルドさんなら、ミンダレイさんの板で数値としてもドラゴンの強さを知っているし、一番適任そうだ。
「出かけるなら、これを持っていきなさい」
そう言って、ミルファは水色に少し黄色がかったような液体が入った瓶を取り出した。
「この色、もしかして戦闘力即倍薬か!?ついに完成したのか?」
すごいぞミルファ。戦闘力が倍になれば、俺の強さも実質一週間延長されたようなものだし、これは大きい。
「同じ薬の重ね掛けは結局できなかったけど、属性魔法や補助魔法との重ね掛けなら、大丈夫なはずよ!」
「本当にすごいです!僕の魔法よりも、ずっと強くなるのに、反転作用だけじゃなくて、反発作用も抑えられたなんて!」
「ええ……。それもこんな短時間でなんて……」
弟子であるセリアやニックから見ても、相当な難易度だったらしい。俺も一応弟子ってことになってるけど、それはさっぱりわからない。
「この天才魔術師なら、当然よ!」
ミルファが、胸を張りすぎて逆にきつそうな体勢になって言った。
元々この調子なんだから、褒めすぎたらそのうちひっくり返るんじゃないか。
俺たちは、薬を受け取ってガルドさんの道場へ向かった。
「アルトが一人で竜を倒せるほどの実力があるかって?それは無理だ」
ガルドさんに聞くと、即答された。ドラゴンの種類も言ってないのに。
「師匠、そんな……。やっぱり俺じゃ駄目なのか……」
アルトがそれを聞いて落ち込んでいる。
「気に病むことはない。アルトは、十分に優秀だ。昔の私やミンダレイさんのように、一人で竜と戦う方が、異常なのだ。自分で言うのもなんだが、この領域は、死線を越え続けて初めて身に着く力。ミンダレイさんは、屍の山の上に立っていると、よく言っていた」
ミンダレイさんの日記に書いてあったことと同じだ。やっぱり、ドラゴンを倒す力は、壮絶な戦いを経ないと身に着かないものなのか。
「でも、師匠、それじゃどうすれば……」
「何を言っている。その答えは既に見つけているだろう?私は、一人で倒すのは無理だと言ったのだ。仲間の力を借りれば、その限りではない」
「そ、そうか!そうですよね!」
うなだれていたアルトが、ガルドさんの言葉で再び顔を上げた。
「ちなみに、ガルドさん、今週のドラゴンはブリザードドラゴンなんですが」
「ブリザード……氷雪を散らす竜のことかな。今のアルトなら、協力して戦えば十分に可能性はあるだろう」
俺が聞くと、そう答えてくれた。
その後、ガルドさんにブリザードドラゴンの特徴をいろいろと聞いて作戦会議をした後、ドラゴン退治に向かった。
本当は、俺以外の三人だけで全ての戦闘をするのが本来だが、それだとアルトにセリアとニックが魔法をかけるまでの時間が危険だ。
事前にかけておけばとも思ったが、効果時間はそれほど長くないらしい。
最初は俺がドラゴンを引き付けておいて、魔法をかけ終わった後にアルトと交代する手筈となった。
ブリザードドラゴンは、体中を覆う白い毛が薄い氷をまとっている、三十メートルくらいはありそうなドラゴンだった。
今まであまりにもデカいドラゴン達と戦ってきたから、かなり小さく感じるが、改めて考えると相当な大きさだ。
水とか氷系というと、俺の感覚だと炎に強いという印象だったが、こいつは炎の熱で氷が溶かされると動きが鈍くなるから炎属性が有効らしい。
手筈通り、俺がブリザードドラゴンの前に立つ。
ドラゴンは、俺を見ると大きく息を吸い、氷の息を俺に放ってきた。
今回は、引き付けるのが目的だ。俺は、顔を守るように両腕を交差して氷の息を受ける。
つめた!
