十二週目
俺は、古い魔術院に通い、帰りに手紙を確認するのが日課になっていた。
この世界だと、手紙は届くのに時間がかかるのかと思っていたが、紙そのものを送るのではなく、魔術で内容だけを送る方法があるらしい。
元々は、竜との戦いで状況報告をするために作られた魔術だそうだ。
相手の家の近くまで魔術で内容だけが転送され、そこで紙に転写されて、当日中に届けられる。
ミルドさんには、俺が送った手紙は届いているはずだが、もう一週間返事が来ない。
やっぱり、急にあんな手紙を書いても、返事はなかなかもらえないのかもしれない。
そう思いつつも、一応手紙を確認してみると、なんと返事が来ていた。
急いで中身を確認する。
『ルイン様
お手紙をありがとうございます。
ミルファが、一人ではなく、仲間と一緒に魔術に取り組んでいると知って、安心しました。
そして、もう一つお礼を言わせてください。
私に、魔術のことを思い出させてくれて、ありがとうございます。
ルイン様もご存じなのかもしれませんが、私は子供の頃に魔術をやめてから、魔術が嫌いでした。
しかし、今回ミルファのためと思って仕方なく薬のことを考えてみたら、夜も眠れないほど夢中になってしまいました。
子供の頃の母に対する反発で魔術を避けていましたが、私も根は、魔術が好きなようです。
ミルファが作ったこの薬が、どうやってこの効果を出しているのか、今の私には見当もつきません。
でも、こんな薬を思いつくなんて、ミルファがどれだけ魔術のことが好きなのか、どれほど真剣に魔術に取り組んでいるのか、それは分かりました。
反転作用を抑えるため、私なりに思いついた方法を三つほど書き添えました。
どの程度ミルファの役に立つかは分かりませんが、ミルファにお伝えください。
ミルド』
そして、何枚もの紙に、俺が見てもまったく分からないことがずらずらと書かれている。
その一枚目の冒頭には、こう書いてあった。
『ミルファへ
良い仲間を持ったね。もう父さんは、ミルファのことを心配したりはしない。
今のミルファと同じ年の頃、父さんの夢は、おばあちゃんのような立派な魔術師になって、魔術院を継ぐことだったんだ。
私の叶えられなかった夢を、叶えておくれ。
父さんより』
急いで魔術院に戻り、ミルファに事情を話す。
「ミルファ、悪い。お前に黙って、お前のお父さんに手紙を書いた」
「パパに?どうしてルインが?」
「戦闘力即倍薬のことだ。これを見てくれ」
ミルファは驚いていたが、とにかく俺は手紙を渡した。
「パパは、もう魔術が嫌いじゃないのね……」
つぶやくように言った。
だが、二枚目の自分宛ての手紙を読むと、
「何よこれ!ルイン!パパに手紙を書くわよ!準備して!」
突然、声を荒らげた。
「どうしたんだよ」
「だって、パパは魔術が好きなのに、こんなこと私に言ってきてるのよ!」
あの二枚目、普通にいい手紙だったと思うんだけど、何を怒ってるんだ。
「魔術が好きなら、なんで自分はやらないのよ!私と一緒に、魔術をやればいいじゃない!」
た、確かに。
ミルドさんにもいろいろ生活があって、今すぐ魔術師に戻るってわけにはいかないだろうけど、ミルファの言うことも一理ある。
「でもミルドさんが来たら、この魔術院を継ぐのはミルドさんになっちゃうんじゃ?」
「どうしてよ!院長は私よ!パパは弟子に決まってるじゃない!」
そうだな。
いつになるかは分からないが、そうなった方がいいのかもしれない。
ミルファもミルドさんも、魔術が好きなんだから。
俺が紙を用意してやると、ミルファは勢いよく紙に書きなぐり、俺に渡してきた。
中は見ずに封をして、手紙を出すことにした。
それからミルファは、後ろに続く、何が書いてあるのか俺には分からない紙を読み始めた。
「何よこれ……。こんな方法、全然思いつかなかったわ!すごいわ!」
そう言って、もう俺の方は見ずに、何かごちゃごちゃやり始めた。
魔術のことは、俺には何も手伝えない。
夢中になっていて、もうミルファはいつもの竜の名前のくだりを忘れているみたいだが、ドラゴンの討伐はしないわけにはいかない。
俺は名前も聞かずにギルドへ行き、依頼を引き受けた。
今週のドラゴンは、緑色で、周囲を竜巻のようなものが渦巻いているドラゴンだ。
多分、風属性だろう。それを使って飛ぶからなのか、翼は小さい。というか、細長くて鋭い感じがする。
大きさは、前の邪眼チートドラゴンと同じくらいだ。
先週は古い魔術院に通うついでに倒したが、小さくて大したことはなかった。
だが、今週のは苦戦した邪眼チートドラゴンの四倍くらいの強さになっているはずだ。
くそ、無理やりにでもミルファに戦闘力を聞いておくべきだったかもしれない。
俺は、剣を抜いて構えたまま、ドラゴンから目を離さないように相対する。
ドラゴンが細長い翼を鞭のようにしならせると、複数の竜巻に包まれるように舞い上がり、空を飛んだ。
そして、翼を鞭のように空中で叩くと、先を尖らせた小さな竜巻が、俺の方へ何個も飛んできた。
俺は横に転がるようにして避けたが、完全には避けきれなかった。竜巻の一つが俺の腕に当たると、紙で切った時のような細い切り傷を残した。
ついに傷をつけられるようになってきちまった……!
