十三週目 ②
ミンダレイさんの日記を元に戻し、ミルファのところに戻り、声をかけた。
「なあ、ミルファ、この世界が毎週二倍強くなるやつ、ミンダレイさんの魔術で起こっているらしいんだ」
「おばあちゃんの魔術で?どういうこと?」
「俺も詳しいことは分からない。ミンダレイさんの魔術が原因だってことが分かっただけだ」
「どうしてルインがそんなこと知ってるのよ」
「悪い、ミルファ。ミンダレイさんの日記を読んだ」
そう言うと、ミルファが黙り込んだ。
ミルファに怒られても当然だ。思い出として残していたミンダレイさんの部屋を、勝手に荒らして日記を読んだんだ。
「いいのよ」
そうミルファはつぶやいた。今までに聞いたことのない、勢いのない返事だった。
つぶやいた後、ミルファは何も言わない。
俺も、なんと声をかけたらいいのか分からない。
「おばあちゃんは、最高の魔術師だったのよ。本当に読まれたくなかったら、ルインなんかに読まれるように、日記を置いておくはずはないわ」
沈黙が流れた後、ミルファはまた静かに続けた。
怒られた方が、どれだけ楽だったか分からない。いつもの調子で、何でそんなことするのよ、と怒鳴りつけてくれた方が。
怒られたなら、俺の最強を維持するために仕方なかったとか、世界を救うために仕方なかったとか、ドラゴンがこのままじゃ倒せないとか、いろいろな言い訳ができた。
でも、許されてしまった。口では、いいと言っているが、ミルファを傷つけてしまったことは明らかだ。
俺には、どうしたらいいのか、何も分からなかった。
でも、この魔術の解除方法を探さないといけないことだけは、確実だ。
続けるしかない。
「それで、この魔術が解除されれば、ドラゴンの力も、二倍になることはなくなる。今止まれば、俺がドラゴンを退治し続けることはできるはずだ」
「そうね。魔術で起きているなら、必ず解除できるわ」
「どうすればいい?」
「その魔術は、何か道具を使うもの?」
「ああ、何か神器を使うと書いてあった」
「だったら、それを壊せば、魔術は止まるはずだわ。道具を使った魔術なら、普通は壊せば他の作用が出ることもない」
「神器って特殊そうだけど、それでも同じなのか?」
「それは……分からないわね」
「そうか。ちなみに、何かその神器に心当たりは?」
「それは何もないわね」
今度は、神器を探さないといけないのか、でも、それを壊すことができれば、世界の二倍化は止められるかもしれない。
もしかしたら神器の場合は違うのかもしれないが、見つけた時はミルファに見てもらえばいい。
それが分かっただけでも、大きな前進だ。
「その、ミルファ。本当に悪かった」
でも、ミルファに対してどうしたらいいのかは、全然分からなかったので、謝ることしかできなかった。
「本当にいいのよ。私だって、ルインが竜退治のために必要だからしたってことくらい、分かるわ」
ミルファはまた静かに答えた後、
「そうだわ!パパが送ってきた方法の二つ目を試している途中だったのに!早く続きをしないと!!」
とあからさまにいつもよりも大きな明るい声で言うと、作業に戻っていった。
あのミルファに気を使われているようじゃ仕方ない。俺も、早く神器を探さないと。
とは言っても、当てがない。
そんなものがここか、古い魔術院にあるなら、ミルファは気づいているはずだが、ミルファは何も知らない様子だった。
また、あの板みたいにガルドさんに預けてあるのかもしれない。
ガルドさんに聞いてみるか。
そう思って出かけようとすると、来客があった。
開けてみると、アルトがセリアとニックを連れ立ってきていた。
セリアとニックが来るのは分かるが、アルトがここに来るのはどういうわけだろう。
それに、三人揃ってなんて。
「アルト、どうしたんだ、みんなで」
「なあ、ルイン。この前の薬で大当たりしたって話、嘘だろ」
薬で大当たり、急に言われてもパッと出てこない。
ちょっと記憶を探って、前にアルトにやる気を出させるためについた嘘を思い出した。
戦闘力即倍薬を十回連続で当てたからデカドラゴンに勝てて、次は勝てないと言ったんだ。
「お前、俺たちと常闇を討伐した後、一人で全部の竜を倒してるんだろ?それに、あの薬ではそんなのはあり得ないってセリアにも聞いた。でも、お前が俺たちを馬鹿にしてるわけじゃなくて、必死に竜を倒そうといろいろやっているのも分かってる。だったら、本当は何なんだ?俺たちに隠してることを、教えてくれ」
セリアとニックも、アルトの言葉に続いて頷いている。
アルトについた嘘だけでなく、三人とも、俺がおかしいことに気づいているみたいだ。
どうする、本当のことを言うべきか?
