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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第24話 花宮澪は気づきはじめる【花宮澪視点】

 あたしは、基本的に面白いものが好きだ。

 流行ってるものとか、バズってるものとか、みんなが騒いでるものとか。

 そういうのを追いかけるのが好きだし、知らないまま置いていかれるのはもっと嫌いだった。

 だから最初は、本当にそれだけだったんだ。


 例の配信者――《Noah/召喚士》。


 急に切り抜きで伸び始めた、正体不明の召喚配信者。

 顔出しなし。

 声もそこまで大きくない。

 配信の雰囲気も派手とは言い難い。

 なのに、ダンジョンへ潜って戦い始めると、コメント欄が急にざわつく。


 最初に見た時、あたしは単純に「何これ、変なの」って思った。


 普通の探索者配信ってもっと分かりやすい。

 火力が高いとか、技が派手とか、リアクションが大きいとか、見せ方が上手いとか。

 どこかに“配信映え”の分かりやすい理由がある。


 でもこの召喚士は違った。

 戦い方が変なのだ。


 本人が前へ出るわけでもなく、ただ後ろで見てるわけでもない。

 召喚獣を動かして、敵の位置をずらして、盤面そのものを静かに支配していく。

 しかも召喚獣たちの反応が妙に人間くさい。

 人形みたいに命令を待ってるんじゃなくて、それぞれちゃんと意思を持って動いてるように見える。


 放課後、自分の部屋のベッドに転がりながら、あたしはスマホの画面を見つめていた。

 画面の中では、例の召喚士が群れ型の魔物を捌いている。


「やっぱ変だよなあ……」


 思わずひとりごちる。

 何度見ても不思議な戦い方だった。

 強いのは分かる。新人じゃないのも分かる。

 でも、それだけじゃない。“見たことない感じ”がある。


 コメント欄も相変わらず早い。


『盤面制御うますぎ』

『召喚獣との連携エグい』

『新人の動きじゃねえ』

『こいつマジで何者?』

『戦い方が異質すぎるんだよな』


「異質、ねえ」


 あたしは画面を止めて、少しだけ目を細めた。

 そう。異質。

 それがいちばん近い。

 この世界の探索者っぽくないのだ。

 まるで、ダンジョン配信者じゃなくて、もっと別の場所で本気の戦いを何度もくぐってきた人みたいな感じがする。

 そういうところが、ちょっと引っかかって何処か気持ち悪い。


 翌朝、登校してからも、その配信者のことが頭の片隅に残っていた。

 教室に入ると、いつもどおりざわざわした空気が流れている。

 誰かが配信の話をして、誰かがテストの愚痴を言って、誰かが部活の予定を確認してる。

 その中で、あたしは自然と教室の奥へ目を向けた。


 窓際の席――久城乃亜(くじょうのあ)


