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十週目 ②


 ガルド流武術道場本店に着いて扉を叩くと、なんと出てきたのはアルトだった。


「え?なんでお前がここに?」


「こっちのセリフだよ!」


「ん?ああ、ルイン君か。入りなさい」


 後ろから声をかけてきたガルドさんに促されて、俺は中に入った。


「当代の勇者が道場に来たって聞いたから、ぜひ会いたいと思って私が呼んだんだよ」


 そうか、確かに世間的には今の伝説の勇者はアルトだ。それが急に道場に来たら周りはびっくりするだろう。


「あの常闇を倒した勇者に、私が教えることなんて何もないと思っていたのだが、聞いたら、ルイン君がやったって言うじゃないか」


「え、アルト、お前話したのか?」


「ああ。俺だって、憧れてた本物の勇者の前で嘘をつくほど落ちちゃいない。それに、師匠に鍛えてもらえば、今度こそは本物になれるかもしれないじゃないか」


 アルト、お前、見直したぞ。

 セリアの言う通り、特訓に燃えてるアルトの方がずっとずっとかっこいいな。


「自分の実力を認められるのも、力を持っていても見せびらかさないのも、どちらも立派だ。私は特訓には付き合うが、誰にも言うつもりはない」


 あー、いや、俺の方は言ってもらっても別にいいよ?

 この流れだととても口にはできないけど、ちょっとここだけの話とか言って広めてくれても、いいんだよ?


「それで、ルイン君は、今日はどうしたんだ?」


「あ、今日もちょっとミンダレイさんのことで」


 アルトがいるとちょっとこの話はしにくいなと思ったが、察してくれたのか、特訓に燃えているのか、特訓を続けると言ってアルトは出ていき、二人にしてくれた。


「魔術院で、何かあったのか?」


「いえ、魔術院は普通に見つかって、中もいろいろ役に立ったんですが、ちょっと気になることを見つけて」


「気になることとは?」


「ミンダレイさんが昔、ガルドさんに何か道具を渡したって。竜の力が分かるとか」


「ああ、あれか!いつからか動かなくなってしまったが、戦闘力という数字が分かる、面白い道具だったよ。今でもまだ残ってる。ちょっと持ってこよう」


 俺が言うと、ガルドさんは何のことかすぐ分かったようで、道具を取りに行ってくれた。

 戦闘力という言葉も、やっぱりあったみたいだ。


 ガルドさんが戻ってくると、薄い板のようなものを持っている。ミルファの水晶玉とは違う形のようだ。


「これだよ。この板に、彫ったように竜の名前とその戦闘力が浮かび上がるというものでね。今ではただの板になってしまったが、ミルファちゃんなら、何かできるかもしれない。私が持っていても仕方ないし、君にあげよう」


 受け取った板を見ると、確かにただの木の板にしか見えない。

 それこそ、道場の看板に使いそうな、薄い四角の木の板だ。

 彫ったように何かが出てくると言っていたが、今は本当にただの板で、何も文字が書かれている様子はない。


 ミルファが水晶玉を見る時は、覗き込んで唱えるようにしていたが、これは勝手に出てくるものらしい。


「ちなみに、その戦闘力っていうのは?」


「ああ、これも世間に知られている言葉ではなかったな。何でも、この時の冒険者の平均の強さを一として、竜がどのくらい強いのかを表す数字らしい」


 俺が知っている戦闘力と同じらしい。

 あれ、でもその頃ってだいぶ昔だよな。

 俺が来た時に一だったから、その頃はもっとマイナスなんとかになってるはずじゃ。


「マイナス何乗とかじゃ?」


「マイナス?何を言ってる?私は魔術のことは素人だから、何も分からんよ」


 どういうことだ。この板を作った時に一にして、数字があまりにも大きくなりすぎたから、また変えたのだろうか。


「えっと、その数字はどんどん増えていくんですよね?」


「増えていく?竜は後から来た竜が強いわけではないから、週によってばらばらだよ。これをもらった時は、百を超えたら一人では絶対に戦うな。百五十を超えたら私を呼べ、とミンダレイさんには強く言われていたな」


 普通に平均の一を基準にして、単純に数字の大きさで強いか弱いかが分かるのが戦闘力だったってこと?

