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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第02章 王虎の戦姫編

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第58話 正体不明の召喚士の正体


 召喚陣が床いっぱいに広がった瞬間、空気が変わった。

 青白い光が円環を描き、その上を幾重もの紋様が滑る。

 そして、”久城乃亜”として生きている間、ずっと隠してきたものだ。


 ――だけど、もう隠せない。


 ヴィーシャの一撃を正面から受け、理央たちを背に庇ったあの時点で、選択肢は消えた。

 正体を伏せたまま守るには、相手が悪すぎる。

 光が脈打つ。

 最初に現れたのは、白銀だった。

 魔力の奔流を裂くようにして、巨大な狼の影が前へ躍り出る。

 白銀の毛並みと鋭い牙、そして黄金の瞳。

 こちらを一瞥した直後、ルクスは一切の迷いなくヴィーシャとの間へ割って入った。


「お待たせしました、我が主」


 低く落ちる声――それと同時に、もう一つの召喚陣が重なる。


 今度は重い。


 黒鉄みたいな硬質の魔力が床を這い、岩を軋ませながら立ち上がる。

 現れたのは、全身を重装甲で覆った巨躯の騎士だった。

 人型に近いが、人ではない。

 漆黒の鎧の隙間から赤い光が滲み、片腕には大盾、もう片腕には巨大な斧槍を備えている。


 ガルド。


 守護と突破の両方を担う、重戦型の召喚獣だ。


「主様、命令を」


 ガルドの声は、地鳴りみたいに低かった。

 背後で、三人が完全に息を失う気配がした。

 無理もない――今まで見せてきた簡易術式や一瞬の顕現とは、規模が違いすぎる。

 召喚そのものが、”久城乃亜”の知っている範囲を完全に超えていた。


「ルクス、前を抑えろ」

「御意」

「ガルド、後衛防護。三人から目を離すな」

「了解した」


 短く指示を飛ばす。

 余計な言葉はいらない。

 こいつらには、それで足りる。

 ルクスが低く唸り、ヴィーシャの正面へ躍り出た。

 ガルドは一歩後ろへ下がって盾を打ち立てる。

 重い衝撃音が響き、その場に防壁めいた圧が生まれる。


「う、わ……なに、これ……」


 花宮の声が震えた。

 配信で見たものと、目の前の現実が繋がったのだろう。

 花宮は呆然としながらも、俺と召喚陣とルクスを順番に見ていた。

 その目にあるのは驚きだけじゃない。ようやく噛み合った違和感への確信だ。


「え、もしかして……配信の……」


 掠れた声が漏れる。

 理央も、透花も、何も言えないまま固まっていた。

 だが二人とも、もう分かっている。

 “正体不明の召喚士”と、今目の前にいる俺が繋がっている事を。

 乃亜ではなく、別の何か――少なくとも、噂の中の問題児なんかでは到底説明できない存在だと。

 ヴィーシャはそんな周囲の動揺を見て、心底楽しそうに笑った。


「そうだ、それだ!」


 裂けた口元みたいに笑みを深め、尾を大きく揺らす。


「その戦い方だ!」

「……」

「その空気、その指示、その召喚術!やっぱりお前はノアだ!」


 歓喜そのものだった。

 こいつにとっては、俺が本気を見せること自体が褒美なんだろう。

 最悪の性質だ。


「――黙れ」


 低く吐き捨てる。

 ヴィーシャは肩を揺らし、そして気配が跳ね上がる。

 まずい。


「ルクス!」

「承知」


 俺が言い切るより早く、ルクスが前へ出た。

 白銀の巨体がヴィーシャの爪撃を真正面から受け、火花のように魔力が散る。

 重い衝撃波が広間を揺らした。

 透花が思わず小さな悲鳴を漏らし、花宮が端末を抱える手に力を込める。

 理央は前へ出かけたが、ガルドの盾がわずかに動いて、その進路を塞いだ。


「退がっていろ」


 ガルドが低く言う。


「ここから先は主の戦域だ」


 その一言で、理央が息を呑む。

 一方、ルクスがヴィーシャを押し返し、爪と爪がぶつかる音が響く。

 だが、押し切れるとは思わない。

 ヴィーシャは単純な力比べですら、前の世界でも上位に入る怪物だ。


 ――なら、俺は動く。


 意識を切り替える。

 久城乃亜として学校へ通う人間の顔を、いったん捨てる。

 必要なのは、召喚士ノアとしての判断だけだ。

 ルクスの動き。

 ヴィーシャの間合い。

 ガルドの盾が守る範囲。

