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【第3部6月から開始】異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第03章 月影の吸血姫編

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第80話 それぞれの受け止め方

「では」


 祖父の問いが、静かな居間へ落ちる。


「これからどうするつもりだ?」


 ルクスとセレネを顕現させたまま、俺は一度だけ息を整えた。

 証明はしたのだから、これ以上ここにいる誰も、さっきまでの話を曖昧なままにしておくことはできない。

 けれど、証明したからといって、すぐに全部が整理されるわけでもない。


「まずは、乃亜を返す方法を探します……そのために動いてきたし、これからも変えるつもりはありません」

「方法はあるのか?」


 俺の言葉に対し、祖父が静かに問う。

 対し、俺は話を続けた。

 

「確実だと言い切れる段階ではありません」

「それでも、探しているんだな?」

「ええ、そうです」


 俺の言葉に対し、祖父は短く頷いた。

 納得したというより、話の筋を確認した顔に見えてしまった。

 そこで、理央が口を開いた。


「……今さら全部、すぐ理解できるわけじゃない」


 低い声で、言葉を選び、飲み込みきれないものを抱えたまま、それでも正面から言おうとする声だ。


「まぁ、そりゃそうだろうな。でも――」


 俺が返すと、理央はわずかに眉を寄せた。

 視線を逸らさずに続ける。


「アンタが、乃亜を返すつもりなのは間違いなく、わかった」


 そこだけは確認したかったのだろう。

 それが一番重い線だということを、理央はきちんと分かっている。


「ああ、そのつもりだ」

「……なら、ちゃんと、乃亜を守ってくれ、そして、約束をちゃんと守ってほしい」

「……わかった」

「……俺は、何もしなかった。何もやらなかった……味方にはなれなかったから」


 理央はそのように言うと、過去の自分自身を思い出していたのかもしれない。

 幼馴染だとしても、理央は乃亜の味方にならなかったことを。

 俺はその件についてはまだ許していないが――それでも今の理央は乃亜の為に何かをしようとしている、それだけは理解出来た。

 だから、今の理央の言葉を信じようと思った。


「わ、私も……私も、何も出来なかった!」


 突然、透花が顔を真っ赤にしながら叫んだ。

 驚いた俺が視線を向けると、透花は指先をぎゅっと強く握りしめるように叫ぶ。


「私は……わかっていたの!わかっていたのに、自分の事ばかり考えて、乃亜くんの事に目をそらしてた……幼馴染なのに、友達なのに……」

「……透花」

「だから、だから今度はちゃんと、ちゃんと乃亜くんの言葉を聞くから……だから、お願いします、乃亜くんを助けて下さい!」


 いつの間にか透花は涙を流していた。

 そして、そのまま俺の手を強く握りしめ、叫ぶ姿に俺は何も言えなかった。


 ――理央くん、透花ちゃん、ごめんね。


 俺の中に居た”乃亜”が鳴きそうな顔をしながら、彼女の名を呼んでいたような気がした。


「……乃亜は、お前の事を恨んでない」

「……え?」

「だから、そんな顔をするな、透花」


 俺の言葉ではないが、乃亜は間違いなく二人の事を許している。

 そもそも、恨んでいない――二人は、大切な幼馴染で、大切な友達なのだから。

 だから、俺は乃亜の言葉を返すだけだ。

 笑う事は出来なかったが、その言葉が届いていればいいなと思った。

 ふと、花宮が間に入って、俺に携帯の画面を見せてきた。


「じゃあやっぱり、配信のNoahも久城君だったんだよね!」


 居間の空気がまた少し変わり――そして、その画面には俺の配信の姿があった。


「ああ、そうだ」

「そっか……もしかしてーとは思っていたんだけど、じゃあダンジョンに入ったのは久城くんを助ける為?」

「体を返すには、ダンジョンに潜って手に入れなきゃいけないモノがあるからな」

「ふーん……本当、頑張ってるね」

「……一応、な」

「そっか」


 どのようなやり取りだったのか、乃亜もわからない。

 ただ、まるで自分が納得したかのように、笑っている花宮の姿がある。

 俺はそんな彼女の姿を見つめる事しか出来なかった。

 ふと、祖母がその話を聞いたあとでぽつりと言った。


「そうね……難しい話は、後にしてもいいかしら?」


 全員の視線がそちらへ向く。


「え?」


 思わず反射的に声を出す。

 対し、祖母は少し困ったような顔をしながら笑った。

 

