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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第01章 再始動編

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第11話 暗い場所で、はじめて【九条乃亜視点】


 最初は、何も分からなかった。

 暗くて、冷たくて、息も上手くできないみたいな場所に沈んでいて、上とか下とかもなくて、ただずっと苦しかった。

 ここがどこなのか、どうしてこうなったのか、最初はちゃんと思い出せなかった。

 でも、ぼんやり考えているうちに、少しずつ分かってきた。


 ――多分、僕はもういらないんだ、って。


 家でも。

 学校でも。

 どこでも。


 僕が何か言っても、誰もちゃんと聞いてくれなかった。

 違うって言っても、言い訳するなって言われた。

 やってないって言っても、でも前もそうだっただろって言われた。

 瑠亜が泣けば、みんな瑠亜の味方をした。

 母さんは困ったように笑って、僕を見た。

 父さんはため息をついて、失望した顔をした。

 姉さんは見ないフリをした。


 学校でも同じだった。

 みんな、僕を見てるようで見てない。

 でも悪い事が起きると、急に僕の事だけよく見えるみたいだった。


 どうしてなんだろう、って、最初はずっと思ってた。


 僕が本当に悪いのかな?

 僕が変なのかな?

 僕がちゃんとしてたら、違ったのかな?


 考えて、考えて、でも分からなくて、最後には、もう考えない方が楽になった。


 ごめんなさいって言っておけば、少しだけ早く終わる。

 黙ってれば、怒られる時間が短くなる。

 期待しなければ、傷つくことも少なくなる。


 ――だから諦めた。


 家族って、助けてくれるものなんだって期待するのを。

 誰かが信じてくれるかもしれないって思うのを。

 その方が楽だったから。

 でも、完全に何も感じなくなれたわけじゃなかった。

 苦しいのも、痛いのも、ずっとそこに残っていた。

 暗い場所に沈みながら、僕はただ膝を抱えていた。

 寒い。

 こわい。

 誰かに見つかりたくない。

 でも、ひとりなのも、いやだった。


 そんな時だった。


 ふわ、と、暗い場所に光が差した。


「……え」


 最初に見えたのは、白かった。

 月の光みたいにやさしい、淡い光。

 それが近づいてきて、僕の前で止まる。

 長い白銀の髪。

 きれいな服。

 やさしそうに見えるのに、どこか人間じゃないみたいな女の人。


『……この子、まだいるわ』


 その声は静かで、でもはっきりしていた。

 怖くなって、の句は身体を縮めた。

 知らない――こんな人、知らない。

 でも、その人は怒らなかった。

 責めもしなかった。

 ただ、壊れものを見るみたいに、そっと僕を見た。


『大丈夫よ』


 そう言われても、大丈夫なはずがなかった。

 知らない場所で、知らない人たちがいて、しかも一人じゃなかった。

 次々に気配が増える。

 赤い髪の、目つきの悪い男の子。

 黒くて小さな竜。

 花の匂いがする、きれいだけど少しこわい人。

 大きな狼みたいな気配。

 黒猫。

 羽のある人。

 もっと、たくさん。

 どの人も、人間とは違った。

 なのに、みんな僕を見ていた。

 逃げたかった。

 でも逃げる場所なんてなかった。


『誰だよ、こんなになるまで放っといたやつ』


 赤い髪の子が怒ったように言う。

 びくっとしてしまったけど、その怒りはぼくに向けられているんじゃないと、なんとなく分かった。


『こわい匂いする』


 黒い小さな竜が、鼻をひくつかせる。

 その言い方に、胸の奥がぎゅっとなった。

 やっぱり、僕は変なんだ。

 こわい匂いなんて、そんなの、自分でもいやだ。


「……ごめん、なさい」


 気づいたら、そう言っていた。

 謝るつもりなんてなかったのに。

 でも、口が勝手にそう動いた。

 いつものことだった。

 すると、空気が止まった。


『謝らなくていいのよ』


 最初の白い人が、すぐにそう言った。


『でも……』

『いいの』


 やさしい声だった。

 母さんの声とは、全然違った。

 母さんもやさしく聞こえる時があった。

 でも、それは本当にやさしいわけじゃなかった。

 僕を見ているようで見ていない声だった。

 この人の声は違った。

 ちゃんと、ぼくに届く声だった。


『あなたは悪くないわ』


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がぐしゃっとなった。

 そんなこと、一度も言われたことがなかった。


 悪くない。


 僕が?


