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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第02章 王虎の戦姫編

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第57話 もう、隠せない


 ヴィーシャの最初の一撃は、最初から殺すためのものだ。

 飛びかかってきた瞬間、空気が裂けるのを俺はよける。

 爪そのものより、その軌道に乗った圧がまずい。

 真正面で受ければ、学生どころか並の探索者でも身体ごと持っていかれる。

 俺は反射で前へ出ていた。

 金属がぶつかるような甲高い音が響き、咄嗟に張った防壁術式が、一撃で半分以上持っていかれた。

 足元の床が砕け、靴裏が滑る。


「っ……!」


 重い――分かっていたが、やはり重い。

 この女は前の世界でも最上級に近い前衛だったのを思い出す。

 速度も、膂力も、殺意も、全部が頭一つ抜けている。


「ははっ!」


 ヴィーシャは楽しそうに笑ったまま、後ろへ跳ぶ。

 虎の尾が大きく揺れ、金の瞳が獲物を見つけた獣みたいに細められる。


「いいねえ、その顔!最高だ!」


 背後で、理央たちが息を呑む気配がした。

 今の攻防は、学校実習の延長で見ていいものじゃない。

 あいつらが入り込める隙なんて一切ない。

 理央が叫ぶ。


「く……乃亜!!」

「前に出るな!」


 振り返らずに言い切る。

 その一言で、理央の足が止まるのが分かった。

 だが止まっただけだ――このまま隠したまま戦えば、次で限界が来る。

 ヴィーシャは一切手を抜いていない。

 最初の一撃を防げたのは、俺が辛うじて読めたからだ。

 もし理央でも透花でも花宮でも、誰か一人でも真正面にいたら死んでいた。


 自分の正体を、そして力を隠したままでは守れない。


 その結論だけが、異様にはっきりしていた。

 胸の奥が冷える。

 正体を見せれば、もう今まで通りにはいかない。

 ”久城乃亜”としての立場はさらに崩れるだろう。

 理央も、透花も、花宮も、俺を”同級生”としては見られなくなる。


 だが。


 それでも。


 目の前で死なせるよりはましだ。


「……仕方ない」


 小さく吐き捨てる。

 覚悟というほど立派なものじゃないが、それでも今の状況を何とかするには使った方がいい。

 俺は三人を振り返った。

 理央は武器を握ったまま、だが前へ出ることもできずにこちらを見ている。

 透花は青ざめた顔で息を止め、花宮は端末を抱えたまま完全に言葉を失っていた。

 全員、状況に追いついていない。

 だが理解していることはある。


 今ここにいる“久城乃亜”は、もう自分たちの知っている範囲を完全に超えている。


「――説明は後だ」


 俺は低く言った。


「今は生き残ることだけ考えてくれ」

「乃亜、お前――」

「俺の後ろから出るな、良いな理央?」


 理央の言葉を切るように言い切る。

 花宮がかすれた声で言う。


「……それ、もう隠す気ないってこと?あの力の説明してくれるって?」

「ああ、そうだな」

「それで、久城くんは……!」

「……」


 花宮の言葉にそれ以上何も言わなかった。

 そして、透花は何も言わなかった。

 ただ、強く息を呑んだまま、俺の足元を見ていた。


 そこへ、前の世界の術式が走り始めていたからだ。


 床に薄く光が滲む。

 こちらの世界のダンジョン術式とは違う、もっと古く、もっと重く、契約そのものを刻む光。

 円環が重なり、文字が浮かび、魔力が螺旋を描き――それは、隠してきた召喚陣だ。

 今までの簡易術式や一瞬の顕現とは違う。

 本格的な召喚を作った。


「なに、それ……」

「久城くん……」


 透花の声も掠れている。


「お前、本当に……」


 理央がそこで言葉を失った。

 ヴィーシャはその光景を見て、さらに笑みを深くした。


「ああ、いいねぇ……やっとそれを見せる気になったか、ノア」


 嫌になる――この女は本当に、俺の全部を試すのが好きだった。

 嬉しそうで、楽しそうで、だからこそ最悪だ。


「だけど、遅えよ」


 ヴィーシャが爪を鳴らす。


「もっと早く本気出してくれりゃよかったのに」

「黙ってろ」

「無理だね。今のあたし、すげぇ機嫌いいから」


 次の一撃が来る前に、終わらせる。

 少なくとも、この三人を巻き込まない形へ持っていかなければならない。

 なら、最初に呼ぶべきは決まっていた。

 守りを切らさず、前に立てるやつ。

 俺の指示を最短で理解し、余計な問答なく動くやつ。

 召喚陣の光が一段強くなる。

 空気が震え、契約の向こう側がこちらへ開き、俺は深く息を吸い、名を呼んだ。


「来てくれ――ルクス、ガルド」

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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