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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第4章 歪む教室と王虎の魔術王編

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第112話 西園寺海斗


 昼休みが終わる少し前――花宮から聞いた噂の内容を頭の中で整理していると、机の前に影が落ちた。

 顔を上げと、そこには西園寺海斗が立っていた。

 何故彼が俺の所に来るのか理解が出来ないが、顔を見てみると怒りを隠そうとして、隠しきれていない顔をしていたのだ――分かりやすい。

 そして、彼が近くに来ると言う事は、間違いなく瑠亜絡みだ。


「――おい、久城乃亜」


 西園寺は俺の名前を呼ぶと同時に周囲の声が、わずかに小さくなる。

 さっきまで雑談をしていた生徒たちが、聞いていないふりをしながら、こちらへ意識を向けているのが分かった。


「……何だ?」

「瑠亜に謝れ」


 俺はあくびをしながら返事をすると、まさかそのような言葉を言われるとは思わなかった。

 教室の空気が、一瞬止まった。

 随分と単刀直入だなと思いつつ、面倒な前置きがない分、まだましかもしれない。


「……何を?」

「この前の朝の事だ」


 西園寺は眉を寄せながら言葉を続けさせる。


「瑠亜はお前を心配してただけだろ。それなのに、あの言い方はないぞ」

「……そうか」

「そうか、じゃない!」


 西園寺の声が少し大きくなる。

 だが、反応したところで何もならないので、俺はただ見つめるだけだ。


「お前、自分がどれだけ瑠亜に心配かけてるか分かってるのか!?実習の時だって、瑠亜はずっと気にしてたんだぞ」


 瑠亜は気にしていた、心配していた――そして、優しい弟だ。

 ずいぶん聞き慣れた形になってきたのだが、俺にはどうでも良い事で興味がない。

 そのまま椅子の背にもたれたまま、西園寺を見る。


「それで?」

「それで、じゃない!謝れって言ってるんだ!」

「悪いが、断る」


 短く、そのように言うと西園寺の表情が強張った。

 まるで、まさかそのように断られるとは思っても居なかった、と言う顔をしているが、どうして俺が謝らなければならないのかわからない。

 背伸びをするようにしながら答えると同時、呆れた顔で西園寺は俺を見ていた。


「……は?」

「悪いが、謝る理由がない」

「……お前、本気で言ってるのか?」

「ああ、本気だ」


 教室のあちこちで、小さなざわめきが起きる。

 ふと、理央は立ち上がりかけているので、俺は視線だけで理央を止める。


 ――来るな。


 今ここで理央が割って入れば、話が別の方向へ転がる。

 瑠亜を庇う西園寺と、俺を庇う理央――それではただの対立になってしまう。

 それもそれでめんどくさいのだ。


「西園寺……お前は、瑠亜から頼まれたのか?」

「違う」

「なら、勝手に来たんだな?」

「勝手とかじゃない。俺は、瑠亜が傷ついてるのを見てられないだけだ!」

「なら瑠亜のところへ行け」

「何だと?」

「傷ついているのが瑠亜なら、俺ではなく瑠亜を慰めればいいじゃないのか?」


 西園寺の目が怒りで揺れる。

 しかし、西園寺は一歩も引かない。


「お、お前が傷つけたんだろ?」

「そう見えたのか」

「見えたんじゃない!そうだろう!?」

「違うな」


 俺は静かに言った。


「……俺は自分の心配をしろと言っただけだ」

「その言い方が冷たいって言ってるんだ!」

「冷たいかどうかは、お前の感想だろう?」

「感想じゃない。普通、弟が心配してくれたら、もう少し言い方があるだろ!」

「……そうか、普通か」


 西園寺の言葉を聞いて、同時にその言葉は嫌だと実感してしまった。

 乃亜がどのように瑠亜の事を思っているのかは俺にはわからない。

 少なくとも俺は、瑠亜が嫌いだ。

 だって、乃亜の家族は、歪んでいるのだから。


 ――瑠亜は普通の弟で、優しい存在。


 その普通の形に押し込められて、乃亜はどれだけ削られたのだろう。


「西園寺……俺と瑠亜の事に、外から普通を持ち込むなよ」


 俺がそう言うと、西園寺は一瞬言葉に詰まった。

 だが、すぐに顔を険しくする。


