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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第15話 正体を明かす夜


「――お前は一体誰なんだ?」


 その一言で、空気が凍った。

 一瞬にして、息が止まる。

 身体より先に、気配が反応した。


 ――殺気がした。それも二つ。


 一つは、窓際の闇に溶けていたルクス。

 もう一つは、端末を装って沈黙していたリゼット。

 目に見えるより先に、室内の温度が下がる。

 叔父――篠宮智明(しのみやともあき)の喉元へ届く距離に、白銀の気配が走った。

 リゼットもまた、微かな駆動音と共に術式展開の兆候を見せる。


「待て!」


 反射的に声を上げてしまった。

 ルクスの動きが止まる。

 リゼットの瞳に浮かびかけた魔法陣も、ぎりぎりで回転を止めた。

 叔父はソファに座ったまま動かない。

 だが目だけが鋭くなっている。

 今の一瞬で、何かが“いた”事までは察したのだろう。


「……今のは何だ」


 低い声で、叔父は俺を見ている。

 それでも取り乱してはいない――そこは正直、少し驚いた。

 ルクスが窓際の影から姿を現す。

 銀髪の青年姿が目の前に姿を見せる。

 淡い金の瞳には、まだ冷えた殺意が残っている。

 反対側では、空中端末の偽装を解いたリゼットが無機質な青い瞳で叔父を見ていた。

 この二人が同時に殺気立つと、さすがに部屋の圧がひどい。


「――主」


 ルクスの声は低い。


「この男は危険です」

「同意します」


 リゼットも即座に続ける。


「主の正体に対する認識異常。排除、あるいは記憶処理を推奨」

「するな、しないでくれ」


 きっぱり言い切ると、二人とも口を閉ざした。

 閉ざしただけで、納得したわけではないのが分かる。

 叔父はそのやり取りを見て、ゆっくりと息を吐いた。


「……なるほどな……やっぱり、俺の気のせいじゃなかったわけだ」


 逃げるでもなく、怒鳴るでもなく、まずそう言う。

 この男は、久城家の連中とは違う意味で厄介かもしれない。

 見たものを見たまま受け止めようとする。


「――乃亜じゃないな」


 そう言われて、俺は少しだけ目を伏せた。


 ――誤魔化せるか、この男を?


