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【第3部6月から開始】異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第02章 王虎の戦姫編

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第41話 榊原理央の後悔【榊原理央視点】

 帰り道は、やけに風が強かった。

 制服の上着が少し煽られて、俺は片手で鞄の肩紐を掴み直す。

 駅へ向かう生徒の流れから少し外れた道を歩きながら、頭の中ではさっきの打ち合わせのことがまだ引っかかっていた。


 ――久城乃亜(くじょうのあ)


 同じ班になった時、真っ先に思ったのは「よりによって」だった。

 正直に言えば、今も面倒だと思ってる。

 でも、それだけじゃない。

 最近のあいつを見てると、昔のことを嫌でも思い出す。


 小さい頃、俺は乃亜と瑠亜、そして透花とよく一緒にいた。

 どっちかっていうと最初に気が合ったのは乃亜の方だったと思う。

 あいつは今みたいに無口ではなかった。

 いや、もともと口数が多い方じゃなかったけど、ちゃんと笑ってたし、遊びの輪から外れるようなやつでもなかった。

 派手に目立つタイプじゃない。

 でも、誰かが転んだら先に手を出すし、喧嘩になりそうなら間に入る。

 損な役回りを、あんまり嫌そうな顔をせずにやるやつだった。

 多分、優しかったんだと思う。

 それも、自分を良く見せるための優しさじゃなくて、ただ放っておけないってだけのやつだ。


 瑠亜は昔から器用だった。

 明るくて、愛想がよくて、大人にも好かれる。

 何かあっても泣きそうな顔をすれば、自然と周りが庇う空気になる。

 別にそれが悪いってわけじゃない。

 少なくとも小さい頃の俺はそう思ってた。


 でも、気づいたら空気が変わってた。


 同じことをしても瑠亜なら「いい子」で乃亜だと「ちょっと厄介」になる。

 瑠亜が困った顔をすると、周りは乃亜を見る。

 乃亜が黙ると、それが余計に“やっぱりそうなんだ”みたいな雰囲気になった。

 最初は違和感があった。

 でも、その違和感にいちいち口を挟むほど、俺は正義感の強いやつじゃなかった。


 多分、俺は面倒だったんだと思う。


 誰かに逆らうのも。

 空気に水を差すのも。

 「そんなことないだろ」って言って、自分まで変な目で見られるのも。

 だから少しずつ、俺も離れた。

 嫌いだったわけじゃない。

 寧ろあいつがそういうふうに扱われてるのを見て、居心地の悪さはあった。


 俺は庇わなかった。

 見て見ぬふりをしたんだ。


 気づいてなかったわけじゃない。

 分かってた、分かってたのに、自分からは何もしなかった。


「……最低だな」


 誰に聞かせるでもなく呟く。

 通り過ぎる自転車の音がして、それに声はかき消えた。

 最近の乃亜を見てると、そのことを嫌でも思い知らされる。

 前のあいつは、もっと分かりやすく削れていた。

 目が死んでて、何を言われても飲み込んで、でも限界の手前みたいな顔をしてた。

 正直、見てるだけで危なかった。


 だけど、今の乃亜は違う。まるで、別人だ。


 静かなのは同じだ。

 群れないのも同じ。

 でも、芯がある。

 今日の打ち合わせだってそうだった。

 もっと投げやりか、逆に拗ねたみたいな態度を取るかと思ってた。

 でも実際の乃亜は、必要なことだけを短く言って、状況を見て、役割まで整理していた。

 冷静で、合理的で、無駄がない。

 あれを見て、正直かなり驚いた。

 あれ、乃亜ってこんなやつだったか?――そんな風に思った。

 でも同時に、完全に知らない誰かって感じもしないのが余計に厄介だった。

 昔の乃亜も、本当はこういうやつだったのかもしれない。

 周りに潰されて、見えなくなっていただけで。

 そう考えると、胸の奥が鈍く重くなる。


 俺はあの時、助けなかった。


 嫌いだったんじゃない。

 面倒から逃げただけだ。

 今さら何だって話だと思う。

 今になって気にしたって遅い。

 そんなの、自分でも分かってる。

 でも、それでも最近の乃亜を見てると、放っておけない。

 完全に別人みたいに見える瞬間もある。

 全然、前の乃亜とは違う。

 立ち方も、目つきも、言葉の切り方も、何もかも全て

 でも、全部が全部別ってわけでもない。

 誰かを見捨てない感じとか、無理してでも前に立つ感じとか、そういうところに昔の乃亜の残りみたいなものが見える時がある。


 だから余計に、分からなくなる。


 何があったのか。

 どこで変わったのか。

 それとも、変わったんじゃなくて、何かがきっかけで戻ってきたのかもしれない。


 家に着いて、自室に鞄を放る。

 ベッドに腰を下ろして、天井を見上げた。


 あいつ(乃亜)は多分、何かを隠してる。

 どうしてそんな事を思ってしまったのか、俺にはわからない。

 少なくとも、今の俺よりずっと周りを見てる。

 今日の打ち合わせで、それははっきりした。

 なら、せめて実習の間くらいは、ちゃんと見ていこうと思った。

 前みたいに、空気に流されて見ないふりをするんじゃなくて。

 何かあったら、今度はちゃんと手を差し伸べて昔みたいに声をかければいい。

 庇うとか、味方になるとか、そこまで綺麗なことはまだ言えない。

 でも、少なくとも見て見ぬフリだけはしたくなかった。


「……実習、かぁ」


 小さくそう言って、俺は膝に肘をつくのだった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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