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【第3部6月から開始】異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第03章 月影の吸血姫編

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第84話 澪の答え合わせ

 縁側から少し離れた庭の端は、家の中の気配がちょうど薄れる場所だった。

 風が通る。

 草の匂いがして、遠くで鳥が鳴く。祖父母の家の庭は派手ではないが、手入れが行き届いていて、どこか落ち着く空気があった。

 だからこそ、こうして少し人と話すにはちょうどいいのだろう。

 透花と話して数十分後、目の前に突然現れた花宮に、俺は何も言えなかった。


「ねえ」


 俺は振り向かないまま、短く返す。


「……何だ」

「ちょっとは驚いてよ」


 軽い調子、だが、その軽さの下にあるものは軽くない。


「何にだ?」

「全部よ全部」


 どこを驚けばいいのかわからない。

 首を傾げている俺に対し、花宮は変わらない様子で話を続け始める。


「配信のNoahがあんたで、召喚士で、異世界人で、今は乃亜くんの身体借りてるってやつ」

「……」

「普通もうちょいリアクションあるでしょ?例えば……“バレたか!”とかさ」

「そんな趣味はない」

「あー、言いそう今の久城君なら」


 花宮は肩をすくめ、そのまま俺の隣へ立った。

 距離は近すぎず遠すぎず。踏み込みすぎないが、逃げもしない位置だ――こういうところは本当に上手い。


「でもさ……納得はした」

「何がだ」

「配信……ずっと引っかかってたの。あの人、なんであんな戦い方できるのって。知識も動きも、全部ちょっとズレてたでしょ」

「……」

「この世界のダンジョン慣れしてるっていうより、別の何か知ってる感じ」


 花宮は空を見上げる。白い昼の光を細めた目で見ながら、思い返すように言った。

 ただ、その瞳は真剣な瞳であり、先ほどの表情とは何処か違った。

 俺はその表情を見ている事しか出来なかった。


「だから、“そういう設定の人”かと思ってたよ!」

「設定、か」

「うん。キャラ作り的な……ほら、そういうのあるじゃん!」

「そうなのか?そこは詳しくないからわからないが……」

「はは何それっ」


 花宮は少し笑っている。

 だが、その笑い方は前みたいに面白がるだけのものではなかった。


「――うん、違ったんだ」


 花宮は再度視線を戻し、俺を見る。


「本物だった」


 その言い方には、ただ驚いたという以上の実感があった。

 観察し続けた結果、ようやく自分の中で答えが繋がった――そういう納得の仕方だ。


「……で?」


 俺は短く促す。

 澪は少しだけ目を細めた。


「で、ここからが本題」

「最初から本題じゃないのか?」

「うん、ウォームアップってやつ」


 軽く返してから、ほんの少し間を置く。


「ねえ、なんで配信してるの?別にさ、隠れてやろうと思えばできるでしょ」

「ああ、できるな」

「なのにやってるんだ、目立つにわかってて」

「……」

「なんで?」


 理由はある――だが、それをどこまで話すかは別だ。

 俺が配信を始めた理由は、生活費に困っていたからでもある。

 これからどのように暮らしていけばいいのか、乃亜をあの久城家から戻すつもりなんてなかったから。

 勝手に出て行ってしまったのは俺自身だ。

 だからこそ、俺は行った。



「金と、生活の為」

「それだけ?」

「それで十分だ」

「嘘ではない顔はしているけど、まだ何か隠してる?」

「それはお前の主観だ」

「観察って言ってよ」


 軽く言い返す。

 けれど、それ以上はしつこく踏み込まなかった。

 代わりに、少し違う角度から来る。


「……あとさ……どこまで一人で抱えてるの?」

「何の話だ?」

「全部……戦うのも、考える時も、そして久城君……ううん、沈んじゃった、久城乃亜君の事」


 また同じ言葉だった。

 視線が逸れない。


「……誰にも頼ってないでしょ?いや、頼れないのかもね」

「……」

「”あなた(ノア)”は、人間を嫌っているから」


 澪は小さく息を吐き、そのように答えた。

 ああ、その通りだ。

 俺は、人間が嫌いだ。

 前の世界で散々俺の力を利用した奴らは俺を悪者にして処刑した――俺の召喚獣たちの力を恐れて、俺自身を殺したんだ。

 だからこそ、俺は信用しない。誰一人も――そう、誰も、そのはずだ。

 もちろん、目の前に居る花宮澪も同じだ。

 彼女は瑠亜たちと同じ、そんな存在なのだから。

 その時、花宮は頭を下げた。

 