「逃げるなよ。お前、昔からそうだよな。何も言わないで黙って、瑠亜に気を遣わせて、それで自分だけ被害者みたいな顔して……」


 胸の奥が、かすかに痛んだ。

 しかし、この痛みは俺の痛みではない。

 深い場所に沈んでいる、乃亜の痛みだ。

 こいつは知らない。

 何も知らないまま、知った顔で乃亜を刺している。

 俺はゆっくり息を吐く。

 ぶん殴りたい衝動を抑えようとしながら。


「西園寺」

「何だよ」

「お前は何を見たんだ?」

「は?」

「乃亜が瑠亜に何をしたところを見たか?実習で、俺が何をしたところを見たか?そして、朝、俺が瑠亜をどう傷つけたたか?」

「それは……」

「答えろ」


 多分、今の俺は”ノア”の顔をしているのに違いない。

 鋭く、睨みつけるようにしながら、俺は西園寺を見ている。

 一方の西園寺は口を開きかけて、止まり、周囲のざわめきも、少しだけ引いた。


「る……瑠亜がつらそうだったから、その……」

「それだけか?」

「それだけって、お前――」

「それだけなんだな?」


 俺は西園寺を見据える。


「お前が見たのは、瑠亜の顔だけだ。”乃亜”の事は見ていないんだな?」

「……っ」

「瑠亜が困った顔をした、だから乃亜が悪い。瑠亜が傷ついた顔をした、だから乃亜が謝るべきだ」


 言葉にしてやると、ひどく単純だった。


「お前の正義は、ずいぶん楽なんだな……反吐が出て気持ちが悪い」


 多分、これは俺自身の感情だ。

 気持ちが悪い――目の前の男が、本当に。

 何を言っても、何を訂正しても、きっとこの男は瑠亜の信者なのだろう。

 気持ち悪い、と告げた俺に対し、西園寺の顔が赤くなる。


「ふざけるな!」

「悪いが、ふざけていない」


 俺は机の上のパンの包み紙を畳んだ。


「謝罪が欲しいなら、理由を持ってこい。感情ではなく、事実を持ってこい。ついでに証拠があれば、やりやすいな」

「お前……!」

「それがないなら、話は終わりだ」


 俺はそのまま、西園寺から視線を外した。

 これ以上、相手をする必要はない。

 西園寺はしばらくその場に立っており、拳を握り、何かを言いたそうにしている――だが、言葉が見つからないのだろう。

 やがて、低い声で言った。


「……瑠亜が言えないだけだって、どうして分からないんだよ?」

「瑠亜が言えないことを、お前が勝手に代弁するなよ」


 俺は顔を上げずに答えた。


「本当に必要なら、本人が言えばいいんだから」


 西園寺は唇を噛んだ。

 その時、教室の後ろの方で誰かが小さく言った。


「言い方きつ……」

「瑠亜くん、可哀想」

「西園寺くん、怒るのも分かるわー」


 花宮の方から、小さく舌打ちが聞こえた。

 多分きっと、悪い顔をしているに違いなと思いながら、俺は欠伸をする。

 理央が今度こそ立ち上がりそうになったので、俺は再び視線で止める。


 いい。

 これでいい。


 今のやり取りも、きっと別の形で広がる。

 久城乃亜が西園寺を冷たく突き放し、瑠亜を心配する友人に、ひどい言葉を返した――そういう話になるのだろう。

 なら、形に残せばいい。

 誰が何を言い、俺が何を返したのか。

 多分、花宮はもう、動いているはずだ。

 ふと、西園寺は最後に俺を睨みつけた。


「俺は、瑠亜を傷つける奴を許さない」

「そうか」

「本気だからなっ!」

「ああ、好きにしてくれ、そんでもって勝手にやっていてくれ」


 俺がそう返すと、西園寺は何かを飲み込むように顔を歪め、自分の席へ戻っていった。

 教室の空気は、さらに濁っていた。

 だが、不思議と俺の中は冷えていた。


 同時に、胸が少し苦しい。

 俺ではない、きっと乃亜だ。

 乃亜が、苦しんでいる。


 ふと、何気なく花宮に視線を向けると、グーサインを送っている。

 どうやら”記録”を取っていたらしく、そのサインなのだろう。

 俺は胸に手を置きながら、息を再度、深く吸ったのだった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 クソ弟の取り巻きも大概気色悪いですね…下らない正義感で勝手に片方を悪いと決めつけるなカス野郎が。 手のひら返しする前に、クソ弟と共に地獄に落ちて欲しいわ…。
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