 ミルファの戦闘力も、ミンダレイさんが考えたもののはずなのに、どういうことだろう。


 あ、そうか。

 ミルファが、世界全部が二倍になっているから、この世界の人はそれに気づいていないと言っていた。

 体感が変わらないのに、毎週二倍にするのは分かりにくくなるだけだ。あえて、一を基準のままにしたと考えたら、つじつまが合う。


「ちょっと帰って、ミルファに見せてみます」


「それがいい。もう何の役に立たなくても、あの子は喜ぶだろう」


 ガルドさんは、またあのおじいちゃんモードになっていた。


 ガルドさんと別れて、魔術院に戻ると、早速ミルファに板を渡した。


「おいミルファ、これ、ミンダレイさんが作った道具らしいぞ。ガルドさんが持ってたのをもらってきた」


「ただの板ではないわね」


 受け取ったミルファは、板をいろいろな方向から見て、そう言った。

 やっぱり、魔術師が見ると何か分かるものなのか。


「それ、お前の水晶玉と同じように竜の戦闘力が分かるらしいぞ。今はもう何もないけど、昔は文字が浮き出てきたらしい」


「魔具は、魔力を込めて使うものよ!きっとおばあちゃんが魔力を込めて渡して、単純にそれが切れたから何も出なくなったわけだわ!」


 なるほど、ガルドさんは魔術師じゃないから、最初に電池を入れるみたいに、魔法をかけておいて、それが切れてるだけってことか。


「それなら、お前だったら普通に使えるのか?」


「多分あの水晶玉と同じようにすればできるはずよ!」


 そう言って、何かを唱え始めた。

 俺が横で見ていると、どう見てもただの木の板だったのに、本当に自然と彫ったように文字が浮かび上がってきた。


『幾千の雷鳴を轟かす竜 戦闘力 50,131』


「本当ね!私が見た戦闘力と同じだわ!名前も古いけど、同じ竜ね!」


「え、さっき五万って言ってなかったか?」


「細かいところは省いただけよ!正確にはこの数字だったわ!おばあちゃんは、昔から同じ魔術で竜の力を見ていたのね!」


 ミルファが嬉しそうに話している。


 でも俺は、ミルファと一緒に喜ぶ気にならなかった。

 この板が示す戦闘力と、ミルファの水晶の戦闘力が同じ?

 だったら、おかしいじゃないか。

 ガルドさんは、竜の強さは変わらないような話をしていた。

 それなら、この数値も、百やそこらのはずだ。五万なんて、あり得ない。


 ミンダレイさんは、ミルファに最初にこの魔術を教えた時、マイナスなんとか乗と教えたと言っていた。

 毎週世界の強さが二倍になることは、分かっていたはずだ。

 それに、この板は当時からガルドさんのところに行って、ずっと誰も触っていなかったんだ。

 数字をリセットするなんて、あるわけがない。


 今と昔と、戦闘力の意味自体は変わっていない。

 その時は、毎週二倍になんてならずに、同じ百とか百五十とかがずっと強い竜の基準だった。

 この世界の方が変わってしまったんだ。


 ミンダレイさんは、絶対に何かを知っていた。

 もしかしたら、この強さが二倍になる世界の秘密を、知っていたのかもしれない。


「ミルファ、俺はちょっと、古い魔術院の方に行ってくる!」


「え?どうしたのよ急に。いってらっしゃい」


 俺は旧魔術院に通い、日記の続きがないか、必死に探し続けた。


 数日それを繰り返すと、ミルファが声をかけてきた。


「最近何か一生懸命やってるわね」


「ああ、まあな」


「何か元気がなさそうだから、私が新しい称号で元気づけてあげるわ!」


 おい、せっかく最近ずっと更新なかったのに!

 元気づかないって、それは。


「あなたの称号は、ダガー漆黒の異世界より出し邪眼を持つ最強伝説の勇者ダガーよ!」


 なんか称号の作風もだいぶ変わったな!

 異世界からは確かに来たけど、漆黒ではないし俺は邪眼持ってねぇよ!

 そして、ダガーって何だよダガーって!

 あ、もしかして、†か?

 文字で見ても痛いけど、口に出されると痛さがさらに増してるんだが!

 というか、なんでお前そんな中二記号を知ってるんだよ。ネトゲとかこの世界でもあるの!?


 今度称号が更新されたら、前の薬飲んだときみたいにめちゃくちゃ短くなって弱くなるかと思ったけど、作風が変わったせいでそれは感じないし、まあいいか。


【十週目の戦績】

ルインの戦闘力:1,000,164

世界の平均戦闘力:512

現在の称号:†漆黒の異世界より出し邪眼を持つ最強伝説の勇者†


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