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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第12話 噂と違う

 翌朝、学校へ向かう足取りは、自分でも思っていたより軽かった。

 別に気分がいいわけじゃない。

 眠りは浅かったし、乃亜の身体はまだ本調子にはほど遠い。

 起きた時から、どこか芯のあたりに鈍い疲れが残っていた。

 それでも、あの家から通っていた時みたいな息苦しさはなかった。

 帰る場所がない――その事実は本来、もっと重くのしかかるもののはずなのに、不思議なことに今は少しだけ胸が軽い。

 戻りたくない場所も、もうないからだろう。

 それだけで、世界はほんの少しだけましになるらしい。

 校門をくぐると、相変わらず視線は集まった。

 無視しきれない程度のひそひそ声。

 遠巻きの興味。

 それ自体は昨日までと大して変わらない。


 ――違うのは、俺の方だった。


 教室へ入ると、何人かが一瞬だけこちらを見て、すぐに別の話題へ戻る。

 その中心にいたのは、花宮澪だった。


「だからさ、あの召喚士の動き、絶対おかしいって!」


 朝からよく通る声だった。

 机に身を乗り出しながら、スマホの画面を友人たちに見せている。


「普通あんなふうに戦わないでしょ?ていうか、召喚獣にあんな指示出せる? 中身、絶対ベテランだって」

「でも声、若くなかった?」

「そこがまた気になるんじゃん」


 配信の話だな、とすぐに分かった。

 視界の端に映った画面には、昨日の切り抜きの一部が流れていた。

 ルクスの一閃。

 フェルの火。

 俺の短い指示。

 そして、匿名の召喚士――正体不明の配信者。

 この学校の中で、自分自身の戦いが話題になっている光景は、妙にむず痒かった。

 けれど、悪い気はしない。

 少なくとも、あそこに映っているのは【久城乃亜】じゃない。

 家でも学校でも勝手に決めつけられた誰かじゃなく、戦っているものとして見られている。


「その……久城」


 名を呼ばれて、顔を上げる。

 そこには朝比奈湊が立っていた。

 相変わらず真面目そうな顔をしている。けれど、前みたいな強い決めつけは少し薄れて見えた。


「今日は、ちゃんと落ち着いてるんだな」

「……だから何だよ」

「いや、別に嫌味じゃない」


 朝比奈は少しだけ気まずそうに言って、視線を逸らした。


「……最近、お前、前と違うな」

「そうか?」

「いや、その……変な意味じゃなくて」


 言いながら、自分でも上手く整理できていない顔をしている。

 こいつのそういうところは、嫌いじゃなかった。

 少なくとも、自分の見ているものに迷うくらいの頭はある。

 最初から答えを決めている連中より、ずっとましだ。


「前はもっと……」

「もっと何だよ」

「……いや」


 朝比奈はそこで言葉を飲み込んだ。

 荒れていたとか、危なかったとか、そういう言葉を口にしかけて、やめたのだろう。

 俺はそれ以上追及せず、席についた。

 少しして、花宮がちらりとこちらを見る。

 その視線には、これまでみたいな面白がり半分の軽さに加えて、何かを確かめたがっている色が混じっていた。


「ねえ、久城くん」

「何だよ」

「昨日のあの配信、見た?」

「……見てない」

「ふーん……なんかさ、ああいう静かなタイプが急に強いとウケるんだよね。ギャップっていうか」

「……何が言いたいんだよ?」

「別に? ただ、最近の久城くんも前より静かだなって」


 まるで、何かを探るような目で、彼女はそのように言ってきた。

 でも、まだただの勘だ。そこに確信はない。

 俺は肩をすくめる代わりに、視線を外した。


「……学校で騒ぐ事じぇねぇし」

「前はあったみたいな言い方だね?」

「お前たちが勝手にそう決めてただけだろ」

「でも――」


 花宮が一瞬だけ言葉に詰まる。

 何か返そうとしたところで、ちょうどチャイムが鳴った。

 担任が教室に入ってきて、空気は一度切り替わる。


 授業が始まれば、表向きは平穏だった。

 けれど、それはあくまで表向きだけだ。

 休み時間になるなり、いつもの連中が寄ってくる。

 西園寺海斗、真田颯真、その取り巻き。

 どいつもこいつも、瑠亜の近くにいるとやけに気が大きくなる類だった。


「よう、久城」


 真田がわざとらしく俺の机の端に腰をぶつける。

 置いていた教科書が少しずれた。


「最近おとなしいじゃん。家でも怒られた?」

「それとも、やっと自分が迷惑だって分かったか?」


 西園寺が薄く笑う。

 周囲も、見て見ぬフリをしながら耳だけはしっかりこちらへ向けていた。

 今までなら、この空気はもう完成していたんだろう。

 乃亜が何か言えば「ほらやっぱり」。

 黙っていても「反省してない」。

 どう転んでも悪者にできる流れ。


 だが、今日は違う。


 俺は真田の手を見た。

 机に指をかけ、わざと揺らしている。


「それで満足か?」


 自分でも驚くほど声は冷静だった。


「は?」

「くだらないことして、自分が強くなった気分になれるなら安いもんだな」


 怒鳴りはしない。

 立ち上がりもしない。

 ただ、事実だけを置く。

 真田の顔がぴくりと引きつった。


「何だよ、その言い方」

「お前が先に始めたんだろ」

「てめ……」


 手が伸びかけたところで、朝比奈が割って入った。


「真田、やめろ!」


