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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第29話 毒花はまだ咲かせない【シオン視点】

 ――人間というのは、どうしてこうも醜く壊すのがうまいのだろうね。


 そう思いながら、シオンは花弁のような髪を指先で弄んだ。

 ここは主の内側、契約で繋がる者だけが降りられる静かな空間。

 闇とも光ともつかない曖昧な場所に、今は珍しく全員が揃っていた。

 中心にあるのは、主の魂の気配だ。

 今はここにいない。表層で眠っているのか、あるいは無理に平静を保っているのか。

 どちらにせよ、この場に呼ばれていない時点で、あの子は一人で抱え込む気なのだろう。

 だから余計に気に入らない。


「……あの弟、焼いていい?」


 最初に口を開いたのはフェルだった。

 赤髪の少年姿のまま、苛立ちを隠しもせず火の粉を散らしている。

 目つきは最初から悪いが、今日は輪をかけて酷い。


「階段から勝手に落ちて、主のせいみたいにしやがって。何あれ。何なのマジで」

「落ち着きなさい、フェル」


 セレネがやさしくたしなめる。

 白銀の髪を揺らす巫霊は、外見だけならこの場で一番穏やかだ。

 けれどシオンは知っている。この女は怒ると一番怖い。

 そう、この中で一番怖い。

 案の定、その声音は静かなまま底だけ冷たい。


「今すぐ壊したい気持ちは分かるけれど、主が望まないわ」

「でもさぁ……!」

「ええ、分かるわ。私も同じ気持ちだもの」


 にこりと笑ってそんなことを言うから恐ろしい。

 ルクスは少し離れた位置に立ったまま、金の瞳を細めていた。

 この男は最古参であり、主の最初の契約者。

 誰よりも主を優先し、誰よりも独占したがるくせに、それを理性で押さえ込んでいる厄介な男だ。


「問題は、あの弟だけじゃない」


 低い声が落ちる。


「見ていた人間どもだ。何度同じことを繰り返せば気が済む」

「同感だね」


 シオンは肩をすくめた。


「主の器の持ち主を長いこと壊してきた連中だ。今さら見間違いかもしれない程度の揺らぎで許されると思ってるなら、随分都合のいい頭をしてる」

「君の言い方はいつも極端だ」


 アステルが静かに言う。

 鳥人は、整った顔のまま感情をあまり出さない。

 けれどその実、かなり深いところまで主へ執着しているのをシオンは知っている。


「ですが、方向性としては間違っていません。学校側の認識は依然として敵性寄り。小さな揺らぎが生じただけです」

「ほらね」


 シオンは口元を歪める。

 理性的に言い換えただけで、要するに同じことだ。

 ガルドが重々しく腕を組んだ。


「我が主を侮辱し、罪を着せる者は敵だ」

「そうだよな!」


 フェルがすぐに乗る。

 ヴェインも隣で小さく唸った。

 黒い小竜の姿のまま、尾が苛立たしげに揺れている。


「やなやつ。ノア、いやなかおしてた」

「ええ、そうね」


 セレネがそっと応じる。


「表ではあまり出さなかったけれど、ちゃんと傷ついていたわ」


 その言葉に、空間の温度が少しだけ下がった気がした。


 そう――主は崩れなかった。


 怒鳴りもしなかったし、取り乱しもしなかった。

 冷静に場を捌いて、いつものように淡々と処理していた。

 でも、だからといって傷ついていないわけがない。

 あんな下劣なやり方で嵌められて、しかもそれが乃亜がずっと浴びてきた圧の延長だと理解してしまったのなら、なおさらだ。


「ぼく、夢であの弟の頭おかしくしてもいいと思う」


 ミュールが尻尾をゆらりと揺らしながら言った。

 黒猫姿のくせに目だけが妙に賢い。

 こういう時のミュールは、可愛い顔で一番嫌なことを言う。


「それはだめよ」

「えー」

「主が嫌がるもの」


 セレネの返答は即答だった。

 リゼットが静かに解析光を瞳に回しながら口を開く。


「現時点での最適行動は、直接排除ではなく観測継続です」

「つまらない結論だね」


 シオンが言うと、リゼットは何の感情も浮かべずにこちらを見る。