「ごめんね」


 突然の謝罪に、俺は目を見開く事しか出来なかった。

 そしてそのまま、口が勝手に動いていた。


「……何に対してだ」

「……色々」


 曖昧だが、花宮も逃げていない。

 微かに肩を震わせながら、話を続けた。


「気づいてたのに、何もしてなかった……乃亜くんのこと」

「……」

「変だなって思ってたこと、あったのに」


 透花と似ている。

 だが、花宮の場合はもっと自分の打算を分かった上で言っていた。


「でも、“まあいっか”で流してた…・…面倒だったからね」

「……正直だな」

「でしょ」


 少しだけ笑う。

 だが、その笑いは軽くない。


「だからさ」


 花宮は一呼吸しながら、真っ直ぐな目で俺を見た。

 

「――私も、あいつらと同じ」


 “あいつら”――学校の連中のこと。

 そして、双子の弟の瑠亜だろう。


「無視してたし、皮肉のような事も言った」

「……」

「だから一応、謝っとく」


 視線を外さないまま言う。

 言い訳も、自己弁護もない。逃げない謝罪だった。

 軽く済ませることもできたはずだ。

 花宮なら、もっと冗談めかしてぼかす事もできた。

 それでもそうしなかったのは、多分自分の中で線を引いたのだろう。


 ――見ていたのに、見ないふりをした。

 ――気づいていたのに、深く考えなかった。


 花宮はその事を、自分でちゃんと分かっている顔だった。

 俺は少しだけ考えてから答える。


「形だけ受け取っておく」

「うわ、ドライ」

「期待するなよ」

「してないよー」


 その返しに、ほんの少しだけ空気が緩む。

 重い話をしたあとに残る、息継ぎみたいな間だった。

 花宮は肩の力を抜く。

 気まずさが消えたわけではないが、少なくともさっきまでみたいな暗い顔はしていなかった。


「でもさ……知っちゃった以上、無関係ってわけにはいかないよね」

「……」

「別に正義感とかじゃないけど」


 軽く言いながらも、目は真面目だった。

 その言い方は、花宮らしいとも思う。

 自分は善人だから、とか、放っておけない性格だから、とか、そういう綺麗な言い回しを選ぶことはない。

 彼女は笑いながら、言った。


「面白いし」

「それが本音か?」

「うん、半分ね」


 くすっと笑った後、もう一言呟いた。


「もう半分は、放っておくとロクでもない事になりそうだから」


 その言葉に、少しだけ間を置いた。

 正しいし、否定が出来ない。

 色々あるが、それが転んでしまったら、よからぬ事が起きるのではないだろうかと考えてしまう。

 だからこそ、放っておけない。

 これは、多分花宮の”答え”のようにも聞こえた。


「……好きにしろ」

「言われなくても好きにするよ!」


 花宮は軽く返し、そのまま空を見上げた。


 白い空だった。

 晴れているのに、どこか薄く曇ったみたいな色をしている。

 祖父母の家の庭先は静かで、風も柔らかい。

 こうして立っていると学校で起きたことも、ダンジョンの事件も、前の世界の因縁も、少しだけ遠く感じる。

 だが、それはあくまで一時的なものだ。


「あのさ、久城君……色々と解決し終わったらさ、もっと面倒になるよねきっと」

「……なるな」

「だよねえ」


 その一言に、妙な現実感があった。

 花宮は静かに笑っていたのだった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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