 理央たちの位置。

 裂けた空間の揺らぎ。

 全部を同時に頭へ入れる。


「ガルド、左後方の壁際を固めろ。透花を中央へ寄せるな」

「了解」

「ルクス、三合目で下がれ。あいつの右脚に癖がある」

「見えております」


 ヴィーシャがそれを聞いて、ますます楽しそうに目を細めた。


「はっ、いいねえ!」


 牙を見せて笑う。


「そうだ、その感じだ!やっぱりお前と戦うのが一番面白ぇ!」


 ルクスが低く唸る。


「馴れ馴れしいぞ」

「お前も相変わらずだな、狼王!」

「貴様に覚えられていること自体が不快だ」

「つれねえなあ!」


 ヴィーシャは楽しげに肩を揺らした。

 そのままルクスの爪撃を紙一重で躱し、逆に前蹴りのような一撃を叩き込む。

 ルクスは身を捻ってそれを受け流すが、床が大きく抉れた。


「でも、安心したぜ……お前、ちゃんとまだノアの前に立つんだな」

「当然だ」

「だよなあ。そうじゃなきゃつまらねえ」


 ルクスの金の瞳が、さらに冷たく細まる。


「貴様のような戦闘狂に、主の何が分かる」

「分かるさ」


 ヴィーシャは獣じみた笑みを深めた。


「ノアの隣に立つやつは、みんな同じ目をする」

「一緒にするな」

「ははっ、嫌だね。お前、昔より余裕なくなってんぞ」

「貴様を前にして余裕を持つ必要などない」

「言うじゃねえか、狼王!」


 言葉を交わしながらも、両者の速度は落ちない。

 人の目で追える限界を軽く超えた位置で、白銀と褐色の影がぶつかり合う。

 爪と拳、脚と牙、純粋な殺意だけで成立するような乱戦だった。

 だが、押し返し切れるわけじゃない。


 ――ヴィーシャは強い。


 ルクス一体に前面を任せ続けるのは危険――なら、俺が崩す。

 片手を軽く開き、魔力を指先へ集中させる。

 術式を圧縮し、武装召喚の回路だけを切り出す。


「――契約武装、解放」


 短く詠唱する。

 空気が震え、青白い魔力が両手の中へ収束した。


「顕現しろ――黒星(くろほし)白雨(しろあめ)


 次の瞬間、両手に二つの重みが落ちる。


 漆黒と白銀。

 二丁の拳銃。


 片方は魔力を穿つ黒。

 もう片方は軌道制御に優れた白。

 前の世界で使い慣れた、俺の契約武装だ。

 背後で、三人が息を呑むのが分かった。


「拳銃……?」


 花宮が掠れた声を漏らす。


「なんでそんなのまで……」


 理央も呆然と呟く。


「お前、どこまで……」


 それに対して今は答える暇はない。

 ルクスがヴィーシャの爪を受け流した一瞬、その肩口がわずかに開く。


「ルクス、半歩引け!」

「御意!」


 ルクスが即座に身を沈める。

 その頭上を抜くように、俺は黒星を撃った。

 轟音――魔力弾が一直線に走り、ヴィーシャの肩口を掠める。

 掠めただけ。だが、軌道を逸らすには十分だ。


「はっ!」


 ヴィーシャが目を見開き、楽しそうに笑った。


「それだよ、それ!」


 弾痕から薄く煙を上げながら、さらに口元を吊り上げた。

 対し、俺は止まらず、続けて白雨を撃つ。

 今度は直線ではない。

 白い魔力弾が壁を掠め、角度を変え、ヴィーシャの死角側から飛び込む。


「っ、おお!」


 ヴィーシャが身を捻って躱す。

 だが、その一瞬で十分だった。


「ガルド、前へ!」

「承知!」


 重い踏み込みと共に、ガルドの盾が前面へ出る。

 その圧だけで、ヴィーシャの間合いがわずかに押し返された。


「いい連携だなぁ!」


 ヴィーシャは心底嬉しそうだった。


「最高じゃねえか! ノア、お前、やっぱり生きてた方が面白い!」

「黙れ」


 黒星と白雨を構え直す。

 狙うのは致命傷じゃない。

 ヴィーシャ相手にそんなものは簡単には通らない。

 必要なのは、崩し、遅らせ、ルクスとガルドの動きに噛ませることだ。

 ヴィーシャは喜んでいる時ほど危険だ。

 こちらが守りへ回れば回るほど、あいつはそこを抉ってくる。

 だから、最初に線を引く。


「三人とも、絶対に前へ出るな」


 三人へ背を向けたまま、低く命じる。


「一歩でも出たら、次は守れないから」


 言い終えると同時に、ヴィーシャが獣じみた笑い声を上げて再び跳んだ。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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