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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第23話 正体不明の召喚配信者、再び

 叔父の家を拠点にしてから、生活のリズムは少しだけ整った。

 朝は学校へ行き、余計な目を避けながらやり過ごす。

 帰宅すれば叔父の家で最低限の食事と休息を取り、夜は配信とダンジョン攻略の準備に回す。

 異世界の戦場に比べればずいぶん小さな営みだ。

 だが今の俺にとっては、この小さな積み重ねの方がよほど重要だった。

 乃亜の魂を戻すためには、深層へ潜る必要がある。

 その為には、ダンジョンの制度と仕組みを利用しながら、こちらの世界で地盤を作らなければならない。


 ――つまり、配信だ。


「機材チェック完了。映像、音声ともに前回比で三十一パーセント改善」


 叔父の家の一室、薄暗い部屋の中でリゼットが淡々と報告する。

 白磁のような肌をした少女の姿は、現代の部屋に立っていても妙に浮いて見えた。

 だが本人はまるで気にしていない。

 机の上に並んだ端末や簡易機材を見下ろし、その青い瞳の中で幾何学的な光を静かに回転させている。


「音声遅延は?」

「許容範囲内です。戦闘中の指示にも支障なし」

「匿名処理は?」

「維持。顔認識、音声紋、周辺位置情報、いずれも撹乱継続中」


 短いやり取りをしながら、俺は手元のスマホ画面を確認した。

 配信アカウント《Noah/召喚士》。

 前回より登録者数も増えているし、切り抜き経由で流れてきた視聴者も確実に残っている。

 まだ大手と呼ぶには程遠い。

 だが無名の新人にしては十分すぎる初動だった。


「今回も浅中層相当のダンジョンですね」


 リゼットが言う。


「ああ。まずは地力を見せる」

「最適です。視聴者層の期待値も上昇傾向にあります」


 そんなやり取りをしていたそこへ、窓際に寄りかかっていたルクスが低い声で口を挟む。


「期待など、主には不要だ」

「不要ですが、利用価値はあります」


 即座に返すリゼットに、ルクスの眉がわずかに寄る。

 相変わらずこの二人は方向性は近いくせに言い方が噛み合わない。


「数字が増えれば、主へ向く目も増えます」

「だからこそだ。人間の目は煩わしい」

「しかしこの世界では、可視化された実績が重要です」


 もっともなことを言っているのはリゼットだ。

 この世界の探索者は、強さだけではなく“見られている事”そのものが価値になる。

 スポンサー、収益、装備、コネクション。全部そこへ繋がる。


「はぁ……二人ともそこまでだ」


 言うと、ルクスはすぐ黙り、リゼットも「了解」とだけ返した。

 その時、赤い火花が小さく散った。


「で、今日はオレも出るんだろ?」


 そこに現れたのはフェルだった。

 赤髪の少年姿のまま、椅子の背に座るような無茶な体勢でこちらを覗き込んでいる。

 朱色の瞳は期待で爛々としていた。


「前回みたいに、また最後だけ呼ぶとかナシだからな」

「そうだな、状況次第だ」

「ちぇっ」


 不満そうに口を尖らせるが、あからさまに機嫌を損ねるほどではない。

 こいつは戦えると分かっている時は単純だ。

 配信開始時刻が近づき、俺は機材を持って立ち上がった。


「よし、行くぞ」

「御意」

「了解しました」

「やっとだな」


 ルクス、リゼット、フェル。

 今日はこの三人を主軸に回す。戦闘の見栄えと安定感を考えれば、一番扱いやすい構成だ。

 ダンジョン入口に着いた頃には、夜の空気が街を冷やしていた。

 配信画面を起動し、タイトルをセットする。


 【正体不明の召喚士、再び】


 配信開始の表示が出る。

 視聴者数は、前回より最初から多かった。


『来た』

『またこいつか』

『あ、召喚士の人だ!』

『今日も無言で潜るのか?』

『戦闘だけ見せてくれればいい』


 流れるコメントを一瞥し、俺は短く言う。


「行くぞ!」


 それだけで十分だった。


 今回のダンジョンは、中級手前の危険度を持つ群生型フロアが特徴らしい。

 狭い通路と小広間が連続し、魔物は単体では弱くても、数と連携で押してくる。

 現代探索者にとっては面倒なタイプだろう。

 だが、俺にとってはむしろ相性がいい。

 通路を進んで間もなく、最初の群れが現れた。

 犬型に近い小型魔物が六。

 奥にやや大型が一体。

 魔力の質を見る限り、後衛型の指揮個体が混ざっている。


「ルクス、右二体。残りは崩す」

「御意」


 銀の気配が走る。

 ルクスは最短の軌道で敵の側面へ回り、二体を瞬時に断った。

 群れが反応する前に、俺は左手で簡易拘束を展開する。


「――縛れ」


 足元を這う魔力が小型の三体を絡め取り、動きを鈍らせる。

 その隙に前へ出ようとした大型へ、今度は赤い火が弾けた。


「遅ぇんだよっ!」


 フェルの炎が弾ける。

 真正面から焼くのではなく、あえて足元を爆ぜさせてバランスを崩し、敵の進路を潰す。

 派手だが、ちゃんと制御している。


 ふと、大型がよろけた瞬間、ルクスが首元へ入るがそのまま一撃させ、倒す。

 残った雑魚は俺が位置を制御し、フェルが焼き、ルクスが刈る。

 十数秒で簡単に終わってしまった。

 あっけなさを感じつつも、俺は配信のコメントに目を向ける。


『連携えぐ!』

『また盤面制御してる』

『こいつ本人あんま動いてないのに強すぎるなぁ……』