 少し前までなら、見ればすぐに分かった。

 なんとなく暗く、空気が沈んでる。そして周りと噛み合ってない。

 噂が先に頭へ入ってたのもあるし、正直、あたし自身も乃亜くんをちょっと”面倒なやつ”だと思ってた。

 でも最近は違う。

 静かなのは変わらない。

 群れないし、自分から誰かに話しかけたりもしない。

 けど、前みたいな危うさが少し薄れている。

 以前は、ちょっと触れば崩れそうだった。

 あるいは、急に感情が溢れてもおかしくないような、ぎりぎりの張りつめ方をしていた。


 今は違う――ちゃんと距離を取っていて、逆に周りの方がどう扱えばいいか迷ってる感じがある。


「……ねえ」


 思わず隣の席の子に小声で言った。


「最近、久城君変じゃない?」

「え、何が?」

「いや、前よりまともっていうか」

「まともって」


 相手は少し困ったように笑った。


「でもまあ、最近あんま騒がないよね」

「騒がないっていうか、そもそもそんな騒いでたっけ?」


 そこまで言って、自分で少し引っかかった。

 “騒いでた”っていうのも、結局は噂込みの印象だった気がする。

 実際にあたしが何を見たのかって考えると、案外あやふやだ。

 朝比奈も最近は同じことを考えてるらしかった。

 朝のホームルーム前、プリントを配っていた朝比奈が、乃亜くんの机のところでほんの少しだけ足を止めた。


「久城」

「……何?何か用?」

「……いや、別に」


 珍しく歯切れが悪い。

 あたしが見ていると、朝比奈は少しだけ眉を寄せて、それからプリントを置いて離れていった。

 その後で「何だったの?」って聞くと、朝比奈は小さく息を吐いた。


「最近、周りの扱いと本人の感じが噛み合ってない気がする」

「お、朝比奈くんも思う?」

「“も”って何だよ」

「いや、あたしも」


 そう言うと、朝比奈は少しだけ真面目な顔になった。


「前は、久城のこと“危ないやつ”って思ってたんだ」

「うん」

「でも最近見てると、危ないっていうより……周りがそういう空気で見てるだけなんじゃないかって思えてきて」


 それにはちょっと驚いた。

 朝比奈って、良くも悪くも真っ直ぐだ。

 いったん“正しい”って思ったものを、そんな簡単には修正しない。

 そんな朝比奈が、自分の見方の方を疑い始めてる。

 それだけ最近の乃亜君が変わったってことなんだろう。

 もちろん、それで急に味方になるほど簡単な話じゃない。

 教室の空気はまだ瑠亜くん寄りだし、西園寺たちみたいな取り巻きも健在だ。

 白石さんなんかはいまだに露骨に乃亜くんを避けてる。


 でも、だからこそ変だった。


 噂が作る乃亜くん像と実際に教室にいる乃亜くんが、最近少しずつズレ始めている。


 昼休み、あたしはわざとらしく乃亜君の近くを通ってみた。

 乃亜君は文庫本を読みながら静かにしている。おにぎりを食べながら。

 落としたペンを拾うついでに、ちらっと横顔を見る。

 やっぱり前とは違う。

 目つきが変わった、と言えばいいんだろうか。

 尖ってるわけでも、優しいわけでもない。

 ただ、前よりちゃんと見ている。

 自分の周囲を、自分の足元を、必要なら相手のことも。

 その感じが、どこかで見た何かに似てる気がした。

 それと同時、その横顔がちょこっとだけ素敵だなぁなんて思ったのは、内緒だ。


「……うーん」


 席へ戻りながら、あたしは首を傾げた。

 何に似てるんだろう。

 誰に似てるんだろう。

 その答えは、放課後になってようやく形になりかけた。


 自室へ戻ったあと、あたしはまた例の召喚配信者の切り抜きを開いた。

 短い戦闘動画。

 無駄のない指示。

 「ルクス、右」「縛れ」「下がれ」――そんな短い言葉だけで、召喚獣たちが迷いなく動いていく。

 声はそこまで大きくない。

 低く抑えられていて、感情もあまり乗っていない。

 なのに不思議と聞きやすい。変に飾ってないからかもしれない。

 動画を止めて、巻き戻す。

 もう一回見る。

 また止める。

 戦い方も変だけど、それ以上に気になるのは言葉の選び方だった。

 必要以上に喋らない。

 でも、全然怖じていない。

 慣れている感じ。

 そして――誰かをちゃんと見て指示してる感じ。

 その感覚に、教室で見た乃亜君の横顔が重なった。


「……あ」


 思わず声が漏れた。

 もちろん、同一人物だなんてまだ思わない。

 そんなの飛躍しすぎてる。

 そもそも片方はダンジョン配信者で、片方は同じクラスの問題児扱いされてる男子だ。

 繋がるわけがない。


 ――でも、似ている。


 戦い方じゃない。

 空気の切り方。

 言葉を無駄にしない感じ。

 最近の乃亜くんにある、前とは全く違う”静けさ”のようなモノ。

 それが、配信の向こうの召喚士と少しだけ重なって見えた。

 あたしは無意識にスマホを握り直す。

 おもしろ半分だったはずなのに、もう違う。

 気になる。マジで本気で気になる。

 どうして最近、久城乃亜は変わったのか。

 どうして周囲の噂と、実際の本人が噛み合わなくなってきているのか。

 そしてどうして、あたしはこの配信者を見て乃亜君を思い出したのか。

 偶然かもしれない。

 勘違いかもしれない。

 でも、一度気づいてしまったら、もう無視はできなかった。

 ベッドの上で膝を抱えたまま、あたしは切り抜きをもう一度再生する。

 戦闘の最後、召喚士が短く何かを告げる場面で、また一時停止した。


 画面の向こうの声。

 最近の教室の空気。

 久城乃亜の目。


 全部を頭の中で並べてみる。


「……この人、似てるなぁ」


 呟いた声は、小さく静かに部屋へ落ちた。

 けれどその違和感は、もう消えそうになかった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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