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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第02章 王虎の戦姫編

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第40話 ぎこちない打ち合わせ

 放課後、俺たちは図書スペースの端にある丸机へ集められていた。

 教室ほど騒がしくはないが、完全に静かでもない。

 周囲には何組か同じように班ごとで集まっている生徒がいて、ページをめくる音や小さな話し声が途切れず流れている。

 実習前の打ち合わせをするには、確かにちょうどいい場所だった。

 もっとも、こちらの空気はちょうどよくはなかったが。

 理央は腕を組んだまま椅子に座り、いかにも話しづらそうな顔をしている。

 透花は資料を前に置いているが、視線は時々こちらへ迷うように流れてくる。

 花宮だけが比較的いつも通りで、机に頬杖をつきながら三人の顔を見回していた。


「……とりあえず」


 最初に口を開いたのは、その花宮だった。


「最初から空気重いんだけど」


 その一言で、理央が露骨に顔をしかめる。


「お前な……」

「いやだってそうでしょ?このまま無言で座ってても何も決まんないし」


 それについては間違ってはいない。

 四人で集まったはいいが、誰も最初の言葉を選びあぐねている状態だった。


 花宮は軽く肩をすくめる。


「せっかく班になったんだから、せめて実習で詰まない程度には話しとこ。ね?」

「……そうだな」


 理央が短く頷いた。

 ぶっきらぼうだが、逃げるつもりはないらしい。


「じゃあ、実習の基本から確認しよっか」


 花宮が配布されたプリントを広げる。

 基礎実習、初級ダンジョン、班行動、記録端末、危険時の退避手順。

 学校側が用意した“安全な授業”の枠組みがそこに並んでいる。

 理央がそれを指でなぞりながら言った。


「実習は第三管理区域の初級ダンジョン。教師が複数ついて、基本は浅層だけ。班ごとに記録端末を持って、進行、索敵、戦闘補助、危険対応を見られる」

「戦闘補助ってことは、完全に見学ってわけじゃないんだね」


 透花が小さく言う。


「そりゃそうだろ。探索者育成コース志望ならなおさらだ」


 理央の返しは早い。

 こういうところは、いかにも現場に出る事を前提にしている人間らしかった。


「で、役割どうする?あ、あたし、前衛は無理。情報整理とか端末係ならやれるけど」

「俺は前に出る」

「まあ、そうだろうね」


 理央が前に出ると言って、花宮が苦笑する。

 透花は少し考えてから。


「私は索敵とか周りを見る方が向いてると思う」


 と、そのように言った。

 そこで三人の視線がこちらへ向いた。


「久城くんは?」


 花宮の問いは軽い。

 だが、目の奥はちゃんとこちらの反応を見ている。


「……一応、状況次第だ」

「なんだ、ざっくりだな」

「相手の出方も地形も分からないうちに役割を固定しすぎる方が危ないから」


 そう言うと、理央の眉がわずかに動いた。

 花宮も少しだけ目を丸くする。

 透花は意外そうにこちらを見た。


 ……何だ、その反応は。


「いや……」


 理央が小さく咳払いをする。


「もっと、やる気ない答えが返ってくるかと思った」

「ないわけじゃない。面倒なだけだ」

「面倒なんだ?」

「ああ、だって事実だろ?」


 そう返すと、花宮が吹き出しかけた。


「そこは正直なんだ」

「取り繕う必要がない」

「でも今の、普通にまともだったよ」

「まともじゃないと思ってたのか」

「いやあ……」


 花宮は言葉を濁した。

 だが、顔には“思ってた”と書いてある。

 理央がプリントへ視線を戻しながら言う。


「実習用の浅層でも、事故る時は事故る。特に班行動で厄介なのは、勝手に動くやつと周り見ないやつだ」

「それは同感だな」


 俺が言うと、理央が顔を上げた。


「……ああ」

「退路確認は先にやっておけ。入口と教師の位置も把握しておく。あと、誰かが戦闘に気を取られた時に端末持ちまで止まると、全体が見えなくなる」

