第60話 王虎の戦姫はただ一人を求める【ヴィーシャ視点】
あたしは、強いモノが好きだ。
それが人間だろうが何だろうが、強ければどうでもいい。
そんな同じ願いを持つ、双子の弟だっている。
王虎族として生まれたあたしたちは、腹の中にいた頃から多分似たような飢えを抱えていたんだろう。
――強いものと戦いたい。
――強いものを噛み砕きたい。
――強いものに勝ちたい。
王虎族にとって、それは誇りだ。
けど、あたしと弟にとっては少しだけ性質が悪かった。
生きることと戦うことが、最初からほとんど同じだった。
牙を磨くことも、爪を研ぐことも、自分を強くすることも、全部が当たり前だったし当たり前すぎて退屈ですらあった。
だって弱いやつを裂いても、腹は膨れても心は満たされない。
痛みに悲鳴を上げるだけの相手をいくら踏み潰したって、何にも残らない。
だからずっと、探していた。
あたしたちを本気にさせる奴。
あたしたちが本気で殺したいと思える奴。
そしてできるなら、あたしたちを本気で殺し返してくる奴を。
そうして出会ったのが、ノアだった。
最初に見た時から、変な男だった。
ノアは最初、人間だろうと化け物だろうと手を伸ばし、優しい男だった。
だからこそ、召喚獣たちはノアに惹かれていったのかもしれない。
でも、それだけじゃなかった。
あいつは平気な顔で残酷なことをする。
必要なら敵を容赦なく切り捨てるし、味方を守るためなら躊躇なく誰かを囮にも使う。
情に厚いくせに、戦場ではどこまでも冷たかった。
――だから面白かった。
強くて、優しくて、そして残酷だった。
その全部が、矛盾しないままノアの中に入っていた。
あんな奴は後にも先にも見たことがない。
あたしはすぐに好きになった。
もちろん、甘ったるい意味じゃない。
戦いたいと思った。
何度も会いたいと思った。
もっとその顔を見たいと思った。
追い詰めた時の顔。
守るものを背負った時の顔。
本気で殺しにくる時の顔。
あたしにとって、それはどれも最高だった。
だから、何度も戦った。
戦場で会えば殴りかかって、あいつの召喚獣に噛みつかれて、ルクスには露骨に嫌われてはノアには心底面倒そうな顔をされた。
それでも、あたしにとっては全部が楽しかった。
弟は時々笑ってた。
弟も同じように、いや、多分残酷なのは弟の方だ。
楽しそうに、ノアと戦った。
好きだとも。
好きだからこそ殺したかった。
好きだからこそ、あたしの全力をぶつけたかった。
あたしの全部を受けて、それでも立っていられるやつなんて、ノア以外にいなかったから。
――なのに。
ノアは、あんな終わり方をしてしまった。
処刑されたと聞いた時、最初は信じなかった。
あのノアが?
戦場を何度もひっくり返して、国を勝たせて、化け物みたいに生き残ってきたあの男が?
人間どもの法廷で、みっともなく殺される?
――冗談じゃないっ!
でも、それが本当だと分かった時、あたしの中で何かが切れた。
正直、国ごと滅ぼしてやろうかと思った。
いや、実際かなり壊した。
ノアを殺したやつら。
ノアを追い詰めたやつら。
あいつを兵器みたいに使って、最後は切り捨てた連中。
あたしはそいつらを一人ずつ探して、苦しませて、踏み潰して、蹂躙した。
同族からもやりすぎだと言われたが、弟と一緒にやりすぎるぐらいやった。
でも知らない。
あたしからすれば、あれでも足りなかった。
ノアを殺したんだ。
あたしの獲物を。
あたしが何度でも噛みつきたかった相手を。
あたしが一生追いかけてもいいと思った唯一の男を。
――それを、あんなつまんない終わらせ方で奪われた。
怒りで頭がおかしくなりそうだった。
全部終わったあとに残ったのは、ひどい空白だけだった。
もう二度と出会えないんだと思った。
ノアみたいな存在は、あれきりなんだと。
強くて、優しくて、残酷で。
守るために前へ出るくせに、自分が壊れることにはやたら頓着がなくて。
召喚獣たちにあんな風に本気で慕われて、なお平気な顔で一人になろうとする。
そんなやつ、二度と現れるわけがない。
だから、裂け目に飲み込まれた時も、最初はどうでもよかった。
世界の境目が歪んで、空間が軋んで、気づけば知らない場所へ投げ出されていた。
けれどそんなこと、あたしには大した問題じゃない。
どこだろうが、何だろうが、強いものがいるなら壊して進むだけだと思っていた。
なのに。
あの広間で、あの気配を見つけた。
中心にいた人物は、身体は違っていたけれど間違いなく、ノアだった。
ノアーーあたしの、たった一人の宿敵。
ああ、あの瞬間のことは多分、死ぬまで忘れない。
嬉しかった。
本当に嬉しかった。
胸が裂けそうなくらい、心の底から嬉しかった。
生きてた。
会えた。
またこの目で見られた。
だったら、やることは一つだ。
あたしは、ノアを全力で殺しにいく。
それが礼儀だ。
それが再会だ。
それが、あたしにとってノアを好きだって事の証明だ。
甘い言葉なんかいらない。
抱きしめる必要もない。
あたしは戦うために生きてきたし、ノアだってそういう男だ。
あいつに会えたなら、全力をぶつける。
あいつが生きているなら、全力で殺しにいく。
それ以外の再会なんて、あたしたちには似合わない。
ルクスもガルドも、あたしを見る目が本当に嫌そうで笑えてくる。
ああいうのも好きだ――あいつらはちゃんと分かってるから、あたしがノアをどう見ていて、ノアがあたしをどう見るかを。
だからこそ、あんなに殺気立つ。
でも譲らない、譲るつもりはない――ノアはあたしの獲物だ。
あたしが追い続けて、あたしが噛みついて、あたしが殺したいと願ったたった一人だ。
例え世界が裂けても、身体が変わっても、その事実だけは何も変わらない。
あたしはノアのために生きる。
ノアと戦うために強くなる。
ノアを殺すために牙を研ぐ。
そして最後は、ノアのために戦って死ねたら、それがいちばん綺麗だ。
それ以上の終わりなんか、いらない。
だから笑う――嬉しくてたまらないから。
会えて、戦えて、今また目の前にあいつがいるから。
あたしは牙を見せて、金の瞳を細めた。
「本気で来いよ、ノア」
その一言に、あたしの全部を乗せた。
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