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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第14話 逃げ場のない夜に


 家を出た次の日の夜、俺は駅前の明かりを見上げながらようやく一つの事実を認めた。


 この世界は、未成年が一人で生きるには面倒すぎる。


 昨日は勢いのまま動けた。

 ルクスと合流し、リゼットも呼び、配信の準備まで整えた。

 ダンジョンに潜る道筋も見えた――そこまではよかった。

 だが問題は、もっと単純な所にあった。


 ――寝る場所がない。


 異世界なら野営で済ませる。

 森でも廃墟でも、身を隠せる場所さえあれば何とかなる。

 だがこの世界ではそれが通らない。

 街中で夜を明かせば警戒されるし、未成年一人では宿も簡単には取れない。

 身分証だの保護者の同意だの、いちいち細かい。


「不便だな……」


 思わず呟くと、隣を歩くルクスがこちらを見た。


「このまま外で夜を越すことも不可能ではありません」

「分かってる……けど、それを続けるのは得策じゃない」

「ええ」


 リゼットもすぐ後ろで淡々と補足する。


「未成年単独行動への警戒度は高いと推測されます。継続した野宿は通報、補導、協会介入の可能性あり」

「だろうな」


 この身体は十四歳だ。

 俺自身がどう思おうと、周囲から見れば保護される側の年齢でしかない。

 だからこそ、まず必要なのは拠点だった。

 どこか、最低限身を置ける場所。

 ダンジョン攻略の足場になって、余計な目を避けられて、何より――あの家に戻らなくて済む場所。

 そこで、ふと乃亜の記憶の断片が引っかかった。

 母方の親族であり、年に数回しか会わない。

 母とは少し距離がある。

 昔、まだ幼かった乃亜にだけは普通に接してくれた男。

 名前を思い出すまで数秒かかった。


「……篠宮(しのみや)智明(ともあき)