 俺は一瞬だけ考える。

 だが、ここまで見られてなお取り繕うのは難しい。

 何より、この人間はさっきの一言だけでそこに届いている。

 おそらく、乃亜の記憶の中にある“叔父”は、こういう人間なのだろう。

 空気や違和感を拾う。

 見て見ぬフリをしない。

 だからこそ、久城家から少し距離があったのかもしれない。


「……すみません」


 まずそう言うと、叔父の眉がわずかに動く。


「謝るってことは、やっぱり何かあるんだな」

「はい、あります」


 俺は立ったまま、叔父を見た。

 ルクスとリゼットの気配は相変わらず鋭い。

 下手を打てば、本気でこの場を血の匂いに変えかねない。


「でも、先に言っておく。俺は好きで乃亜の体に居て、好きで居ついているわけじゃないに来たわけじゃない」

「……」

「寧ろ、ちゃんと乃亜を返すつもりでいる」


 その言葉を聞くと同時に、叔父の視線が鋭くなった。


「――順番に話せ」

「分かりました」


 俺は一度息を整えた。

 こんな説明をする日が来るとは思っていなかった。異

 世界でも、この世界でも。


「俺の名は、【ノア】です……この世界の人間じゃない。別の世界で召喚士として戦っていました」

「別の世界?」

「異世界、と言えば分かりやすいかもしれない」


 そこで叔父は初めて、あからさまに眉を寄せた。

 無理もない。普通なら頭がおかしい話だ。

 だが否定はしない。

 だって、今この場に人間じゃない何かが二体いる時点で、常識の線はもうとっくに壊れているのだろう。


「俺はその世界で国に利用され、最後は濡れ衣を着せられて処刑された」

「……」

「死んだはずだった。でも目が覚めたら、乃亜の身体にいた」


 叔父の喉がわずかに動く。

 それでも黙って聞き続ける。


「最初は俺にも何が起きたのか分からなかった。だが記憶を拾って、家の空気を見て、学校での扱いを知って……この身体の持ち主がどんな状況だったかを理解した」

「乃亜は、どうなってる」


 そこが一番重要だと、叔父にも分かっているらしい。

 俺は少しだけ間を置いてから答えた。


「生きてる」

「本当か」

「ああ」

「主の言葉に偽りはありません」


 話を聞いていたルクスが、間に入る。

 彼の金の瞳が叔父を射抜く。

 さっきまでの殺意は完全には消えていないが、説明のために口を挟んだのだろう。


「この肉体の本来の持ち主――乃亜の魂は、まだ消えていない。深く沈んでいますが、確かに存在している」

「沈んでる……?」

「壊れかけた魂は、自らを守るため深層へ潜ることがあります」


 今度はセレネがいない代わりに、リゼットが補足する。


「精神的損耗の蓄積により、自我の表層維持が困難となった状態と推定。消滅ではなく、防衛的沈降です」

「もっと分かる言い方しろ」

「……傷つきすぎて、表に出られなくなっている状態です」

「……それを、お前たちが知ってるのか?」

「はい。主の契約系統を介し、我々が観測・補助しています」

「補助?」

「守っていたんです」


 思ったより強い声が、自分の口から出た。

 叔父がこちらを見る。


「俺がここへ来る前から、召喚獣たちが乃亜の魂を支えていた。完全に消えないように、砕けないように」

「……」

「だから、まだ間に合う……それに俺は乃亜の身体を奪うつもりはない。むしろ返すために、そのためにダンジョンへ潜ってる」

「ダンジョン?」

「乃亜の魂を肉体に戻して安定させるために、この世界の深層にある特殊な核が必要なんだ」


 俺の言葉を聞いて、叔父はすぐには言葉を返さなかった。

 異世界だの召喚獣だの魂だの、情報量が多すぎる。

 咀嚼する時間が必要なのだろう。

 しかし、叔父は低い声で問う。


「……つまり、お前は乃亜の中にいる別人だ」

「そうだ」

「でも、乃亜を消して成り代わったわけじゃない」

「ああ」

「返すつもりで、その方法を探してる」

「そうだ」


 そこで叔父は、初めて俺をまっすぐ見た。


「なんで、そこまでするんだ?」


 それは当然の質問だったのかもしれない。

 俺は少し考えて、それから簡単に返事を返した。


「借り物だからだ」

「借り物……」

「俺は一度、自分の人生を奪われた」


 王国に。

 人間に。

 信じた相手に。


「その俺が、今度は別の誰かの人生を奪う側に回る気はない」


 それは綺麗事じゃない。

 嫌悪だ。自分自身への。


「それに……乃亜は、あまりにもひどい目に遭いすぎてた」


 だからこそ、心が壊れかけている。

 どんな理由があれ、”奴ら”は乃亜を苦しめていたのだから。

 叔父の目が、そこで少しだけ揺れた。


「家でも学校でも、ずっと悪者にされてきた。信じてもらえないまま、自分が悪いと思い込まされてきた」

「……」

「そんなやつの身体を借りておいて用が済んだら終わりなんてできるか」


 睨みつけるようにしながら、俺は叔父にそのように告げ終えると、部屋が静まりかえった。

 ルクスも、リゼットも、それ以上は何も言わない。

 たぶん二人とも、今の言葉が本音だと知っているからだ。

 叔父は長く息を吐いて、額を押さえた。


「……頭おかしくなりそうだな」


 率直な感想だった。

 だが、それが逆に少しだけ救いになる。

 無理に理解したふりをしないのは信用できる。


「信じろとは言わない」

「――いや」


 叔父は手を下ろし、俺を見た。


「全部をすぐ理解したとは言わん。異世界だの魂だの、正直まだ半分も飲み込めてない」

「……」

「でも……お前が乃亜じゃない、ってのは分かる」

「……そうか」

「それと、お前が嘘をついてる感じじゃないのもな」


 少しだけ、胸の奥の緊張が緩む。


「姉貴たちみたいに見たいものだけ見るのは簡単だ。でも今ここでそれをやると、たぶん乃亜をもう一回見捨てることになるんだろ」


 叔父のその言葉に、俺は返事ができなかった。

 見捨てる――その重さを、この人間はちゃんと分かって口にしている。


「だから、ひとまず信じてやる」


 叔父はそのように言った。


「少なくとも、乃亜を戻したいって部分はな」

「……ありがとう」

「礼はまだいい」


 そこで叔父の視線が、ルクスとリゼットへ向く。


「――ただし、お前ら」


 二人の空気がわずかに鋭くなる。


「次、いきなり殺気飛ばしたら叩き出すからな」


 叔父はそのように言いながらルクスとリゼットを睨みつける。

 普通の人間なら言えない台詞だ。

 ルクスが目を細め、リゼットが無言で相手を観測する。


「……主」

「やめろ、ルクス」

「この男は胆力があります」

「褒めてるのかそれ?」

「事実です」


 思わず息が漏れた。

 叔父はその様子を見て、少しだけ肩の力を抜いたようだった。


「とにかく……今夜はもう寝ろ。話の続きは明日だ」

「いいのか?」

「追い出したら、乃亜ごと路頭に迷うんだろ」

「……まあな」

「だったら寝ろ。俺も整理が必要だ」


 それはもっともだった。

 俺は小さく頷く。


「分かった」

「あと――」


 叔父が最後に付け足す。


「乃亜を返すつもりなら、最後までやれ」

「……ああ、わかった」


 叔父のその言葉に、迷いなどない。


「――必ず返すから」


 その答えを聞いて、叔父はようやく「ならいい」とだけ言った。


 その夜、布団に入ってからも、しばらく目は冴えたままだった。

 正体を明かした。

 乃亜のことも話した。

 人間に、少しだけ信じられた。

 まだ全面的じゃない。

 それでも、久城家とも学校とも違う反応だった。

 隣室の気配は静かだ。

 ルクスは窓際で警戒を続け、リゼットは端末形態に戻って沈黙している。


「……主」


 暗がりの中で、ルクスが低く呼ぶ。


「何だ」

「……止められなければ、あの男を裂いていました」

「ああ、知ってる」

「申し訳ありません」

「いや――」


 俺は天井を見たまま答える。


「今回は、止めて正解だった」


 リゼットの青い光が小さく明滅する。


「信頼対象として再評価を開始します」

「――時間かけてやれ」

「了解」


 そこでようやく、少しだけ眠気が来た。

 この世界で初めて、正体を知った上で俺をここに置くと言った人間がいる。

 それがどれだけ異常で、どれだけ貴重かくらいは分かる。


 ――だからこそ、必ずやる。


 乃亜の体は、必ず本人に返す。

 借りた身体を、ちゃんと元の持ち主へ。

 そのためなら、何度だってダンジョンへ潜ってやる。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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ぜひよろしくお願いします!

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