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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第02章 王虎の戦姫編

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33/62

第33話 学校でずれ始める評価

 叔父の家から学校へ向かう朝は、まだ少しだけ落ち着かない。

 久城家から通っていた時とは道も空気も違うわけじゃない。

 制服も同じだし、校門をくぐれば待っているものも大きくは変わらない。

 それでも、身体の重さだけは前よりましだった。

 朝から責められもしない。

 露骨に無視されることもない。

 誰かの機嫌をうかがいながら食卓に座る必要もない。

 その程度のことで、人間は案外まともに動けるらしい。

 もっとも、完全に気が緩んだわけではなかった。

 校門をくぐった瞬間、背中にいくつかの視線が刺さる。


 ただ、その質が以前とは少し違う。


 前ならもっと単純だった。

 また問題を起こしたやつ。

 弟に迷惑をかける兄。

 面倒なやつ。

 危ないやつ。

 触らない方がいいやつ。

 そういう決めつけが、何も考えずにこちらへ向けられていた。

 しかし、今も視線はある。

 ひそひそ声もある。

 だが、その中に迷いが混じっていた。


「でも、押したの見た人いないんでしょ?」

「いやでも、瑠亜くん落ちたのはほんとだし……」

「でも久城って、あの時すぐ保健室連れてったんだよね?」


 廊下の端で交わされる小さな声。

 聞こえないフリをして通り過ぎる。

 完全に追い風へ変わったわけじゃない。

 ただ、あの乃亜が悪いに決まっている、で閉じていた空気に小さなひびが入っている。

 その事実だけで十分だった。


 教室へ入ると、朝のざわめきが少しだけ揺れた。

 何人かがこちらを見て、すぐに視線を逸らす。

 露骨な敵意ではない。寧ろ俺をどう扱えばいいか迷っている顔をしていた。

 自分の席へ向かい、鞄を置く。

 窓際の空気は相変わらず静かだ。

 だがその静けさも、前とは少し違って感じた。


 朝比奈湊がプリントを持って教室の中を回っている。

 以前ならこちらを見る目は、ほとんど監視に近かった。

 今はそこまで露骨ではない。

 警戒が消えたわけじゃないが、少なくとも勝手に決めつけると言う顔をしなくなった。


 花宮澪も、教室へ入ってきて俺を一瞬見たあと、前みたいに面白がるだけの目はしなかった。

 軽いようでいて、妙に観察する目だ。

 あいつはあいつで、何かを拾っているらしい。

 少しだけ厄介に思えるようになった。


 そしてもう一つ、今日は違う視線があった。


 ――三枝透花、俺、いや正確には乃亜と瑠亜の幼馴染だった少女だ。


 以前、廊下で話をした後から何度かこちらを見ているのは気づいていた。

 見ているだけで、話しかけてはこなかった。

 多分、向こうも迷っていたのだろう。


 だが今日は違った。


 ホームルーム前、席についていた俺の机の横に、ためらいがちな影が止まる。


「お……おはようっ!」


 顔を上げると、透花が立っていた。

 言ってから自分でも緊張したのか、指先が少しだけ制服の裾を握っている。

 予想していなかったわけではない。

 だが、実際に来られると少しだけ意外だった。


「あ、ああ……おはよう」


 短く返すと、透花はほんの少しだけ目を見開いた。

 その反応に、こちらの方が逆に戸惑う。


「えっと……」

「何だ」

「いや、その……ちゃんと返してくれるんだなって思って……」

「まぁ、一応挨拶されたからな」


 そう言うと、透花は困ったように、でも少しだけほっとしたように笑った。


「そ、そっか」

「で、何か用か?」

「用ってほどじゃないんだけど……」


 そこで言葉が止まる。

 何をどう切り出すか迷っているのが分かった。

 透花は昔から、勢いだけで踏み込むタイプではない。

 だからこそ今ここに立っていること自体、かなり思い切ったのだろう。


「最近、その……大丈夫?」


 ようやく出てきたのは、それだった。

 曖昧な問いだったが、同時に何処か”真”のようなものが見える。

 うまく説明できないのだが、真っ直ぐに見つめられているかのように。


「……何が?」

「その、学校とか……色々」


 透花の視線がわずかに揺れる。

 階段の件も、前から積み重なってきたものも、全部ひっくるめて聞いている。

 俺は少し考えてから答えた。


「前よりはましかもしれない」

「……そっか」


 それだけなのに、透花は小さく息を吐いた。

 ずっと胸の内に引っかかっていたものが、少しだけ軽くなったような顔だった。


「うん、よかった」

「そうか?」

「うん。前より……その、顔色いいから」


 そこで照れくさそうに視線を逸らす。

 気まずい沈黙が落ちるかと思ったが、教室のざわめきがちょうど間を埋めた。

 少し離れた場所では、瑠亜が取り巻きたちに囲まれていた。

 西園寺が何か話し、白石が笑い、瑠亜はいつもどおり柔らかい笑顔を浮かべている。

 人気者。優等生。愛想のいい弟。

 その立場はまだ揺らいでいない。

 だが、あいつも気づいているはずだった。

 教室の空気が以前ほど綺麗に自分の望む形へ閉じていないことに。

 実際、瑠亜の視線は何度かこちらへ流れてきていた。

 透花が俺の机の前に立っていることも、当然見ているだろう。

 それでも瑠亜は笑顔を崩さない。

 取り巻きと話し、周囲の期待に応える顔を続けている。

 あいつはそういう人間だ。

 空気が少し狂った程度では、自分から仮面を外したりしない。

 むしろ、前より丁寧に人気者を演じるだろう。


「……あの」


 透花が、まだ少しだけその場に残っていた。


「昨日じゃなくて、その前から、ちょっと思ってたんだけど」

「何?」

「乃亜く……久城くん、最近……後ろを向かないで、前をしっかり向いている、よね?」


 思わず透花を見る。

 言った本人も恥ずかしくなったのか、耳が少し赤い。


「あ、その、変な言い方だよね。ごめんっ!」

「いや……」

「でも、なんか……前より、話しかけやすい」

「そう見えるなら、そうなんだろうな」


 自分でも曖昧な返事だと思った。

 だが、それ以上うまく言えなかった。

 透花は少しだけ笑って、「そろそろ戻るね」と小さく言って自分の席へ戻っていく。

 その背中を見送りながら、ふと考える。

 声をかけてくれたのは、それなりの覚悟があったのかもしれない。

 俺にとって、透花はただの幼馴染のようなそんな存在だけだ。

 そして、唯一手を伸ばす事が出来る相手――これは”乃亜”の気持ちだ。

 しかし、それが信用に値するかは別の話だ。

 だが少なくとも、何も見ずに石を投げてくるだけの連中よりはましだった。

 席に座り直すと、教室の向こうで瑠亜が一瞬だけこちらを見ていた。

 笑顔のまま。だが目だけが笑っていない。

 透花が俺に話しかけたこと。

 花宮や朝比奈が前ほど一方的にこちらを見なくなったこと。

 そういう細い変化が、あいつには気に入らないのだろう。


 だが、知ったことじゃない。


 チャイムが鳴り、朝の空気が授業用のものへ切り替わっていく。

 俺は机の上の教科書へ視線を落とした。

 学校の空気はまだ完全には変わらない。

 瑠亜もまだ中心にいる。

 それでも、以前みたいに“絶対悪の兄”という一枚板ではなくなっている。


 小さなひびだ。

 だが、ひびは入った。


 今はそれで十分だった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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