氷水に手を突っ込んだ時のような痛みを少し感じるが、我慢できないほどではない。
そのまま、氷の息が終わるのを待ち、またドラゴンの前で剣を構える。
次は、ドラゴンが腕を繰り返しふるってきたので、何度か剣で受け流して時間を稼ぐ。
そうしているうちに、後ろで魔法がかけ終わったようだ。
「ルイン!替われ!」
アルトの声がして、俺は一気にジャンプしてドラゴンから離れた。
アルトは、セリアの属性魔法がかかった炎の剣を持って、飲み干した戦闘力即倍薬の瓶を投げ捨てながら、ドラゴンに向かった。
「うおおおおおお!」
アルトは、剣を構えたままドラゴンに向かって駆け出した。
ドラゴンは、さっき俺にした時と同じように、アルトに向けて腕を振るった。
ドラゴンの腕をアルトが剣で受けると、振るわれた腕の勢いで、アルトが吹き飛ばされて転がっていく。
それでもアルトが立ち上がり、またドラゴンに向かっていく。
アルトの起き上がりとドラゴンに向き合う動作が、かなり早い、ニックの補助魔法で、強化されているのが効いてそうだ。
またドラゴンの腕が振るわれて、アルトが剣で受けて、吹き飛ばされる。
それが何度か繰り返されて、アルトの剣がドラゴンに届く様子が無い。
「くそ!まずいか!」
たまらず俺が救援に向かおうとする。
「ダメ!待って!」
すると、俺をセリアが止めた。
「大丈夫、アルトを信じて」
「だけど、あのままだとやられちまう!あんなに何度も吹き飛ばされてるのに、全然攻撃が通っていないんだ!」
「大丈夫だから」
セリアは、そう言いながらも唇が震えているように見えた。
止められても、俺は加勢したくなったが、セリアが大丈夫と言う以上、そこで踏みとどまった。
もう何度目かわからないが、また腕が振るわれる。
また同じだ、と思ったが、目の前の光景は違った。
ドラゴンの腕を、アルトの剣が弾いた。
「うあああああ!」
そのまま、はじいた腕にアルトが剣で斬りつける。
炎の剣で斬られた腕が、軽く炎で包まれて、ドラゴンが腕を引いた。
左右交互に振られていたドラゴンの腕をよく見ると、さっきまでまとっていた薄い氷が、全てなくなっている。
アルトの奴、吹き飛ばされながらも、腕の氷を溶かしてたのか!
攻撃にやられているだけと思っていたアルトが、実は攻撃を続けていた。それにしても、なんて無茶な戦い方しやかる。
アルトはドラゴンが引いた隙を見逃さず、そのまま懐に飛び込み、炎の剣をドラゴンに突き刺した。
突き刺された胸に炎が燃え上がり、ドラゴンが何とか後ろに飛び上がって剣から逃れた。
今のは、だいぶ効いたはずだ。だが、まだドラゴンは倒れる様子はない。
アルトから距離を取ったドラゴンは、大きく息を吸い、アルトに向けて氷の息を放った。
アルトは、横に頭から飛び込むようにして、何とか息を避ける。
「見てるだけしかできないなんて、辛すぎます!僕も、弓で加勢を!」
ニックがたまらず、昔やっていた弓で加勢しようとする。
「ダメよ!私たちは、補助に徹するって決めたじゃない!私たちの中途半端な攻撃じゃ、あのドラゴンには何の効果もないわ!」
「でも、それでも、少しでも隙を作るくらいは……!」
「こっちに攻撃が向いたら、ドラゴンの隙じゃなくて、アルトの隙になる。あの人は、私たちに攻撃が向いたら、ドラゴンを攻めるんじゃなくて、私たちを守りに来る、そういう人よ」
「……そうだね」
セリアが、加勢しようとしたニックを止め、ニックもセリアの言うことに納得したようだ。
敢えて加勢しないセリアも、アルトを信じて、覚悟を決めているようだった。
今なら実際には、二人のところに攻撃が来たら、俺が守ればいい。それだけの話だ。
でも、セリアは本当に三人だけで戦うことを見越している。
何とか避けたアルトに、もう一度ドラゴンが氷の息を吐こうとして、大きく息を吸い込み、アルトに向けて吐き出した。
今度はアルトは、敢えてドラゴンの方に走り出しながら、斜め前に飛び込んで避けた。
また、ドラゴンが息を吸い込む。
アルトが飛び込んだ姿勢から、そのまま一気にドラゴンに飛び込んで、息を吐こうとする顔を切り裂いた。
ドラゴンは悲鳴を上げながら、のけぞって、吐こうとした息はあらぬ方向に飛んでいく。
アルトが、その隙にさらに炎の剣を何度もドラゴンに突き立てた。
ドラゴンはのたうち回ってアルトを振り落とそうとしたが、やがて動きが鈍くなり、そのまま倒れた。
そして、そのまま光に包まれて消えていった。
「はぁ、はぁ……やったぞ!!」
アルトが叫びながら手を大きく上に掲げる。
セリアとニックがアルトに駆け寄って、三人で抱き合って大喜びを始めた。
それを眺めていると、ニックがこちらを向いて声をかけてきた。
「ルインさん!何を黙って眺めてるんですか!」
何って、だって討伐したのは三人の力だし、今回は俺は最初の時間稼ぎをしただけだ。
三人で喜びを分かち合うのが当然だろう。
「そうよ!私たちはパーティメンバーなのよ!一人だけ眺めてるなんて、許さないわよ!」
まだ眺めていると、セリアも声をかけてきた。
そうか。俺も、パーティの一員か。
ずっと一人でドラゴン退治を続けていて、すっかり忘れていた。
そう思ったら、なんだか突然喜びが湧き上がってきた。
俺が三人に近づくと、アルトが握りこぶしを掲げて、俺に向けてきた。
俺も握りこぶしを作り、アルトと強く打ち合った。