 口に出すと、記憶の輪郭が少し鮮明になる。

 母の弟で確か独身だったはずだ。

 久城家に来てもあまり長居はしないが、乃亜には妙に構っていた。

 母に似ていない、という印象まで残っている。


「知っている相手ですか?」


 ルクスの問いに頷く。


「確か乃亜の叔父だ。母親の弟」

「信用できる相手ですか?」

「さぁ、分からない……でも、完全な他人よりはましだ。少なくとも、久城家の空気を知ってる可能性がある」


 ニヤっと笑う俺に対し、ルクスは静かに息を吐く。

 ただ、それだけで十分だった。

 頼る相手として最良ではないにしても、今の俺に選り好みはできない。

 乃亜の記憶を辿り、連絡先を探す。

 スマホの中に残っていた名前を見つけた時、少しだけ胸が軽くなった。

 やはり繋がってはいた、らしい。

 ただ、いきなり連絡を入れるのも危うい。

 久城家に話が回る可能性がある。

 それでも行くしかなかった。


 結局、俺たちは夜の住宅街を歩き、篠宮智明の住むマンションへ向かった。


 乃亜の記憶どおりなら、駅から少し離れた古めの建物の三階。

 オートロックを抜け、インターホンの前に立ち――指が止まった。


「……っ」


 思わず、声が漏れた。

 同時に今さら緊張している自分に気づく。

 戦場ではもっと大きな決断をいくらでもしてきた。

 死地に踏み込む事も、竜の前に立つ事もあった。

 なのに今、たかが呼び鈴ひとつ押すのに躊躇している。


 ……いや、たかが、じゃないな。


 これは俺自身の問題じゃない。

 乃亜の人生に関わる、最初の一歩だ。

 そして、乃亜を助けるための一歩でもある。

 俺は息を吐いて、呼び鈴を押した。

 少し間があってから、低い男の声が応答する。


『はい?』

「おじさん……久城、乃亜です」


 名乗った瞬間、向こうが息を呑んだのが分かった。


乃亜(のあ)?』

「夜にすみません。少しだけ、その……話がしたくて」

『お前、どうした?こんな時間に』


 警戒と驚きが混じっている言葉だ。

 当然だろう――母親の弟から見れば、甥が夜に突然一人で来るなど普通ではない。


「その、開けてもらえますか」

『……分かった。今行くから待ってろ、良いな?』

「はい」


 扉が開くまでの時間が長く感じた。

 やがて内側から鍵の音がして、男が顔を出す。

 篠宮智明(しのみやともあき)は、記憶どおりの男だった。

 三十代半ばくらいで少し無精ひげが伸びていて、部屋着の上に適当に上着を羽織っている。

 整っているわけではないが、気の抜けた雰囲気のせいで威圧感は薄い。

 ただ、その目だけは予想以上に鋭かった。


「……お前は――」


 俺の顔を見て、すぐに何かを察したらしい。

 目元に疲れがあることも、荷物が少ないことも、多分全部見られた。


「……入れ」


 短くそう言って、道を開ける。

 俺は一瞬だけ迷ったが、礼を言って中へ入った。


 部屋は一人暮らしの男の家らしく簡素だった。

 散らかってはいるが、不快なほどではない。

 最低限の生活感と、他人を拒むほどの冷たさもない。

 玄関で靴を脱ぎながら、叔父は低い声で尋ねた。


「姉貴んとこには連絡したのか」

「してません」

「……そうか」


 責める口調ではない。

 だが、その一言だけで空気が少し重くなる。

 居間に通され、ソファへ座るよう促される。

 叔父は向かいの椅子に腰を下ろすと、缶の飲み物を一本だけこちらへ投げて寄越した。


「で」

「……」


 言葉を選ぶ時間は、あまりない気がした。

 下手に誤魔化せば、かえって警戒される。

 俺は缶を手にしたまま、まっすぐ叔父を見た。


「あの、ですね……少しだけ、ここに住まわせてほしいです」


 それを聞いて、叔父の眉が少し変化しているのがわかった。


「少しだけ?」

「はい。長くじゃなくていいです」

「理由はなんだ?」

「……家に帰りたくない」


 それだけで十分だと思った。

 だが叔父は視線を逸らさず、続きを待っている。


「……未成年だから、ホテルとかも難しいし」

「そうだな」

「迷惑はかけません。食事も最低限でいいです。寝る場所だけ、少しだけ貸してほしいです」


 言いながら、自分の声が妙に平坦だと気づく。

 本当はもっと色んな感情がある。

 怒りも、疲れも、苛立ちも。

 だが今ここでぶつけたいわけじゃなかった。


「学校にも通います。勝手に問題を持ち込むつもりもないです」

「……」

「だから、少しだけでいいんです」


 乃亜の言葉を交えるようにしながら話を続けるが、叔父はしばらく黙っていた。

 気まずい沈黙ではなかった。

 やがて、ぽつりと問う。


「もしかして、殴られたか?」

「違います」

「じゃあ、金か?」

「それも違います」

「――じゃあ、いつものやつか」

「……」


 その言い方で分かった。

 この男は、何も知らないわけじゃない。


「知ってるんですか?」

「全部じゃないがな」


 叔父は頭を掻いた。


「でも、あの家の空気がまともじゃねえことくらいは知ってる。昔からな」

「……そうですか」

「姉貴は昔から困ったような顔で切るタイプだし、義兄さんは体裁ばっか見る。で、瑠亜は……まあ、賢いよな」


 最後の言い方だけ、少し苦かった。

 俺は缶を握る手に力を入れる。


「……大丈夫なら、ここに置いてください」

「どうしてだ?」

「……帰りたくないんです」


 嘘じゃない――それはノアとしても、乃亜としても本音だった。

 あそこに戻ったら、また、色々と壊される。

 このままでは、【乃亜】自身がどうなってしまうかわからないから。


「もう、あそこに戻って、何もなかったみたいにするのは無理です」


 静かに言い切ると、叔父は長く息を吐いた。


「……乃亜」


 呼ばれた名前に、少しだけ胸がざわつく。

 その呼び方は、久城家の誰とも違った。

 何処か優しい感じの呼び方のように聞こえたのは気のせいではないと思いたい。


「お前が【帰りたくない】って言うの、初めて聞いたな」

「あ……」


 図星――乃亜はずっと言えなかったのだろう。言っても無駄だと知っていたから。


「だから、よっぽどだとは思う」

「……」

「正直、面倒は面倒だぞ。俺が姉貴に何て言われるかも分からん」

「それでも……それでも、帰りたくないです」


 必死の訴えだったと思う。

 俺の言葉を聞いた後、叔父は数秒だけ俺を見て、それから観念したように背もたれへ身体を預けた。


「分かった」


 その一言に、息が止まりかけた。


「しばらくでいいなら、いていい」

「……いいんですか?」

「よくはない。絶対面倒だな」


 そう言いながらも、声はそこまで厳しくない。


「でも、帰りたくない甥っ子を玄関で追い返すほど、俺も薄情じゃない」

「……ありがとうございます」

「礼はまだ早いし、ルールは守れ。学校も行け。勝手に無茶すんな。何かやらかす時は先に言え」

「はい」

「あと」


 叔父はそこで一度言葉を切った。


「――今日のところは、もう休め。顔が死にすぎてる」


 少しだけ笑いそうになった。

 たぶん、ノアとしてこの世界に来てから初めて、まともな大人の言葉を聞いた気がした。

 叔父は立ち上がると、隣の部屋を顎で示した。


「客用なんて立派なもんじゃないが、布団くらいある。寝る場所だけ欲しいんだろ」

「……十分です」

「そうか」


 その返事だけで、ようやく肩の力が抜けた。

 寝る場所――たったそれだけのことなのに、手に入るまでが酷く遠い。

 ルクスが見えない位置で気配を潜めたまま、静かにこちらを見ているのが分かる。

 あいつも少しだけ安心したのだろう。

 俺は叔父にもう一度頭を下げた。

 ここが安住の地だとは思わない。

 いつまでも頼るつもりもない。

 だが少なくとも今夜、この場所は久城家よりはるかにまともだった。


 それだけで十分だった――はずだった。


「……乃亜」


 叔父が、ふいに低い声で俺を呼んだ。

 顔を上げると、さっきまでの気の抜けた空気は消えていた。

 値踏みするような、けれど責めるわけではない視線が、まっすぐこちらへ向いている。


「もう一つだけ聞いていいか?」

「あ、はい」


 短く頷いた、その次の瞬間だった。


「――お前は一体誰なんだ?」

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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