「だって、みんな顔が固いもの……分からないことが多いのは分かるわ。でも、こういう話って、お腹が空いたままだと余計にろくな方向へ行かないでしょう」


 一瞬、居間の空気が止まる。

 それから智明が小さく笑った。


「母さんらしいな」

「そうかしら?」

「いや、そう来るよなと思って」

「仕方ないでしょう、朝なんだから」


 祖母はごく当然みたいに言う。


「難しい話をしてるのも分かるけど、まずちゃんと食べなさい。とくに乃亜くん……今のあなた、ね。顔色がまだ全然良くないわよ?昨日もそうだったけどね」


 その言い方が、妙に自然に聞こえた。

 “乃亜ではない”と知った上で体調を気にしている。

 祖母にとってはそれが一番普通の反応なのだろう。

 祖父はそんな祖母を横目で見てから、改めて言った。


「――ここは久城家ではない。見えている違和感を、見なかったことにして暮らすつもりはないが……私は既に昨日お前に話しているな、乃亜」

「……はい」

「それなら、良い」


 祖父はそれ以上責めない。

 だが、その代わりに曖昧さも許さない。

 智明がそこで肩をすくめた。


「というわけだ、乃亜」

「……最初からわかっていたんだろう、叔父さん」

「さぁ、どうなろうな?少なくとも、お前をこれ以上攻める相手はいないぞ?」

「……」


 智明の性格がわかったかもしれない――俺は、そのように感じながら再度ため息を吐いた。

 やはりこの人は、こういう場を人間の会話に戻すのが上手いと感じながら。

 ルクスは相変わらず俺の後ろで静かに立っていた。

 理央たちをまだ信用していない顔をしている。それは祖父母に対しても同じだろう。

 だが、今は余計なことを言わない。

 セレネは一歩下がった位置で、穏やかに全員を見ている。

 変わらず、まるで見守るかのように。

 俺は居間にいる全員を見渡し――誰一人、完全に理解した顔はしていないと感じた。

 それでいいのだと思う。こんな話を一度で全部飲み込める方が異常だ。

 それでも、隠し続けるよりはましだった。

 久城乃亜という名前の下で、全部を誤魔化しながら立ち回るより、少なくとも今ここにいる人間には俺が何者かを知った。

 それだけど、少しだけ落ち着くことが出来た。


「とりあえず、朝飯にするか」

「そうね……冷める前に出したいし」

「あ、手伝います」

「あら、ありがとう。でもそんなに気を遣わなくていいのよ」

「いえ、じっとしてる方が落ち着かなくて……」

「それもそうかもしれないわね」


 理央もなんとなく立ち上がりかけて、どうすればいいか分からない顔で止まる。

 花宮はそんな空気を見て、小さく笑った。

 そして、空気が和やかになり、これから朝食が始まろうとしている。

 そんなやり取りの中で、ルクスとセレネは静かに姿を薄めた。

 完全に消えるわけではないが、表へ出る必要がない分だけ気配を引いたのだろう。

 朝食の準備が始まる――湯気の匂い。食器の触れ合う音。人の気配。

 それは奇妙なくらい穏やかで、さっきまで前の世界と召喚獣の話をしていた場所とは思えなかった。

 だが、その穏やかさの底で何か別の気配がかすかに揺れた。


 ――セレネだった。


 姿を薄めたまま、庭の方へ視線を向けている。

 その横顔に、ごくわずかな硬さがある。


「……?」


 まるで、何かを感じたかのように、彼女は首を傾げるのだった。


読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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