十三週目
相変わらず古い魔術院に通っていたが、前に見た日記の続きが見つからない。
隅々まで探したのに、どういうことだ。
そう思って少し考えた後、自分の愚かさを後悔した。
ミンダレイさんは、ミルファとこの魔術院にも住んでいたんだ。
だったら、新しい日記は、ここにあるはずじゃないか……!
早速ミルファに声をかけた。
「なぁ、ここにも、ミンダレイさんの部屋ってあるか?」
「おばあちゃんの部屋?あるけど?」
「ちょっと見てもいいか?」
「見るだけならいいけど、おばあちゃんがいなくなってからそのままにしているんだから、物は動かさないでよ!」
そう言うと、ミルファは俺を案内してくれて、奥の部屋に続く通路の脇にある、物置だと思っていた扉を開けた。
通路の横だから、狭い空間だし、勝手に物置だと思っていたのだが、中は階段になっていた。
それも、下に続く階段。
これは気づかないわけだ。地下に部屋があったなんて。
ミルファは、俺を案内すると、また元の部屋に戻っていった。
ミンダレイさんが亡くなったことを実感してしまうから、あまり見たくないのかもしれない。
俺は一人で階段を下りた。
部屋は、古い魔術院の部屋と似たような部屋だった。机があり、ベッドがあり、本棚がある。
すまん、ミルファ。日記だけ、読ませてもらうぞ。
心の中でミルファに謝って、日記を探す。
机の上には、何も置かれていなかった。本棚にも、それらしい本は見当たらない。
机に引き出しがあったので、開けてみると、中に魔術院で見た日記と同じ本があった。
これだ。
俺は早速机の上に出し、中を開く。
相変わらず分からないメモ書きが多かったが、そこは飛ばして、前回の続きの部分を探した。
『
後進が、育たない。
ガルドの教え方が良くないからではない、ガルドは良くやっている。
原因は、私だ。
私やガルドの力は、異常な力だ。普通に手に入るものではない。
若いころは才能だと思いあがっていたこともあったが、これは、竜との戦いで、死線を超えた戦いをして初めて身に着くものだ。
才能だけで言えば、私よりも優れた子は、たくさんいた。
ただ、私が右に避けた時に、左に避けた。それだけの違いで、みんないなくなっていっただけだ。
私の力は、屍の山の上に築かれた力だ。
私が竜との戦いをやめれば、いずれは山の上に立つ後任が現れるだろう。
それは分かっている。
でも、その山の中に、ミルドや魔術院で学んだ子たちが入るかもしれないと考えたら、どうしてもやめられない。
私の力が続く限りは、続ける以外に道はない。
』
やっぱりあの日記の続きのようだ。
ミンダレイさんが、魔術院をやめて、竜退治を一人でやっていた頃だろう。
この悩みの答えは俺には分かるわけがない。とにかく先を読み進めよう。
『
後何年、竜退治を続けられるだろう。
あの頃、平均を一としたはずなのに、今の平均は0.6まで下がっている。
私が続けられなくなったら、どうなってしまうだろう。
竜退治をするだけではだめだ。
私がいなくなった後にも、竜を倒せる方法を考えなければ。
』
この先には、何かヒントがありそうだ。俺はさらにページをめくる。
『
竜の秘密を探ろうと出現場所近くを探していたら、偶然すごいものを見つけた。
ただの魔具ではない。神器か、神話に出てくる類のものかもしれない。
仕組みはまるでわからない。
でも、これを使えば世界全体に影響を及ぼすことができそうだ。
』
おお、何か二倍の世界に関係がありそうだぞ。
『
神器を使ったら、世界全体の強度というべきだろうか。
それを変えられることがわかった。
戦闘力を測る魔術を作っておいて、こんなところで役に立つとは、思いもしなかった。
これを使って冒険者全員を強くすれば、竜退治も容易にできるようになるかもしれない。
』
まさに今起きてる現象じゃないか!