「……」

「花宮は端末と後方確認。透花は周囲警戒寄り。理央は前に出るなら、出すぎるな。前衛が突っ込みすぎると後ろが死ぬ」

「おい、お前――」


 理央がそこで、少しだけ変な顔をした。


「……何だ?」

「いや……」

「言いたいことがあるなら言えよ、めんどくさいから」

「その……思ったよりちゃんと考えてるんだな、って」


 その言い方が少し気に障った。


「お前たちは俺を何だと思ってるんだ?」

「いや、えっと……」


 透花が困ったように口を開く。


「そういう意味じゃなくて」

「たぶん、“もっと投げやりかと思ってた”ってことだよね」と


 花宮が横から言った。

 そして、笑いながら答える。


「正直あたしも思ってた」

「……失礼だな」

「いやでも、最近までの久城くんって、そう見えても仕方なくない?そもそも前の久城くんっていつも下向いてておどおどしていた感じだし」

「……そうだな」


 それには返しづらかった。

 以前の乃亜は、俺のような性格ではない。

 きっと、周りに怯えながら下を向いているのだろう。

 周囲に削られ、疲弊し、集団の中でまともに立つ余力もなかったはずだ。


 だが今は違う。


 実習が集団行動の面倒ごとでしかないのは事実だ。

 信用する気もない。

 だが、だからといって無策で突っ込む気もない。

 必要なら守る。

 必要な範囲で動く。

 それだけだ。


「乃亜……久城くん」


 透花が、おそるおそるこちらを見る。


「さっきの、退路確認とか……そういうの、慣れてるみたいだったね」

「それは……ただの確認だ」

「でも、すぐ出てきたよ?」

「確認しないと死ぬからな」


 言ってから、三人の空気が少しだけ止まった。

 学校の実習で“死ぬ”という言葉は、たぶん少し重かったのだろう。

 花宮が小さく息を吐く。


「……久城くん、たまに言葉が生々しいんだよね」

「事実を言っただけだ」

「それなんだよねぇ……」


 軽く言いながらも、花宮の目はまた少しだけ探っている。

 配信者への既視感でも探しているのかもしれないが、今はどうでもいい。

 理央が机の上で手を組んだ。


「分かった。じゃあ当日は、俺が前。花宮が端末と記録寄り。透花が周囲確認。久城は全体見て、必要なら指示出せ」

「俺に指示を任せるのか」

「嫌なら別にいいぞ?」

「……いや、構わない」


 静かにため息を吐きながら、返事を返すと、理央がほんの少しだけ驚いた顔をした。

 透花も、花宮も似たような顔をしている。


「何だ」

「いや」


 理央が首の後ろを掻く。


「そこは断るかと思った」

「無駄に反発する方が面倒だ」


 そう返すと、花宮が笑った。


「やっぱ久城くん、最近ほんと変わったよね」

「昔と比べると堂々としている感じ……」


 透花が小さく言った。

 その言葉に、ほんのわずかに空気が変わる。

 理央は何も言わなかった。

 花宮も軽く目を細めるだけだった。

 誰もそこを深く追及しない。

 だが、三人ともたぶん同じことを考えた。

 最近の俺は、以前の“問題児”としての乃亜像と噛み合っていない。

 それが分かっただけでも、この打ち合わせの意味はあったのかもしれない。


「じゃ、今日はこんなもんでいい?」


 花宮がまとめるように言う。


「最低限の役割確認はできたし。あとは当日ちゃんと連絡取れば何とかなるでしょ」

「そうだな」


 理央が頷く。


「透花は?」

「うん、大丈夫」

「久城くんは?」

「問題ない」


 それで打ち合わせは終わった。

 席を立つ時、花宮が何気ない顔でこちらを見た。

 けれどその目には、朝や昼よりもはっきりした色があった。

 観察――確信に近づいていく時の目だ。


 ――やっぱり最近の久城くん、前と違う。


 多分、あいつはそんなことを考えている。

 そして、その勘はおそらく間違っていない。

 俺はそれに気づかないフリをしたまま、図書スペースを後にした。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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