 前なら、俺の方もまとめて止めていただろう。

 でも今日は違う。朝比奈は真っ先に真田を見た。


「お前から絡んでただろうが」

「別に絡んでねーし」

「俺は見てたぞ」


 朝比奈が睨みつけるようにしながら、短い言葉で言った。

 でも、その一言だけで教室の空気が微妙に揺れる。

 後ろの方で、花宮が小さく呟いた。


「……今の、別に久城くん悪くなくない?」


 その一言は小さいのに、妙に耳に残った。

 誰もすぐには否定しない。

 今までなら、すぐに「でも前から――」と上書きされていたはずなのに。

 真田は舌打ちした後、再度俺を睨みつけて、そして離れた。

 西園寺も納得いかない顔をしながら、これ以上空気を悪くする前に引くしかなかった。

 俺は何も言わず、ずれた教科書を静かに戻す。

 その時、教室の入口に立つ瑠亜と目が合う。

 周囲にはいつものように人がいる。

 女子生徒が話しかけ、男子が笑い、誰もが瑠亜を中心に空気を作っていた。


 その真ん中で、瑠亜だけが俺を見ていた。


 笑っている――けれど、目は少しも笑っていない。

 まるで、観察しているかのように。

 俺がどう返すか、どう崩れるか、どう折れるか。

 それを待っている目だった。

 けれど俺は、もうその期待には応える気はなかった。


   ▽


 昼休み、廊下へ出たところで透花とすれ違った。


 三枝透花――幼馴染だという記憶は乃亜の断片にあるが、俺にとってはまだ他人に近い。


 彼女が抱えていたプリントの束を落としかけ、俺は反射的に手を伸ばした。


「危な――」

「あっ」


 数枚が宙に舞う前に押さえる。

 そのまま手渡すと、透花は目を丸くしていた。


「……ありがと」

「別に」


 それで終わるはずのやり取りだった。

 なのに透花は、なぜか少しだけ戸惑った顔のまま俺を見ていた。


「乃亜く……じゃなくて、久城くん……」

「何だよ」

「……ううん」


 言いかけて、やめる。

 その代わり、透花はほんの少しだけ寂しそうに笑った。


「今のほうが、ずっといいよ。昔みたいだった」


 その意味を聞く前に、透花は足早に去っていった。

 残された言葉だけが、妙に耳に残る。


「……昔の、乃亜か」


 正直、乃亜の記憶を全部見たわけではないので、昔の乃亜がどのような人物だったのか、俺には分らない。

 しかし、もしかしたら、きっと透花に手を伸ばし、助けていたのかもしれないと考えながら、ため息を吐いた。


 時間がたつのが早い。

 放課後になる頃には、教室の空気は朝より少しだけ変わっていた。

 劇的な変化じゃない。

 相変わらず俺を遠巻きに見るやつは多いし、好意的な視線なんてほとんどない。

 それでも、前と同じように扱えばいいという雑な空気だけは、少し崩れていた。

 教室を出て、人気の少ない廊下を歩く。

 階段へ差しかかったところで、背後から声がした。


「――兄さん」


 俺は足を止める。

 振り返るとそこには、瑠亜が立っていた。

 誰もいないのを確認してから来たのだろう。

 笑顔はいつものままだが、その奥の温度は薄い。


「何だよ」

「ここ数日、本当に変だね」


 そのように言いながら瑠亜はゆっくりと近づいてくる。

 その目は、困っている弟のものでも、優しい人気者のものでもない。

 もっと粘つくような、説明しがたいものを滲ませていた。


「前はそんな顔、しなかったのに」

「……」

「もっと分かりやすかったよね。すぐ怒るし、すぐ傷つくし、すぐ黙るし」


 そこで瑠亜は小さく首を傾げる。


「最近の兄さん、前より面白いよ」


 面白い――そう来るか、と胸の奥が冷たくなる。


「でもさ」


 瑠亜の声が少しだけ低くなる。


「――僕の知らない兄さん(乃亜)になるのは嫌だな。だって僕たち双子でしょう?」


 その言葉に、背筋がひやりと冷えた。

 こいつはまだ気づいていない。

 俺が乃亜ではないことにも、魂が別だということにも。

 けれど、それでも本能的には察している。

 自分の知っている【(おもちゃ)】が、少しずつ壊れて、別のものになりかけていることを。

 俺は短く返した。


「……勝手にしろ。俺はお前に合わせる気はない」


 瑠亜の笑みが、一瞬だけ固まる。

 でも、それもすぐに元へ戻った。


「そっか」


 甘い声で、そして笑った。

 けれどその奥で、何かがじわじわ濁っていくのが分かる。


「じゃあ、もう少し見てようかな」


 その言葉を最後に、瑠亜は一歩引いた。

 俺はそれ以上何も言わず、階段を下りる。

 背中に刺さる視線は、最後まで消えなかった。


 なんで――兄さんは、もっと分かりやすかったのに。


 そんな声が、聞こえた気がした。

 だが振り返るつもりはない。

 今さら、あの弟の理解を得る必要はない。

 必要なのは、乃亜の魂を取り戻すことだけだ。

 既に、俺は家族たちとは縁を切っているつもりだ――これ以上かき回されたくない。


(それに、このままあそこにいれば、乃亜が壊れちまう)


 俺は再度、聞こえないように舌打ちをした後、今後の事を考えなければならないと思った。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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ぜひよろしくお願いします!

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