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【第3部6月から開始】異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第02章 王虎の戦姫編

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第44話 瑠亜の小さな妨害【久城瑠亜視点】


 (乃亜)が、自分以外の人間と同じ班にいる。

 それだけでも十分に気持ち悪いのに、もっと嫌なのは、その三人が兄のことを前みたいに見なくなってきていることだった。


 ――花宮澪。

 ――三枝透花。

 ――榊原理央。


 前ならもっと簡単だったはずだ。

 兄は面倒なやつで、関わらない方がよくて、問題を起こしがちな兄。

 そういう空気に乗せてしまえば、あとはみんな勝手に距離を取ってくれた。

 でも、もうどうにもならなくなってきた。

 階段の一件からだ。

 兄があの場で崩れなかったせいで、少しだけ空気が変わってしまった。

 たったそれだけなのに。

 押したと決めつけきれなかった。それだけなのに。

 今までなら“でも久城だし”で言われて、流れていたものが、少しずつ止まるようになっている。

 それが、どうしようもなく不快でたまらない。


 昼休み、花宮が友達と話しているところへ近づく。

 声をかければ、花宮はすぐに気づいて顔を上げた。


「瑠亜くん、どうしたの?」

「ちょっとだけ。実習のことなんだけど」


 そう言うと、花宮は「あー、班の?」と軽く返す。

 その反応が、もう少し引っかかる。

 前ならもっと「瑠亜くんが心配してくれてる」みたいな顔をしていた気がするのに。


「兄さんと同じ班でしょ?」

「うん、そうだけど」

「気をつけてね、兄さん気分で急に行動変わることあるから」


 それは、いつも通りの言い方だ。

 押しつけがましくならないように、でも不安は残るように。

 優しい忠告みたいに聞こえる温度で言う。

 前なら、これで十分だった。

 花宮は一瞬だけあたしを見て、それから「へえ」と小さく言った。


「ふーん、そうなんだ」

「うん。悪気があるとかじゃないんだけど、急に一人で抱え込んだりするし。実習って危ないから、もし何かあったら無理して合わせない方がいいよ」

「ふーん」


 その返し方が、少しだけ変だった。

 もっと素直に飲み込むかと思っていたのに、花宮はどこか引っかかるみたいな顔をしている。


「了解、ありがと。参考にはする」

「……うん」


 参考にはする――その言い方は、信じるとも違う。

 花宮は軽そうに見えて、前よりちゃんと考えている顔をするようになっていった。

 その事が妙に嫌だった。


 次は透花に声をかける。

 透花は昔から押しに弱い。

 強く出れば引くし、曖昧なまま飲み込む。

 だから、本当ならいちばん動かしやすいはずだった。


「透花ちゃん」

「あ……えっと……瑠亜くん」

「ちょっといい?」


 廊下の端へ寄ると、透花は少し緊張したみたいに立ち止まった。


「実習のことなんだけど」

「う、うん」

「無理して乃亜兄さんに関わらない方がいいよ」


 変わらず、優しく言う。

 心配している弟の顔で。


「兄さん、最近ちょっと変だから。透花ちゃん、昔から優しいし、放っておけないかもしれないけど……巻き込まれたら嫌だし」

「……」

「班だからって、無理に気にしなくていいからね」


 透花はすぐには返事をしなかった。

 その沈黙に、少しだけ違和感を覚える。

 前ならもっと分かりやすく揺れていた。

 困ったように笑って、「そうだね」とか、「うん、分かった」とか、そういう返しが来たはずなのに。

 でも透花は、少し迷うように目を伏せてから言った。


「……瑠亜くんは、どうしてそんなに言うの?」


 一瞬、呼吸が止まりそうになった。


「え?」

「いや、ごめん。変な意味じゃなくて」

「お、弟として心配してるだけだよ?」

「……そう」


 そう言った透花の顔には、前みたいな素直さがなかった。

 どうしてだろう?

 すごく、納得していない。

 寧ろ、少しだけこっちを警戒しているみたいだった。


 ――何それ、どうしてそんな目をするの?


 最後に理央だ――こいつは透花より面倒で、花宮より露骨だ。

 だから逆に、言葉は選びやすい。


「あ、見つけた、理央」

「何だよ」


 相変わらずなぶっきらぼうな返し。

 昔からそうだ。

 だけど、今の理央には前より少し苛立ちが混じっている気がした。


「兄さんと実習の班、一緒なんだよね」

「見りゃ分かるだろう?」

「兄さん、実習で足引っ張るかもしれないからさ」


 言った瞬間、理央の顔がはっきり曇った。


「……何が言いたいんだよ?」

「別に。気をつけた方がいいってだけ。兄さん、最近少し落ち着いて見えるけど、ああいうのって逆に危なかったりするし」

「……お前さ」


 理央の声が低くなる。


「それ、兄貴の心配してる風に見せて、結局印象悪くしたいだけだろ?」


 思わず笑顔が固まりかけた。

 まさか、そんな風に返されるなんて、少し前ならなかったはずだ。

 理央だって、前まではもっと簡単に空気へ乗っていたのに。


「そ、そんな言い方ないでしょ?」

「じゃあどういう言い方ならいいんだよ?」

「僕はただ――」

「兄貴のこと気にする前に、自分のこと気にしろよお前」


 そこまで言われて、さすがに胸の奥が冷えた。

 理央はもう、前みたいに“兄に問題がある”側へ簡単に乗らない。

 少なくとも今は、そうなっている。

 それが分かっただけで十分に腹が立った。


 理央が離れた後、呆然としながら三人の事を思い出した。


 花宮は軽く流した。

 透花は迷いながら、でも素直には飲み込まなかった。

 理央に至っては、はっきり不快そうな顔をした。


 どれも、前ならあり得なかった反応だ。

 前はもっと簡単だったのに。


 兄が問題児。

 弟はかわいそう。

 そういう空気を作れば、みんな勝手にそっちへ寄ってきたのに。

 なのに今は違う。

 兄を見て、自分で考えて、勝手に迷い始めている。


 ――どうして?


 どうして、みんな兄さんを前みたいに見なくなったの?

 教室の扉の前で立ち止まり、そっと中を見る。

 窓際の席で、兄は一人で座っていた。

 静かにしながら相変わらず僕の知らない顔をしている。

 その顔が、ひどく嫌だった。

 でも、まだ終わっていない。

 少し空気がずれたくらいで、全部がひっくり返るわけじゃない。

 兄の立場が一気に良くなるわけでもない。

 まだ、やりようはある。

 そう思っても、胸の奥のざらつきは消えなかった。

 僕は小さく息を吐いて、心の中で再度呟いた。


 ――どうして、みんな兄さんを前みたいに見なくなったの?

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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本当はグッドボタンを下に反転させたい。 自分以外を貶める事でしか保てない安いプライドがへし折れる日が楽しみです。
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