表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第3部6月から開始】異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第02章 王虎の戦姫編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/87

第49話 最初の異常

 浅層の実習は、表向きには順調に進んでいた。

 教師の指示に従って進み、班ごとに簡単な索敵と採取をこなし、小型魔物との接触も大きな混乱なく処理する。

 生徒たちの緊張も、最初に比べれば少しだけほぐれてきていた。

 理央もさっきまでより肩の力が抜けている。

 花宮は記録端末の操作に慣れ始め、透花も慎重に周囲を見ながら歩けるようになっていた。


 ――本当、普通に見れば、ただの実習だ。


 だが、俺には途中から別のものが引っかかり始めていた。

 最初に違和感を覚えたのは、空気の密度だった。

 浅層のダンジョン特有の軽い湿り気に混じって、ところどころ妙に重い場所がある。

 魔力の流れが薄く淀んでいる。

 自然な偏りと言われればそう見えなくもないが、繰り返し感じるには不自然だった。


 次に、壁際へ残った痕跡。


 理央が先頭寄りを歩き、透花が周囲を見て、花宮が端末へ記録を入力している。

 その後ろから、俺は岩肌の傷を見つけた。


 爪痕。

 しかも、さっきまで遭遇していた小型鼠種のものではない。

 もっと深く、硬い。

 立ち止まりかけたところで、胸の内側から機械的な声が走る。


『地図情報との誤差拡大』


 リゼットだ。


『現在位置推定と実導線に微差が発生しています』

『誤差率はまだ軽微。ですが、通常値ではありません』


 視線を上げる。

 教師たちはまだ生徒を誘導している。

 他班も同じように進んでいて、表面上は何も変わらない。

 だが、先ほど見た分岐が資料のマップよりわずかに長かった。

 一本道のはずの通路が、実際には緩く湾曲している。

 学校側の簡易マップが雑なだけとも言える。

 だが、魔力の淀みと痕跡が重なると話は変わる。


「……久城くん?」


 透花が小さく呼ぶ。

 気づけば、俺は少しだけ歩調を落としていたらしい。


「何かあった?」

「――いや」


 短く返して前を見る。

 まだ、確信はない。

 理央が振り返る。


「どうした」

「何でもない」

「本当?なんか、なんでもないですーって言う顔していないんだけど」


 花宮が言った。

 やっぱり花宮はこんな性格だが、目はちゃんとこちらを見ている。

 こいつはこういう時、空気の変化を拾うのが早い。


「……気のせいならいい」


 俺はそう言って歩き出した。

 だが、数分進んだところで、違和感はさらに形を持ち始める。

 通路の先、岩壁の陰に残る魔物の気配。

 小さい――だが浅層のものにしては魔力が濃い。

 理央が前へ出ようとした瞬間、俺は短く言った。


「理央、待て」

「は?」

「俺が先に見るからそこで待っててくれ」


 それを聞いて、理央が怪訝な顔をする。

 だが、次の瞬間、岩陰から飛び出してきたのは、さっきまでの鼠型とは少し違う個体だった。

 細長い四肢と甲殻混じりの外皮。

 浅層に出る小型としては、明らかに硬い。


「うわ、何あれ」


 花宮の声が引きつる。


「資料にあったやつとは違う感じがするけど……?」

「透花、下がれ」


 俺が言うと、透花がすぐ一歩引いた。

 理央は反射で前へ出たが、その直後、教師側から別の声が飛ぶ。


「四班、接敵か!落ち着いて対処しろ!」


 教師も異常に気づいたらしい。

 だが、その顔にはまだ予定外ではあるが対処可能という程度しかない考えなのであろう。


 理央が一体目を叩き、教師が別方向から牽制を入れる。

 数は少ないし、処理できない相手ではない。

 問題は、ここにいることそのものだった。

 倒れた個体を見た教師の一人が、わずかに眉をひそめる。


「……この型、浅層記録にあったか?」

「いえ、少なくとも今日の想定リストには」

「迷い込んだか?」


 小さく交わされる声。

 教師も少しだけ違和感を覚え始めている。

 だが、まだ深刻には受け取っていない。

 理央が息を整えながら言う。


「ダンジョンって、多少こういうのあるんじゃないのか?」

「あるにはあるけど」


 花宮が端末を見ながら答える。


「でもさ、先生たちもちょっと変な顔してるよ?」

「……嫌だな」


 透花が小さく呟いた。

 その声には、さっきまでよりはっきりした不安が混じっていた。

 当然だろう。

 実習は“安全な授業”のはずだった。

 その前提が、小さくずれ始めている。

 俺は通路の先を見る。

 空気が少し冷えている。

 いや、冷たいというより密度が変だ。

 呼吸の奥へ薄く引っかかる感じがある。

 これは自然なダンジョン変動じゃない。

 そう思った瞬間、背筋を何かが這う。


『警告』


 リゼットの声が再び響く。


『導線誤差、継続増大』

『簡易マップとの一致率が低下しています』


 やはりか。

 地図のズレ。

 魔力の濃度。

 想定外の魔物。

 全部が小さい。だが小さいまま重なりすぎている。


「――久城」


 理央が低く呼ぶ。

 さっきより声色が慎重に聞こえる。


「お前、何か気づいてるのか?」

「……まだ、断定はできない」

「でも何かあるんだろ?」

「多分」


 そう答えると、三人の顔が揃って変わった。

 花宮は冗談を言わなくなった。

 透花は目に見えて緊張を強めている。

 理央もようやくただの浅層実習という前提を少し外したらしい。

 その時、別班側から教師の呼び声が飛ぶ。


「一度立ち止まれ!班ごとに位置確認するぞ!」


 表面上は冷静だ。

 だが、声に少しだけ硬さがある。

 教師たちも、完全には見過ごせなくなったのだろう。

 周囲のざわめきが広がる。

 何があったのか分からない生徒たちが、不安げに顔を見合わせている。


 俺は四班の三人へ視線を向けた。


 ここで勝手に動かれたら面倒になる。

 いや、面倒では済まないかもしれない。


「……ここから先」


 自分でも少し驚くくらい、声が低くなった。


「勝手に動くなよ」


 それを聞いて、三人が一瞬で黙る。

 理央が目を見開き、透花が小さく息を呑み、花宮は冗談を差し挟む余裕を失った顔でこちらを見た。

 多分初めてだろう――俺がこれだけ明確に、強い口調で言ったのは。

 そして俺も、何処か不安な表情を浮かべるのだった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