『召喚獣が意思ありすぎるんだよな』

『この召喚士、マジで戦い方が異質』


 コメント欄の流れが早くなる。

 前回より視聴者が何を見るべきかを理解しているのが分かった。

 俺はそのまま先へ進む。

 リゼットの補助がある今、導線は前回よりずっと滑らかだった。

 マップ補完、音声処理、視点切り替え、危険個体の反応表示。

 戦闘の邪魔にならない範囲で、見せるべき情報だけが整理されていく。


「視聴維持率、高水準」


 耳元の小型端末状態で、リゼットが報告する。


「特に召喚獣との役割分担に注目が集まっています」

「そうか」

「切り抜き対象は主にルクス、フェル、主の短文指示」

「要するに全部じゃねえか」

「そりゃ目立つだろ。オレたち、強いし」

「フェル、五月蠅いぞ……よし、来たな」


 小広間へ入った瞬間、群れの規模が一段上がった。

 今度は飛行型が混ざっている。

 中空から牽制をかけつつ、地上の群れで包囲するつもりらしい。

 普通なら、厄介なんだが――。


「フェル、上」

「任せろ!」


 フェルが笑い、火を纏って跳ぶ。

 火の鳥じみた軌跡が空間を裂き、飛行型の群れをまとめて焼き崩した。

 炎の残光が広間を赤く照らす。

 その一方で、地上ではルクスが音もなく走り回り、包囲を完成させる前に要所の個体だけを長い爪を出し、潰していく。

 俺はその隙間へ術を差し込み、敵の流れそのものを初級魔術で断ち切る。

 群れは数があっても、指揮系統を崩せば弱い。


『召喚獣と連携しすぎだろ!!』

『これ配信者が全部見えてないと無理じゃね?』

『新人の動きじゃないぞ!』

『指示短すぎるのに全部通るの何?』

『絶対前世持ちだろこいつ』


 最後のコメントは無視しよう。

 前世ではない。転移だ、多分。

 それでも、思わず口元が少しだけ緩みそうになった。

 強さだけじゃなく――戦い方そのものを見て、異質だと認識している。

 家でも学校でも得られなかった種類の理解だった。


 ダンジョンの攻略は順調に進んだ。

 危険度の高い群れをいくつも捌き、そのたびに配信の熱も上がる。

 リゼットは裏で視聴動線を整え、短尺向けの印象的な場面を自動で抽出しているらしい。


「――切り抜き拡散を確認」


 戦闘の合間に、リゼットが淡々と告げた。


「配信中同時拡散としては良好。新規流入が増加しています」

「どの層だ?」

「戦闘分析系、ダンジョン攻略系、召喚適性議論系。いずれも高反応」

「議論系?」

「この世界の一般認識において、主の戦闘は既存の召喚型探索者像から大きく逸脱しています」

「……当然だろうな」


 異世界の召喚術を前提にしている以上、こっちの探索者の常識と噛み合うはずがない。

 探索を終えて地上へ戻る頃には、配信はかなりの盛り上がりを見せていた。


『今日も神回』

『次どこ行くんだ?』

『中級行けるだろこれ』

『もう浅めのとこじゃ物足りないでしょ?』

『次はボス級見たいなぁ!』


 配信を切ったあとも、コメントの熱だけは画面の向こうに残っているようだった。

 ダンジョンを出て、近くの人気の少ない場所でひと息つく。

 乃亜の身体はまだ軽く熱を持っているが、前回ほど無茶をした感覚はない。


「前回より負荷が軽いな」


 そう呟くと、ルクスが頷いた。


「主の制御が安定してきています」

「それでも、まだ不十分です」


 リゼットがすぐに補足する。


「本日の戦闘強度は現状の最適圏内。これ以上を安定して回すには調整が必要」

「次はもう少し上へ行くつもりだ」

「予測済みです」


 その返答が早すぎて、少しだけ眉を上げた。

 リゼットは空中に簡易ウィンドウを展開する。

 そこには中ボスクラス相当のダンジョン一覧が表示されていた。

 危険度、視聴期待値、話題性、攻略難度、収益予測。項目が冷酷なほど整理されている。


「現時点で最も跳ねる可能性が高いのはこの三箇所です」

「基準はなんだ?」

「攻略成功時のインパクト、戦闘映え、主の戦術との相性」


 フェルが横から覗き込んで、にやりと笑った。


「いいじゃん。次、もっと派手にやれるだろ」

「派手にやるのが目的じゃないぞ、フェル?」

「でもついでに派手なら最高だろ?」

「まぁ……否定はしないな」


 ルクスは一覧を睨むように見ていたが、やがてその中の一つへ視線を止めた。


「ここはどうだ、リゼット?」

「主との相性はいいです。主の意見に同意します」


 リゼットも即座に肯定する。

 群体型中ボス、閉所戦闘、高密度魔力帯。確かに俺たちの盤面制御と召喚連携を見せるには向いている。

 俺は画面を見つめたまま、少しだけ考える。

 次に行くべき場所。

 中ボス級への足掛かり。

 配信者として一段上へ跳ねるための、ちょうどいい踏み台。


 ――決めた。


「よし!ここにする」


 指先で、そのダンジョン名を押した。

 画面の光がわずかに揺れる。

 ルクスの金の瞳が細まり、フェルは楽しそうに笑い、リゼットは即座に準備工程へ思考を切り替えている。

 中ボス級ダンジョン。

 次はそこで、もう一段上へ行く。

 乃亜を戻すため――そして、この世界に俺の戦い方を刻みつけるために。


「楽しみだな」


 俺はきっと今、すごく楽しんでいるんだろうと思う。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

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