やっぱりミンダレイさんが関係していたんだ。
『
駄目だ。世界を強くしたら、現れる竜まで強くなってしまった。
これでは意味がない。
しかし、竜が現れてから発動したら、竜の強さは変わらなかった。
でも、いくら神器とはいえ、いくらでも世界を強くできるとは思えない。
竜が現れるたびに使っていたら、世界が壊れてしまうだろう。
それに、私が発動しないといけないなら、結局私が竜退治をしているのと同じだ。
』
俺は、さらにページをめくった。
『
神器で、世界を強くするだけではなく、弱くできることもわかった。
それならば、一旦ものすごく弱い状態にして、そこから反発させるように強くしていけば、継続的に世界を強くすることができそうだ。
竜が現れるときに、別世界からの特別な力が加わる。
それを起点にして、少しずつ、世界が強くなるようにしよう。
これでは、竜をすぐに倒すことはできないかもしれない。
結局私には、屍の山をなくす方法を見つけることはできなかった。
それでも、少しは山を減らすことはできるはずだ。
私が初めて常闇を倒した時、大魔術の研究に一年をかけた。
その間、時間稼ぎと言って、多くの仲間が自ら犠牲になっていった。あの人もそうだ。
これがあれば、一年かかるということは無くなるだろう。
もう、あんな思いは誰にもしてほしくない。
』
これだ!ものすごく弱い状態から、竜が現れるたびに強くなっていく。
ミルファがマイナス何乗とか言っていたのも、それで説明がつく。
後は、どうやってこれを解除するかが分かれば、この二倍の世界は終わるはずだ。
『
ミルドが、久々に訪ねてきた。
何でも、孫が生まれたらしい。
なんてかわいいんだろう。
この子のためにも、早くあの魔術を完成させないと
』
ミルファが生まれた時のようだ。もうだいぶ今に近くなってきている。
『
研究の合間とはいえ、なぜこんなにつまらない薬を作ってしまったのだろう。
ニキビを治す、それだけの薬。
竜退治に、何の役にも立たない。
ミルドが残していた紙を見つけて、気づいたら続きをやっていた。
私はもう、皺だらけの顔で、ニキビなんて、気にもならないのに。
いや、ずっと昔から、戦いの傷だらけで気にしたこともなかった。
思えば私は、今まで錬金と言えば竜退治に関係するものばかりだった。
傷薬や魔力回復薬、そんなものばかりだ。
私はいつからかずっと、竜退治のことばかり。
本当はその方がつまらない、下らない人生だったのかもしれない。
この薬のような、戦闘とは何も関係ない、そんな薬を作るのに夢中になれた方が、ずっといい人生だ。
ミルファが大きくなった時に、もし魔術に興味を持ったら、この薬に夢中になれるような、そんな世界であってほしい。
この薬には、とびきり素敵な名前を付けよう
』
ダメだ、全然関係のない話ばかりだ。
こんな話はどうでもいい。魔術の解除方法はどこかに書いていないのか。
『
ついに完成した。
私ももう、これに頼らないと竜退治も覚束なくなりそうだったから、間に合ってよかった。
どんな魔術もいつまでも効果は続かない。
それでも、ミルファが大きくなるくらいまでは、何とか効果を持続させてみせる。
ミルファが大きくなるまで。
そうだ。ミルファの十五の誕生日に、世界の強さがちょうど元の一まで戻るように、最初の弱さを調整しよう。
そうすれば、あと一年、ミルファが十六になるくらいまでは、持つはずだ。
最初に考えていたよりも長いけれど、そのくらいは何としてでもやり遂げる。
』
二倍になる魔術は、期限があるみたいだ。
この前、俺が呼び出された週にミルファは十五になったと言っていた。
あの時の平均戦闘力は一だった。この日記に書いてある通りだ。
だとすると、そこから一年という話も、おそらく正しいだろう。
一年と言ったら五十二週、俺の百万なんてとうに超えてしまう。
この魔術がずっと続くなら、俺の百万を超えるドラゴンが現れても、誰かがそのうち追いついて倒すことができる。
でも、俺の百万を超えるドラゴンが現れた状態で、二倍化もなくなってしまったら、今いる誰にも倒せない。
ミンダレイさんの時代のように、倒せる人が現れるまで、また屍の山が築かれることになる。
なんとか、魔術を解除する方法を探さないと。
『
ミルドがミルファを連れて、家にやってきた。
何でも、私のことをミルファに話したら、どうしても行きたいとミルファが聞かなかったらしい。
ミルドは、良かったら母さんが預かって、ミルファに魔術を教えてやってくれと言っていた。
何を言っているんだろう。
私が魔術を教えるのに向いていないことは、この子が一番良くわかっているはずなのに。
』
ミルファが住み始めた頃の話みたいだ。
もう日記のページが残り少ない。
『
結局ミルファを預かることになってしまった。
ミルファは、目を輝かせてこの家のいろいろなものに興味を持っている。
特に、水晶玉に一番興味を持ったようで、仕方なく水晶玉の魔術をミルファに教えた。
この魔術を一番に教えるなんて、私はなんて罪深い。
』
この先は、メモ書きだらけで、何も日記のようなことは書いていなかった。
くそ、結局解除方法は分からなかったか。
でも、ミンダレイさんの魔術で、この戦闘力二倍の現象が起きていることは分かった。
魔術で起こっているなら、解除方法はあるはずだ。
俺は、魔術のことは何も分からない。
結局は、魔術に一番詳しい人、ミルファに聞いてみることにした。




