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【第3部6月から開始】異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第03章 月影の吸血姫編

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第79話 ルクスとセレネ


 証明はできる――そう口にしたあと、居間の空気はさらに静かになった。

 そのままミュールが膝の上に乗ったのを角印した後、俺はゆっくりと目を閉じる。

 俺は目を閉じる。


 深く呼吸を整えるほどの必要はない。

 今呼ぶのはバハムートのような大出力ではないし、身体の負荷も比較にならない。だが、それでも今の俺はまだ本調子ではない。乃亜の身体の内側には鈍い重さが残っていて、無理に魔力を巡らせればすぐ分かる程度には不安定だった。


 それでも、これくらいなら問題ない。


「来い」


 短く呼ぶと同時に床へ淡い光が滲んだ。

 居間の空気がわずかに変わり、祖母が息を呑み、花宮が目を見開くのが気配で分かった。

 最初に現れたのは、白銀だった。

 薄く揺れる光の中から、人の形が輪郭を持ち始めた。

 肩口までの銀髪。淡い金の瞳。長身で、鋭く、感情をほとんど表へ出さない青年姿だった。


 白銀狼王――ルクス。


 完全顕現に近い形で現れたルクスは、足元の光が消えるより早く一歩だけ前へ出た。

 その動きに迷いはなく、現れた瞬間からこの場の全員を冷たく見ていた――空気が一段張る。

 理央たちは、そんな彼の姿を息を呑むほど見つめており、同時に寒気を覚えていたのかもしれない。

 青ざめた顔をしながら、ルクスを見ている。

 一方、ルクスは俺の斜め後ろへ立った。

 誰の横でもなく、まるで当然みたいに俺の近くへ位置を取ったのである――おい、もしかして嫉妬しているのか?と感じながら。

 ルクスのその立ち方そのものが、何より分かりやすい証明だった。

 

「……これが、俺の召喚獣の一体であるルクスです」


 花宮が小さく、けれどはっきりと息を吸う。


「……やっぱり、配信のあの召喚士って久城君だったんだね」


 花宮はそのように呟きながら、俺たちに言った。

 しかし、俺はその件については何も言わなかった。

 ルクスはそんな三人を一瞥し、それから祖父母へ視線を移した。

 露骨な敵意は出していない――だが、信用の欠片もない目だ。

 まるで主のそばにいる人間を“確認している”目をしていた。


 そして、もう一つ。


 柔らかな月の気配が、部屋の中へ静かに広がる。

 今度の顕現は、ルクスとは違って音も圧も薄い。

 淡い光が空気に溶けるように集まり、その中心に白い衣の女性が姿を結ぶ。

 長い白銀髪、淡い紫を宿した瞳、そして足元に薄く散る月光の粒――セレネだった。

 彼女は現れた瞬間、まず俺を見る。

 そのまま小さく一礼し、それから静かに全体を見渡した。

 ルクスが鋭い刃なら、セレネは静かな夜そのものに近い。

 けれど、その穏やかさに油断できないことは、召喚獣たちを知る俺が一番よく分かっていた。

 祖母がはっきりと目を見開く。


「……本当に」


 祖母の言葉がそこまでしか続かない。

 祖父も、さすがに今度は完全に現実として受け止めた顔をしていた。

 少し驚きは抑えているが、理解しようとする速度が目に見えて増している。

 召喚したルクス、そしてセレネの姿を見て、智明はため息を吐きながらルクスたちに視線を向ける。


「今さらだが、毎回見ても妙な気分になるな」

「……慣れていないだけです。俺は主以外、どうでも良い」

「あらあら、相変わらずですね、ルクス」

「ノア、具合は大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ……だからその顔やめてくれ、セレネ。まだ怒っているのか?」

「ええ、怒っていますよ?」

「そもそもどうしてガルドとルクスなのです。私も召喚してくれなければ意味がないでしょう?セレネ、泣いてしまいますよ?」

「…………白々しいな」

「何かおっしゃいましたか? ルクス?」

「いでででっ!」


 笑顔のまま足を踏みつけているセレネの姿を、俺は見つめることしかできない。

 ルクスはどんなことがあってもセレネには勝てない。昔からそうだ。

 だが、その小さなやり取りのおかげで、張りつめていた空気がほんの少しだけ緩んだのも事実だった。

 そしてセレネは、何事もなかったように足をどけると、改めて理央たちと祖父母の方へ向き直った。

 白い衣の裾を静かに整え、月光の粒をまとったまま、穏やかに一礼する。


「申し遅れました」


 セレネは柔らかく微笑んだ。


「わたくしはセレネ。月影の巫霊、セレネと言います……主――ノアに仕える召喚獣の一体です」


 その声は穏やかで、よく通った。

 だが、ただ優しいだけではない、不思議と背筋を伸ばさせる響きが聞こえた。

 そんな彼女の姿を周りの人間たちは静かに見つめている。


「驚かせてしまったでしょうが、どうかご安心ください……少なくとも、今この場で皆さまへ危害を加えるつもりはありません」

「“少なくとも今この場では”って言い方、ちょっと怖いんだけど」

「花宮」


 理央がすぐにたしなめる。

 花宮も少しやばいと思ったのか、口を塞ぐ。

 

「ふふ」


 しかし、セレネは口元へ薄く笑みを乗せたまま、澪へ視線を向ける。


「率直な方なのですね」

「え、あ、どうも……?」

「褒めているのかどうか分かんねえ返しだな」

「あら、叔父様はそのように考えていたのですね、フフ」

「なんだろう、乃亜、急に寒気がしたんだが……」

「……今のセレネは怒ってるから、ある意味刺激するなよ」


 セレネはそれには答えず、今度は祖父母へ向かってもう一度だけ丁寧に頭を下げた。


「突然このような形でお目にかかることになり、失礼いたしました」

「……礼儀正しいのね」

 祖母が少し戸惑いながら言う。


「……そう見えるだけだ」


 ルクスが低く呟いてしまう。


「ルクス?」

「いや、なんでもない」


 即座に口を閉ざしたルクスへ、セレネがまた笑顔を向ける。

 その笑顔の意味を知っている身としては、あまり長く続けない方がいい。

 俺は小さく息を吐いた。

 セレネは普段、穏やかで柔らかい――だが、その穏やかさの奥にあるものを知らない人間にとっては、今の姿はひどく安心できるものに見えるのだろう。

 実際、透花の肩からは少しだけ力が抜けていた。

 祖母も、さっきまでよりはわずかに表情を和らげている。

 理央だけは、まだ簡単には飲み込まない顔だったが、それでも露骨な敵意までは向けていない。

 俺は静かに息を吐いた後、彼らに目を向けた。


「これで、証明が出来ただろうか?」

「……ああ、そうだな」


 祖父が静かに呟き、そして納得してくれた。

 そしてそのままが次の問いを投げる。


「――では」


 その一言で、部屋の全員がまた少しだけ息を詰めた。


「これからどうするつもりなんだ?」


 それは確認ではなく、次の段階へ進むための問いだったのかもしれない。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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