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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第4章 歪む教室と王虎の魔術王編

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第113話 見て見ぬフリはしない


 西園寺海斗が席へ戻ったあとも、教室の空気は濁ったままだった。

 誰も大きな声では言わないが、視線と小声だけで十分にわかった。

 同時に、聞こえてくるのは間違いなく、この声だ。


 ――久城乃亜が必ず、悪い。

 ――西園寺は瑠亜を庇っただけだ。

 ――あの態度は冷たすぎるんだよねぇ。


 そんな声が、教室の隅々に薄く広がっていくのがわかった。

 俺は窓の外を見たまま、残りのパンを口に運びながら、面倒と考えてしまった。

 まぁ、俺自身はどうでも良い事なので気にしていなかった――のだが、予想をしていなかった行動をする人物もいる。


「……なあ、西園寺」


 低い声がしたので視線を向けると、その声は理央だった。

 止めていたはずなのに、どうやら限界が来たのかそれはわからない。

 食べていたパンの動きを止めた。

 理央の握っている拳が握りしめられているのが分かると同時、止めた方がいいだろうかと言う顔をしたが、理央の目を見て辞めた。

 あれは、多分――いや間違いなくただ怒っている目ではなかったから。


「何だよ……榊原」


 西園寺が振り返る。

 さっきまで俺に向けていた怒りが、今度は理央へ向いた。


「……今の、違うだろ」

「何が?」

「お前、乃亜に謝れって言ったよな」

「言ったぞ、間違ってないだろう?瑠亜が傷ついてたんだから」

「それが違うって言ってるんだよ」


 理央の言葉に対し、次の瞬間教室が静かになった。

 一方、言葉を口にした理央は一度、息を吸った。


「瑠亜が傷ついて見えたから、乃亜が悪い……そう決めつけるのは違うんじゃないか?」

「決めつけじゃない。実際、あいつの言い方はひどかっただろう?」

「言い方の話なら分かる。でも、お前はそれ以上のことを言ってたじゃないか。昔からそうだとか、瑠亜に気を遣わせてるとか……」


 理央の声が少し震える。

 それは、怒りではなく別のものなのかもしれない。


「――お前、本当に見てたのか?」


 西園寺の眉が動く。


「……何を?」

「乃亜のことだ」


 理央は話を続ける。


「乃亜が何も言わなかった時、どういう顔をしてたか。瑠亜のために黙ってたのか、本当に何も思ってなかったのか。俺たち、ちゃんと見てたのかよ」


 教室の空気が変わった。

 そして、理央の言葉を聞いて、西園寺はすぐに言い返せなかった。

 理央は苦しそうに唇を噛む。


「俺は……見てなかった」


 その声は、教室の中でやけにはっきり響いた。


「昔から一緒にいたのに、乃亜がどんな顔してたかなんてちゃんと見てなかった。瑠亜が泣きそうな顔をしたら俺はいつもそっちばっかり見てた」


 理央の言葉に対し、透花が息を呑み、花宮も黙っていた。

 静かに息を吐きながら、再度答える。


「乃亜が悪いんだと思った方が楽だったんだよ、きっと……」


 その話を聞いても、俺は何も言わなかった。

 対し、理央は続ける。

 