ちょっと痛いけど、大した傷ではない。でも、何週間か前の俺だったら、こんなのそよ風だったはずだ。
このまま避けてても駄目だな。まずは空からあいつを落とさないと。
俺は、思い切りジャンプして、一気に正面からドラゴンに向けて飛ぶ。
ドラゴンは、また翼をしならせて、竜巻を俺にどんどん飛ばしてくる。
飛んでいる最中に避けるのは無理だ。俺は腕を顔の前に交差させて、防御しながらそのまま突っ込んだ。
ピシピシピシッと腕に傷をつけられながらも竜に迫ると、剣を両手で握り直して、思い切りドラゴンに叩きつけた。
首から胴体にかけて大きな傷ができ、ドラゴンがそのまま地上に落ちる。
俺も地上に降り立つと、ドラゴンが起き上がって、また俺に竜巻を飛ばそうとしてくる。
あれでまだ生きてるのかよ……!
ドラゴンの図体が大きいから、翼から飛んでくる竜巻は斜めに飛んでくる。
俺は避けるためにもドラゴンに向けて直進し、また剣を振り下ろす。
それでやっと、ドラゴンが動かなくなり、光に包まれて消えていった。
これは、本当にまずい。このままだと、あと何週間だ。
何週間、倒し続けられるんだ。
同じくらいのドラゴンならまだ大丈夫だろうが、デカドラゴンがもし来たら、もう危ないんじゃないか。
みんなにやってもらっている補助や薬は、確かに俺の力を高めてくれるが、もし数倍強くなれたとしても、時間が少し稼げるだけだ。
当然、その数週間が大きいが、それでもいつかは勝てなくなる。
それまでに、何か方法を見つけないと。
魔術院に戻ると、ミルファは相変わらず何かに夢中になっている。
俺の方をちらっと見ただけで、また続きをやるのかと思ったら、もう一度こちらを見て飛び出してきた。
「どうしたのよ!傷だらけじゃない!」
そう言って、ミルファが俺の腕を手に取った。
さっきの戦いで確かに細かい傷がたくさんできて、少し血が出ている。
「なんだよ、大した傷じゃないだろ。大丈夫だ」
「駄目よ!ちょっと待ってて!」
そう言うと、ミルファは奥の部屋に行って、何か怪しい瓶を持って戻ってきた。
俺の前で瓶を開けると、中に入っていた紫色のクリームを指につけて、俺の腕に塗ろうとしてくる。
「お、おい!なんだよそれ!色が明らかにやばいだろ!」
「おばあちゃんが開発した傷薬よ!ちゃんとした薬だから、腕を出して」
ミンダレイさんの薬なら、多分大丈夫か。色が怖すぎるけど。
俺が腕を出すと、ミルファが紫色のクリームを塗ってくれた。
塗られると、ちょっとピリッとしたような気がするが、確かに痛みが引いていく。
これはちゃんとまともな薬だったみたいだ。良かった。
「これでもう大丈夫よ!」
満足そうにそう言うと、ミルファは瓶を戻し、また研究に戻った。
それを見て俺がその場を離れようとすると、またガバッとミルファがこちらを向いてきた。
「大切なことを忘れていたわ……!」
なんだなんだ、深刻そうな声を出して。もしかして、ミンダレイさんから言われた何かを思い出したとか?
「称号の更新の必要があったわね!」
称号かよ!必要ねぇよそれは!ちょっと期待して損した。
「あなたの称号は、まんじ黒銀の最強勇者まんじよ!」
ん?まんじ?まんじってなんだ。
脳内で何とか変換を試みる。
少し考えさせられた末に、思い浮かぶ。
卍か!ダガーもそうだったけど、なんで表示前提なんだ。
でも、頭で思い浮かべてみたら、かなりかっこいいような気がしてきたぞ!
【十二週目の戦績】
ルインの戦闘力:1,000,164
世界の平均戦闘力:2,048
現在の称号:卍黒銀の最強勇者卍