だが、言って理解されるのかどうか、それに言っても大丈夫なものなのか分からない。
「大丈夫よ!この二人は、ミンダレイ魔術院の弟子よ。信じても大丈夫」
いつの間にか話を聞いていたらしいミルファが、後ろから近づいてきて言った。
「ただし、条件が一つあるわ!」
アルトに向けて、一つ、というように指を立ててミルファが手を向けた。
「条件?」
「あなたはまだ弟子じゃないから、魔術院の弟子になりなさい!」
おい。ここで私欲を出すのかよ。
正式な弟子じゃないと、話すわけにはいかないってことなのか。
「は?何で俺が弟子入りなんてしなきゃいけないんだよ、俺はガルド師匠の弟子だ」
アルトが正当な反応をしている。
「でも、ガルド様もミンダレイ様の弟子なんじゃ?」
ニックが横から口を挟んだ。いや、あれは宣伝文句だろ。
でも、ちょっとアルトが揺らいでそうだ。
「アルト、まだ弟子入りしてなかったの?この魔術院、入らないなんて損よ」
「はい!弟子入りします!」
おい。
こいつ、セリアが薦めたら即答しやがった。
ミルファもちょっと私欲は出てたような気もするが、信用できない人にいろいろしゃべるような子ではないはずだ。
セリアやニックから聞いているのか、アルトのことも信用したのだろう。
俺から見ても、この三人なら、ちゃんと信じてくれるし、言いふらさないんじゃないかと思う。
三人が中に招き入れられると、いろいろ載っていたテーブルから無理やり物をどかして空間を開け、そこの周りに五人で腰かけた。
「私が説明してあげるわ!」
ミルファは、少なくとも見た目はすっかりいつもの調子に戻っていた。
「ルインは、私が召喚術で魂を呼び出した最強の勇者よ!普通の冒険者の百万倍の強さがあったわ!」
「なっ……!」
「それで前、召喚って」
「百万倍……確かに、そのくらい強かったです」
ミルファがいきなり宣言すると、三人とも驚きながらも受け入れているようだ。
「でもよ、だったらやっぱり、どんな竜が出ても余裕じゃないのか?」
アルトが当然の疑問を口にする。
「それがそうはいかないの。世界が……いやこれは伝わらないわね……。ルインには、毎週強さが半分になる魔術がかけられてしまっているの。だから、このままいけば、最強どころか、誰にも勝てない最弱になるわ」
なるほど、世界の強さが二倍になるという話は、話が大きすぎるし、急に言われても理解できないだろう。
実質的には、俺が毎週半分になっているのと同じだ。ミルファはやっぱり、魔術の説明に関してはかなり上手い。
それに、いつも危機感がないと思っていたが、ちゃんと理解はしていたんだな。
「それでずっと、ルインは焦っていたのね。召喚したことが成果ってミルファちゃんが言ってたのも、納得したわ」
セリアがいろいろ思い返すようにしながら言った。
「ああ、もう今は、簡単にドラゴンを倒すってわけにはいかなくなってる。あと何週間かしたら、勝てなくなるかもしれない」
「ルインさんが勝てなくなったら、どうなるんですか?誰がドラゴンを倒せば……」
「そんなの決まってるだろ!残ってる俺たちが、やるしかないってことだ」
焦った様子のニックに対して、アルトは、覚悟が決まっているようだった。
実際に竜退治をしていたガルドさんといろいろ話して、何かを聞いたのかもしれない。
「だから今は、俺はその魔術を止める方法を探しているんだ」
「分かった。お前は、それが止められなかった時のために、俺たちに声をかけたんだな。お前が弱くなってしまった時に、俺たちが本当の勇者になって、ドラゴンを倒せるように」
声をかけた当時のことを思い出すと、単純に俺の戦闘力を上げるために声をかけただけだったが、とても言えない。
特に、ニックとセリアの魔法が目的で、アルトのことは考えてなかった。
でも、アルトが言っていることは正しい。俺が失敗したら、誰かが戦わないといけない。
「なあ、ルイン。今週のドラゴンは、俺たちに倒させてくれないか?」
「何でだよ。今なら俺が倒せるってさっき話しただろ」
「だからこそだよ!今なら、ルインが倒せるんだ。もし俺たちが勝てそうになかったら、助けてくれ。ルインが倒せなくなった後になったら、もう、それはできない」
そこで、さっき読んだミンダレイさんの日記を思い出す。
ミンダレイさんの力は、ドラゴンとの死闘を繰り返して得たもの。
屍の山の上に築かれた力。
俺がドラゴンを倒せなくなったら、本当にそうなってしまう。
だが、アルトの言う通り、今だったらまだ止められる。
そう言っても、戦闘力の保証もなく、ドラゴンと戦うというのは相当の覚悟だ。
俺が助けると言っても、間に合う保証はない。アルトの覚悟を感じた。
セリアとニックも、それに対して反対しようとはしていない。
もしかしたら、話の内容は分からなくても、事前にこうなる可能性を想定して、話し合ってきたのかもしれない。
それなら、俺がこれ以上、反対する理由はない。
「分かった。ミルファ、今週の竜は?」
「今週の竜は、ブリザードドラゴンよ!」




