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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第05話 最初の召喚

 床に浮かぶ召喚陣を、俺はしばらく動けずに見つめていた。

 淡い光の輪は脈打つように明滅し、見慣れた紋様を一つずつ浮かび上がらせていく。

 契約術式――召喚士である俺の魂に焼きついている、あまりにも懐かしい形だった。

 異世界で処刑されたあの日、契約は断ち切られたはずだった。

 王国と神殿が総力を挙げて俺と召喚獣たちの繋がりを無理やり引き裂いて。

 あの痛みはまだ覚えている。

 骨でも肉でもなく、もっと深い場所を千切られるような苦痛だった。


 ――それなのに、今、ここにある。


 別の世界。別の身体。

 それでも術式は俺を覚えていた。


「……本当に、使えるのか」


 声に出しても、自分で信じきれない。

 だが目の前の陣は消えない。

 むしろ、俺が意識を向けるたびに淡く強さを増していく。

 俺は息を整える。

 動揺している場合じゃない。

 もしこの術式が本物なら、確かめるべきことは一つだ。


 契約が残っているのか?

 あいつらが、まだどこかにいるのか?


 ゆっくりと膝をつき、床に手をかざす。

 魔力を探る感覚は、異世界のものと微妙に違っていた。

 空気の流れが軽い、粒が細かい、そして術式に乗せた時の反応も少し鈍い。

 何より、この身体が未熟だ。

 魔力回路の質も量も、俺が嘗て使っていた肉体には遠く及ばない。


「くそ……」


 思った以上に厳しい。

 無理やり流せば術式は動く。

 だが制御を誤れば、この身体に負荷が集中する。

 今の俺は英雄でも最強の召喚士でもなく、十四歳の痩せた少年の肉体を借りているにすぎない。


 ――それでも、やるしかなかった。


 この世界に来てからずっと、俺は何一つ確かなものを持てずにいた。

 家族は信用できない。

 学校も同じ、身体すら自分のものではない。

 そんな中で、もし一つでも過去と繋がるものがあるなら、それを掴まない理由はない。

 俺は目を閉じ、意識を深く沈めた。


 契約は、名だ。

 互いの存在を結ぶ楔。

 召喚陣の核に刻み込むべきは、術そのものよりも先に、その存在を【呼ぶ】意志。

 数ある契約名の中で、俺が最初に思い浮かべたのは、いつだって一つだけだった。


 白銀の毛並み。

 月下に光る巨躯。

 金の瞳――静かで、鋭く、誰よりも揺るがない忠誠。

 あの日、断絶の闇の向こうから最後に届いた声も、あいつのものだった。

 呼吸をひとつ。

 術式が熱を帯びる。


「――来い」


 喉がひどく乾いていた。

 それでも、名前だけは震えなかった。


「ルクス」


 その瞬間、召喚陣が強く発光した。

 部屋の空気が一変する。

 冷たい風が吹き抜け、薄汚れたカーテンが大きく揺れた。

 窓は閉まっているのに、銀色の光が粒となって舞い上がる。

 魔力の奔流が床を走り、陣の中心で一点に収束していく。

 反射的に腕で目元を庇った。


 次に顔を上げた時、そこにいたのは――長身の青年だった。


 肩口まで流れる銀髪。

 淡い金色の瞳。

 整った顔立ちは冷たくさえ見えるのに、その奥に潜む気配だけは俺の知るものと寸分違わない。

 耳と尾は今は出していない。

 だが、人の姿を取っていても分かる。


 白銀狼王ルクスーー俺が最初に契約した、最古参の召喚獣。


 胸の奥が、強く鳴った。

 信じられない。

 なのに、信じるしかない。

 俺は本当に、こいつを呼んだのだ。

 ルクスは俺を見ると、何も言わず一歩前へ出た。

 そのまま静かに片膝をつき、頭を垂れる。

 再会を嘆くでもない。

 驚きもしない。

 ただ、当たり前のように。


「――お迎えに上がりました、我が主(ノア様)