「主の意向を無視した排除は、主の精神状態悪化の可能性あり」

「分かってるよ、そんな事は」

「ならば非効率な挑発は不要です」

「君、本当に可愛げがないな」


 そのやり取りの横で、オルグが低く唸るように息を吐いた。

 大柄な岩巨兵は、主のことになると保護欲が強く出る。


「……ノアを、またこわいものの中に返したくない」

「そうだな」


 珍しくルクスが即座に同意する。


「だからこそ、拠点は維持する。あの叔父の家は今のところ使える」

「あの人間、まだマシ」


 ヴェインがぽつりと言う。

 幼いぶん好き嫌いが露骨だが、その評価は案外正確だ。

 そこで、今まで黙っていたバハムートが口を開いた。


「ノアは、ほうっておくとじぶんでぜんぶかかえてしまうのですよ」


 幼い少女の姿のまま、原初竜王は静かに言う。

 その一言だけで場が引き締まるのは、格の違いというやつだろう。


「だから、わたしたちはおこりすぎてはいけない」

「……」

「ノアがのぞむまえにせかいをやいたら、あのこはきっとかなしむでしょう?」


 それを聞いて、誰も反論しなかった。

 フェルですら口をつぐむ。

 シオンは、ゆっくりと目を伏せた。


 ――気に入らない。


 人間も、学校も、あの弟も、何より主がまだ人間を切り捨てきれない事も。

 でも、それを含めて主なのだと知っている。

 前の世界で、人間に裏切られて処刑されたのに。

 知っているから、余計に腹立たしい。


「……じゃあどうするのさ」


 シオンはわざと少し棘のある声で言った。


「見てるだけ? また主が平気なふりをして、器を削って、それでも笑って進むのを?」

「見ているだけではありません」


 リゼットがすぐに返す。


「配信導線、ダンジョン選定、対外秘匿、負荷分散。すでに対応中」

「機械はこういう時だけ頼もしいね」

「事実です」


 ルクスも続ける。


「学校内の気配は俺が見る。主へ近づく害意は拾う」

「夢の底は私が引き続き診るわ」


 セレネが穏やかに微笑む。


「乃亜の魂も、主の心も、少しずつね」

「じゃあ僕は?」


 シオンが問うと、セレネは少しだけ首を傾げた。


「あなたは人間への嫌味を控えて」

「えーぜぇぇぇったいに無理だね」

「そう、そういうところよ」


 軽く笑いが落ちる。

 張り詰めていた空気が、ほんのわずかだけ緩んだ。

 シオンは小さく舌打ちした。

 でも本気で逆らうつもりはない。


「……分かったよ」


 仕方なく言う。


「主が望まない形では動かない。あの弟も、学校も、家族も、今はまだ咲かせない」

「“今はまだ”が余計だ」

「事実だろう、狼王」


 ルクスの金の瞳が鋭くなる。

 シオンも負けじと笑みを深めた。


「君だって噛み砕きたいくせに、爪研いでるの知ってるんだからね?」

「お前と一緒にするな」

「一緒だよ。方法が違うだけでね」

「不愉快だ」

「奇遇だね」


 そのまま空気が険悪になりかけたところで、セレネが静かに手を打つ。


「やめなさい」


 柔らかい音だった。

 でも、それだけで場が止まる。


「主が戻ってくるわ」


 その言葉に、全員の意識が一点へ向いた。

 契約空間の中心――主の気配が、少しずつこちらへ近づいてくる。

 眠りの深いところから浮上し、また表層へ戻ろうとしているのだろう。

 シオンは細く息を吐いた。

 結局のところ、答えはいつも同じだ。


 主が傷つくのは嫌だ。

 主を傷つけたものは許したくない。

 でも、主が望まないなら先には動けない。

 それがどれだけ苛立たしくても、従うしかない。

 だって、それが主だから。


「……はやく戻っておいで、主」


 誰にも聞こえないくらい小さく呟く。


 この胸の中にある毒も、怒りも、嫉妬も、全部まだ咲かせずに持っていてあげる。

 あなたが必要だと言う、その時までは。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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