「瑠亜は分かりやすく傷ついて見えるが、乃亜は何も言わない。だったら、乃亜が謝れば収まる……そう思っていたんだ」


 その言葉は、西園寺に向けられていた。

 だが、同時に理央自身へ向けられているようにも聞こえた。


「でも、それで乃亜が何を飲み込んでたか、俺は考えなかった……考えなかったんだよ」


 理央はそのように言いながら拳を握りしめる。

 そのまま教室の誰かが、小さく椅子を鳴らした。

 西園寺は顔をしかめる。


「……それは、お前の話だろ」

「ああ。俺の話だよ」


 理央は逃げなかった。

 睨みつけるように西園寺に向けて。


「だから言っているんだ……俺は間違えた。見て見ぬふりをした。瑠亜の方が分かりやすかったから、乃亜を見なかった」

「だからって、今の久城乃亜が瑠亜に冷たくしていい理由にはならない」

「それも分かる」


 理央は答える。


「でも、だからってお前が全部知った顔で責めていい理由にもならない」


 理央の言葉を聞いて、西園寺が言葉を詰まらせる。

 そのまま、理央は一歩前へ出た。


「謝れって言うなら、何に対して謝るのか言えよ。乃亜が何をしたのか、ちゃんと言えよっ!」

「る……瑠亜を傷つけた!」

「……どうやって?」

「だから、朝の態度だろ!」

「……本当に、それだけか?」


 さっき俺が言ったのと同じ問いだった。

 そのまま、西園寺は顔を歪める。


「お……お前まで、何なんだよ!」

「俺は、今度は……見ないフリをしたくないだけだ!!」


 理央の声が、叫ぶように答える。

 本当は殴りたくてしょうがないのかもしれない――理央の拳が震えているのが分かった。


「俺は一回、間違えた……乃亜を助けられなかった!だから今度は、空気だけで誰かを悪者にするのを見過ごしたくないだけだ!」


 理央のその言葉に、教室のざわめきが消えた。

 再度、理央は俺の方を見なかった――それが、逆によかった。

 俺のために言っているというより、自分の中にある後悔を吐き出しているように見えたから。

 理央は話を続ける。


「西園寺……お前が瑠亜を心配するのは勝手だ……でも、それで乃亜を殴るな。言葉でも、空気でも」

「俺は殴ってなんか――」

「殴ってるんだよ、西園寺」

「は?」

「瑠亜が可哀想だって言葉で乃亜を責める空気を作ってる。それがどれだけきついか、俺は今さら分かった」


 西園寺はそのまま黙った。

 怒っているが、納得はしていない。

 だけど、すぐに言い返す言葉はない。

 その時、教室の端で誰かが小さく言った。


「……でも、理央くんだって前は瑠亜くん側だったじゃん」


 その子言葉を聞いて、理央の肩がわずかに揺れた。

 どうやら、痛いところを突かれたのだろう。

 それでも、理央は逃げなかった。


「わかっているから、言ってるんだ」


 理央は、はっきり答えた。


「俺は間違えた……だからこそ、同じことをしたくない」


 その言葉に、俺は少しだけ目を細めた。


 処刑されてから、俺は人間は嫌いだ。

 間違え、流される。

 俺の周りにいた人間たちもそうだった――俺は別に何も悪い事をしていないのに。

 そして、乃亜も悪い事をしていない。

 していないからこそ、タチが悪いのだ。

 西園寺は再度、理央に視線を向けながら、舌打ちをした。


「……勝手にしろよ」


 西園寺は吐き捨てるように言った。


「でも俺は、瑠亜が傷つくのを黙って見てる気はないからな!」

「俺もだ……乃亜が一方的に責められるのを黙って見てる気はない」


 二人の視線がぶつかると同時に、教室の空気が張り詰めた。

 そこで、花宮がわざとらしくため息をついた。


「はいはい、そこまでだよ二人共ー昼休み終わるし、先生来るし、これ以上やると全員まとめて面倒なことになるよ」


 笑いながらそのように答える。

 だが、目はまったく笑っていなかった。

 透花も小さく立ち上がる。


「私も……見ていただけだよ……でも、もう見ないふりはしないから」


 震える唇で、そのように答えう彼女は、西園寺を見る。

 透花は怯えたように一瞬肩を揺らしたが、それでも視線を逸らさなかった。

 理央だけではなく、透花も、花宮も――少しずつ、乃亜の周りの空気が変わろうとしている。

 それを瑠亜がどう見るかは、考えるまでもない。


 ――チャイムが鳴る。


 西園寺は何か言いたげに口を開き、結局何も言わずに席へ戻った。

 理央もゆっくり座る。

 それを見て、俺は小さく息を吐いたと同時に、声をかける。。


「理央」

「……何だよ」

「余計なことをしたな」

「……悪い」

「――だが」


 俺は窓の外を見たまま言う。


「……悪くはなかった」


 理央が驚いたようにこちらを見る。

 俺はそれ以上何も言わなかった。

 謝罪も、感謝も、今は必要なく、ただ、ひとつだけ分かったことがある。

 久城乃亜が立っていた場所は、少しだけ変わり始めている――それが救いになるか、別の火種になるかは分からない。

 だが少なくとも、もう全員が見て見ぬフリなど、出来ない。


読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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