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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第28話 乃亜が変わってしまった日【久城瑠亜視点】

 最初は、少し試すだけのつもりだった。


 兄が変わった。

 それはもう、何日も前から分かっていた。

 前より静かで、前より崩れなくて、前よりずっと扱いにくい。

 家で削られていないみたいな顔をして、学校でも必要以上に怯えない。

 僕を見ても、前みたいに分かりやすく痛そうな顔をしない。

 あれが、どうしようもなく気持ち悪かった。

 僕が知っている兄さんはもっと簡単だったのに。

 もっと傷つきやすくて、もっと黙りやすくて、もっと分かりやすかったのに。


 ――だから、少しだけ確かめたかった。


 ちゃんとまだ、兄は兄のままなのか。

 追い詰めれば、前みたいに崩れるのか。

 それとも本当に、どこかおかしくなってしまったのか。


 昼休みの終わりを狙ったのは、そこに人がいるからだ。

 階段を選んだのも同じ理由だった。

 密室じゃない。

 誰かしら見ている。

 全部を見ていなくても、断片だけ見れば十分だ。


「――兄さん」


 教室で声をかけると、兄はすぐに顔を上げた。

 前なら、その時点でもう少し嫌そうな顔をしたのに、今は違う。

 ただ静かにこっちを見るだけだ。


「……何だ?」

「少しだけ話したいんだ」

「嫌だ」

「そんな事言わないでよ」

「……今じゃないと駄目か?」

「うん。すぐ終わるから」


 表向きは、ちゃんとした弟の顔を作る。

 兄を気遣う、優しい弟。

 周りもそれを知っているから、誰も不自然には思わない。

 兄は立ち上がった。

 それだけで少しだけ胸の奥がざわつく。

 ついてきてくれるんだ。

 まだ、そこは変わってない。

 階段の踊り場に着く。

 上にも下にも人の気配がある。ちょうどいい。


「いつ、家に帰ってくる?」


 まずはそこから聞いた。

 本当は半分くらい分かっていた。

 兄が家以外のどこかにいることくらい。

 でも、兄の口から何か言わせたかった。

 誰かに助けられているのか。どこにいるのか。何でそんな顔をするのか。


「またその話か」


 兄の声は冷たい。

 それがまた少しだけ腹立たしかった。

 それからも色々と聞いたが、そっけない態度だった。


「兄さんのくせに、そんな顔しないでよ」


 思わず、本音が漏れた。

 前ならもう少し綺麗に言えたはずなのに、その日はどうしても上手く隠せなかった。

 兄は前よりましな顔をしていた。

 前よりちゃんとして見えた。

 まるで、自分の知らないところで息を吸ってきたみたいに。


 ――そんなの、嫌だった。


 兄さんはもっと分かりやすかったのに。

 もっと簡単に傷ついて、もっと簡単に黙ったのに。

 だから、その次の動きはほとんど反射みたいなものだった。

 兄の制服の袖に指をかける。

 そのまま、自分から体重を崩した。

 完全に大怪我するつもりはない。そんなのは馬鹿だ。

 でも、数段落ちれば十分だった。

 見た目も痛そうだし、周りが見れば兄が弟を突き落としたのではくらいの空気は作れる。

 今までだって、似たようなことは何度もあった。

 僕が泣けば、兄が悪くなる。

 兄が否定すればするほど、周りは兄を嫌う。


 だから今回も、そうなるはずだった。


「……っ」


 身体が階段を転がる。

 痛い。普通に痛い。

 でもそれ以上に、次の瞬間、胸の奥がひやりとした。

 兄が、叫ばなかったからだ。

 昔なら絶対にもっと違った。

 驚いて、動揺して、焦って、言い訳して、周りの目に飲まれていた。


 でも兄は違った。


「おい、誰か教師を呼べ!」


 その声は、妙に落ち着いていた。

 しかも兄は階段を駆け下り、そのままこっちへ来た。


 何それ、どうしてそんな反応ができるの?