 そんなはずない、と思った。

 でも、もし少しでも本当なら、どうして今まで誰も言ってくれなかったんだろう。


『主が目を覚ましたら、きっとあなたを見つけてくれるから』

「……あるじ?」


 聞き慣れない言葉だった。

 でも、その人たちはみんな、当たり前みたいにその【主】の話をする。


『この身体に来た子よ』


 僕は思わずびくっとした。

 やっぱり、いたんだ。

 自分の中に、知らない誰かが。

 怖かった。

 身体を取られたのかもしれない。

 もう返ってこないのかもしれない。

 そう思って、ずっと怖かった。


『でも、あの子はあなたを消していないわ』


 白い人はそう言った。


『むしろ、きっと助けようとする』

『なんで、そんなこと……』


 分からなかった。

 知らない誰かが、どうしてぼくなんかを助けようとするんだろう。

 その時、少し離れたところで、銀色の目をした人が低い声で言った。


『主が見捨てないなら、俺たちも見捨てない』


 その人は一番怖そうだった。

 静かで、冷たくて、近づいたら噛みつかれそうな感じがした。

 でも、その言葉だけはまっすぐだった。


 ――見捨てない。


 その言葉も、知らなかった。

 僕はずっと、誰かに見捨てられるのが当たり前だと思ってたから。

 黒猫の子が近づいてきて、くるんと尻尾を揺らした。


『大丈夫だよぉ。ぼくら、主の味方だもん。主が助けたいなら、きみも守る』

『……』

『だから消えないでね』


 ――消えないで。


 そんな風に言われたことも、なかった。


 僕がいなくなったら、みんな少しは楽になるんじゃないかって、何度も考えた。

 僕がいなければ、瑠亜は困らない。

 父さんも母さんも、ため息をつかなくて済む。

 姉さんだって、見ないふりをしなくて済む。

 だから、ここで消えてもいいのかもしれないって、少し思っていた。


 ――でも。


『わたしもです』


 その声は、すごく静かなのに、全部が変わるみたいだった。

 振り向くと、小さな女の子がいた。

 銀みたいな髪をしていて、すごくきれいで、でも見た瞬間に分かる。

 この子は多分、一番すごい。

 怖いくらい強い何かを持っているのに、その子は僕の前でしゃがんだ。


『こわがらなくていいのですよ』


 そう言って、頭を撫でられる。

 びっくりした。

 すごくやさしかったから。


『あなたをなかせたひとたちは、あとで考えればいいのです』

「あとで……?」

『ええ。いまは、ここにいてね』


 その言い方が、なんだか少しだけおかしくて、でも泣きそうになった。

 あとで考えればいい。

 そんな風に、僕を傷つけた人たちより、僕の方を先にしてくれる言葉なんて、初めて聞いた。

 その子はにこっと笑った。


『おねえちゃんって、よんでいいからね、のあ』


 思わず、目を見開いてしまう。


 ――おねえちゃん。


 そんな風に言われたことなんてない。

 姉さんはいたけど、あんな風に近くに来てくれたことは、あまりなかったから。

 白い人も隣に来て、そっとぼくを包むみたいにしてくれた。


『わたしのことも、好きに呼んでいいのよ』

「……なんで」

『あなたが頑張りすぎてしまう子だから』


 その言葉で、とうとうこらえきれなくなった。

 声は出なかった。

 でも涙だけが止まらなかった。

 なんで泣いてるのか、自分でも分からない。

 多分、ずっと泣いちゃだめだと思ってたからだ。

 泣いたら困らせるだけだって。弱いって思われるだけだって。

 でも、ここでは誰も困った顔をしなかった。

 誰も「またか」みたいな顔をしなかった。

 ただそこにいてくれた。


『主が来るまで、わたしたちが支えるわ』

『すぐ会えるよぉ』

『だから泣いていい』

『……主が選んだなら、守る』


 いろんな声がする。

 こわい人もいた。

 口が悪い人もいた。

 ちょっと変な人もいた。

 でも、誰も僕を責めなかった。

 僕は震えながら、小さく息を吸った。

 知らない人たち。

 人間じゃない人たち。

 でも、この人たちは、僕がいなくならないようにしてくれている。


 それに――主。


 この身体に来た、知らない誰か。

 まだちゃんと会ってもいないのに、その人のことをみんな信じている。

 その人が助けるなら、自分たちも助けるって言っている。

 そんな風に誰かに信じられている人なら、少しだけ、会ってみたいと思った。

 本当に僕を消さないのか?

 本当に返してくれるのか?

 本当に、見つけてくれるのか?

 分からない。

 まだ、こわい。

 でも、少しだけ。


 少しだけ、生きていてもいいのかもしれないって思ったんだ。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

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