 息が止まった。

 その一言だけでよかった。


 異世界で裏切られた。

 この世界でも、目覚めてから信じられる人間は一人もいなかった。

 誰も見ない。誰も聞かない。誰も信じない。

 そんな中で、世界を二つ越えてなお、俺を俺として見つけてくれた存在が目の前にいる。

 張りつめていた何かが、そこで初めてわずかに揺らいだ。


「……本当に、ルクスなんだな」


 ひどく情けない確認だった。

 だがルクスは顔を上げ、当然だと言うように俺を見た。


「他の何に見えますか」

「いや……見えない、が」


 うまく言葉が出ない。

 嬉しいとも、安心したとも、簡単には言えなかった。

 そんな感情はとっくに削り取られたと思っていたからだ。

 ルクスは立ち上がると、部屋の空気を嗅ぐようにわずかに目を細めた。

 次いで視線を俺へ戻し、じっと観察する。


「……身体が違いますね」

「ああ」

「魂の核は我が主のままです。ですが器が未熟……魔力回路も細いですね」

「分かるのか?」

「当然です」


 淡々と答えながら、ルクスは一歩近づいた。

 そして俺の頬や首筋に触れないぎりぎりの距離で、何かを確かめるように息を潜める。


「……家の中が淀んでいる」

「淀み?」

「悪意と、長く積もった匂いです」


 言われて、思わず苦く笑いそうになった。

 匂いでそこまで分かるのか、という驚きと、やはりそう見えるのかという妙な納得が同時に来た。


「……この身体の、乃亜の記憶を見た」


 俺が言うと、ルクスの金の瞳がわずかに細められる。


「……そうですか」

「この身体の持ち主はまだいる。闇の中に沈んでいた。俺に、返してくれるのかと聞いた」


 口にすると、あのかすれた声がまた胸に刺さった。

 ルクスはすぐには答えなかった。

 その沈黙が、かえって事実を確かめているようで恐ろしくなる。


「ルクス」


 知らないうちに、声が少し強くなっていた。


「乃亜は、生きているのか」


 ルクスはまっすぐに俺を見た。

 その答えは、あまりにもはっきりしていた。


「この肉体の本来の持ち主は、まだ消えていません」


 喉の奥が、ひどく熱くなった。


「召喚された直後から感じていました。弱いが、確かに魂の灯がある」

「なら、どうして出てこない?」

「沈みすぎているからです。壊れかけた魂は自らを守るため深層に潜ることがある」


 ルクスの視線が、俺の胸のあたりへ落ちる。


「ただし、完全に孤立しているわけではありません」

「……どういう意味だ」


 そこで初めて、ルクスの声がわずかに柔らかくなった。


「我らが支えています」

「……は?」

「断絶の直後、契約は完全には消えませんでした。主の魂がこちらへ流れ着いた時、我らもまた残滓として引き寄せられたのです」

「残滓、だと?」

「はい。今の我らは異世界にいた頃の完全な顕現ではない。ですが、契約の核だけは保っていた」


 ルクスは淡々と説明する。


「この肉体に主の魂が宿った時、本来の持ち主の魂は強い衝撃を受けた。消えかけてもおかしくなかったでしょう。ですが主の中に残っていた契約の核に、我らが縋りついた」

「……」

「深く沈んだあの子の魂を、我らが囲って支えていました。消えぬように。砕けぬように……主が目を覚ますまで、ずっと」


 それを聞いた俺は言葉を失った。

 乃亜の魂は、ただ闇に沈んでいたわけじゃない。

 誰にも見つけてもらえず、完全に一人だったわけでもない。


 俺の召喚獣たちが守っていたのだ。

 俺の知らないところで。

 俺がまだここへ来る前から。


 胸の奥に、言葉にならない感情が満ちる。

 ありがたい、というだけでは足りなかった。

 救われたのは乃亜だけじゃない。たぶん今の俺もそうだ。


「……お前たちは」


 ようやく出た声は、少しかすれていた。


「どこまで、勝手なんだよ……っ」

「……主に、ノア様に似たのですよ」


 静かに笑いながら答えるルクスに平然と返されて、思わず息が漏れた。

 笑ったのかもしれない。

 ほんの僅かだったが、確かに頬の緊張が緩んだ。

 ルクスはそれを見ても表情を大きく変えない。

 だが尾が出ていたら、たぶん少しは揺れたのだろうと思う。


「戻せるのか?」


 俺は改めて問うた。


「乃亜を、この身体に」

「可能性は高いです。ただし、簡単ではありません。沈んだ魂を浮上させ、肉体との結びつきを安定させるには、強い核が要る」

「核?」

「この世界で言うなら、ダンジョン深層に眠る特殊資源に近いものです」


 そこで俺は眉を寄せた。

 ダンジョンーーこの世界へ来てから、何度も目にした言葉だ。

 配信。探索者。攻略。

 現代の人間は、それを金や人気に変えるために潜るらしい。

 だが俺にとっては違う。あれは命を懸けて踏み込むべき危険地帯であり、未知の資源庫だ。


「深層にある何かが必要なのか?」

「はい。魂を繋ぎ直すほどの力を持つものが」

「場所は分かるのか?」

「大まかには……ですが」


 ルクスは視線を部屋の外へ向けた。

 まるでこの世界の地脈や魔力の流れを探るように。


「この街の近辺にも入口はあります。ただ、今の主の身体で深層を目指すのは危険が大きい」

「危険でない戦場なんてない」


 俺は即答すると、ルクスは静かにこちらを見た。

 咎めるわけでも、止めるわけでもない。

 だが、その眼差しには確認があった。


 ――本気か、と。


 俺は短く息を吐いた。


「この身体は借り物だ」

「はい」

「なら、返さないといけない。それと、返せる道があるなら、俺はそこまで行く」


 処刑台の上で奪われた俺の人生は戻らない。

 裏切られた事実も消えない。

 だが、乃亜の人生までここで終わらせるつもりはなかった。


 ――人間は信じない。


 それでも、この身体だけは返すと決めた。

 ルクスは数秒だけ沈黙し、それから深く頭を垂れた。


「――御意」


 その一言で十分だった。

 こいつは止めない。

 俺が行くと言えば、どこまでもついてくる。

 胸の奥の冷え切っていた部分に、微かな火が灯る。

 怒りではなければ、絶望でもない。

 もっと静かな、決意に近いものだった。


「なら、潜ってみるか。今すぐに」

「潜る、とは?」

「ダンジョン」


 俺の発言を聞いたルクスの金の瞳が、わずかに細められる。

 あれはたぶん、肯定の色だ。

 そして、静かに笑みを俺の前に見せるのだった。


読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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