「ちが……っ、僕が勝手に、足……」


 咄嗟にいつもの顔を作る。

 兄を庇う弟。

 それが一番効く。

 今までは、それでみんな勝手に兄を悪者にしてくれた。


 でも兄は、ただ短く言った。


「喋るな」


 ただ、それだけ。

 その言い方が、怖かった。

 気遣っているみたいなのに、まるで全部分かっているみたいな声だったから。

 しかも、そのまま兄は僕を抱き上げた。

 一瞬、本気で何をされたのか分からなかった。

 腕の中に持ち上げられて、ようやく理解する。

 運ばれてる。

 あの兄に。


「っ、兄さ――」

「大人しくしてろ。余計に痛めるぞ」


 周りが一瞬、息を呑むのが分かった。

 それはそうだろう。こんな流れ、僕だって想定していなかった。


 兄は取り乱さなかった。

 否定も叫ばなかった。

 弁明もしなかった。


 その代わり、僕を抱えて保健室へ向かった。

 そのせいで、用意していた空気が少しだけずれた。


 保健室で処置を受けながら、胸の奥がずっとざわついていた。

 痛みのせいだけじゃない。

 兄の反応が、何もかも予想外だったからだ。

 だから一応、聞かなきゃいけない気がした。


「……ありがとう」


 兄が運んだあとのことだ。

 廊下でそう言った時、兄は嫌そうな顔もしなかった。ただ少しだけ眉を動かした。

 でも、あれは感謝というより確認に近かったのかもしれない。

 本当にあれをしたのか。どうしてしたのか。僕の方が知りたかった。


 その後の聞き取りも、最悪だった。


 僕は保健室で“かわいそうな弟”をやった。

 兄さんは責めないでください。

 僕がちょっとバランスを崩しただけかもしれなくて。

 そんな風に、ちゃんと庇う側に回った。


 でも、兄が職員室でいつもみたいに崩れなかったせいで、全部が噛み合わなかった。


 押したところを見た人はいない。

 兄は落ち着きすぎている。

 それどころか、先に教師を呼ばせて、僕を保健室に運んだ。

 朝比奈も花宮も、兄が押したとは断定しなかった。

 それだけで十分だった。

 今までなら、“でも久城だし”で終わったはずなのに。

 今回は、みんなの中に少しだけ迷いが生まれてしまった。


 それが許せなかった。


 翌日、学校へ来ると空気が違った。

 みんな表向きは変わらない。

 でも、変わっている。


「でも、押したの見た人いないんでしょ?」

「ほんとに違うのかも」

「瑠亜くん可哀想だけど……」


 その“だけど”が、ひどく耳障りだった。


 可哀想。

 その位置は、今まで通り僕のはずなのに。

 どうしてそこへ、兄への迷いが混じるの?

 花宮も、前みたいに面白半分だけで兄を見ていない。

 朝比奈も、兄への決めつけを少し引っ込めている。

 小さなひびだ。

 でも、そのひびが広がったら困る。

 だって兄は、そういう立場じゃなかったはずだから。


 放課後、人の少ない廊下で兄を呼び止めた。

 昨日のことを聞かなきゃいけないと思った。聞かずにはいられなかった。

 色々聞いたけど、結局は返されてしまった。


 遠ざかる兄の姿を、僕は手を伸ばす。

 手を伸ばすと同時に、兄が静かに呟いた。


「”乃亜”はもう、お前だけの都合で壊れる場所にはいないから」


 何それ?

 意味わからないよ、兄さん。


 どんどんと遠ざかる兄、乃亜の姿を僕はただ見つめる事しか出来なかった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
意味がわからないのはこの生物学的に弟だというバケモノの方だなと。
こんにちは。 コイツだけは真っ当な人生を歩んで欲しくないですねマジで。両手両足まとめて吹き飛ぶとか、脳に深刻なダメージを負って廃人になってしまうような不幸が舞い降りてもまだ足りないというか。
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