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異世界で処刑された召喚士、冷遇された少年に宿りました~最強の召喚獣たちとダンジョン配信で成り上がり、奪われた人生を取り戻す~  作者: 桜塚あお華
第03章 月影の吸血姫編

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第107話 ノアの帰る場所を作る【篠宮智明視点】

 乃亜がまた倒れた——少しは自分が病み上がりだと言う事を考えろバカ野郎!と言いたかった。


「ノア!!」


 セレネの声が鋭く響き、またルクスが即座に身体を支えており、俺も反射的に手を伸ばした。

 軽い――触れた瞬間、ゾっとした。

 ついさっきまで平気だの多分だのと言っていたくせに、その身体は明らかに限界を超えている。


「家へ運ぶぞ」

「あ、ああ!」


 父さんの言葉に俺は頷き、ルクスと一緒に乃亜を抱え直した。

 例え中身が違うとしても、乃亜は今乃亜なのだから――そのように考えながら、俺は幼い少年の体を抱きかかえた。

 この身体は先ほどまで、異世界だのバケモノだのというものを相手にしていたのだ。


 冗談じゃない――だが、冗談では済まないことを、俺はもう知っている。


 家に戻ると、母さんがすぐに布団を敷かせた。

 理央くんが毛布を運び、透花ちゃんが震える手で湯を用意する。

 花宮ちゃんはスマホを握り、外の様子と電波を確認している。

 先ほどまで電波がうまくできなかったけど、今はどうやら元に戻りつつあるらしい。

 そのまま、乃亜を布団に寝かせると、セレネがすぐ傍へ膝をついた。

 彼女は紅い結晶を胸元に抱いたまま、もう片方の手で乃亜の額に触れ――淡い月光が、身体へ染み込んでいった。

 ふと、紅い結晶に視線を向けた。


「おい、その紅い結晶は……」

「色々ありましたので……あなたに話す事はノアに確認してからにします」

「ああ、わかった……乃亜は、大丈夫なのか?」

「命に関わるほどではありませんから大丈夫です。ただ、反動が強いです。魔力の消耗と、身体への負荷……先日の傷もまだ完全には癒えていませんので」

「……だろうな」

「原因は私ですので……本当に申し訳ございません」

「いや、行くって言ったのはコイツだから、アンタが謝らなくていい」


 セレネの言葉に対し、俺は答える。

 それを聞いて、彼女の目が見開いた。

 俺は息を吐き、声を落とした。


「今謝られたら、こっちが困る……あいつが起きたら説教するから気にするな」

「……はい」


 セレネは小さく頷いたのを角印した後、俺はスマホを取り出す。

 何度も確認したが、やはり電波は戻っていた。

 俺はすぐさま何度も繋がらなかった相手へ電話する。

 数コールで繋がった。


『――智明?』


 美玲の声は硬かった。


「やっと繋がったわ、はー……驚くなの?祖父母宅の近くにダンジョンが出た」

『…………は?何言っちゃってんの?』

「気持ちは分かる。俺も同じく呆れた」

『場所、民家の近くよね?自然発生?』

「普通じゃない奴だった。中にはどうやら吸血鬼みたいなやつらがいたらしい」

『吸血鬼?』

「ああ……まぁ、とりあえずダンジョンは色々あって閉じたんだが……やったのは、乃亜だ」

『どうしてアンタの甥っ子が?』

「それは色々事情があってな……まぁ、そういうのがあったって報告」

『……そう』


 美玲との話をしながら、俺は再度乃亜に視線を向ける。

 布団に寝かされた乃亜の前に、傍にいるセレネ。壁際に立つルクス。

 不安そうに見守る理央くん、透花ちゃん、澪ちゃん——そして父さんと母さんの姿。

 俺は再度、静かに息を吐く。


「色々と騒ぎになって、隠すのは無理だな……どうしたらいい?」

『なら、最低限の報告ラインを作りましょう。民家近くの一時的な空間異常、被害なしと、詳細不明。今夜はそれで通すしかないわ』

「ああ、助かる」

『そのぐらい何とかやるわよ……今度、色々奢ってもらうから』

「ああ、分かってる」

『――それと、智明』


 美玲の声が少し柔らかくなった。


『……あなた、大丈夫?』

「……大丈夫じゃないな」


 言ってから、自分でも少し驚いた。

 どうやら俺自身が大丈夫じゃない。

 寝ている乃亜の姿を見て、静かに笑いながら。


「乃亜が倒れて……俺は保護者面してるくせに、肝心なところで何もできなかった」

『あのね智明、あなたがそんな事言ったって、何にもならないわ』

「……そうか?」

『……せめて今のあなたがするのは、乃亜君が安心して帰れる居場所を作るのよ。まだ、お姉さんたちの事、解決してないんでしょう?』

「……ああ」

『乃亜君の帰る場所を、ちゃんと場所を守りなさいな』


 美玲の言葉を聞いて、俺は黙った。

 帰ってくる場所——確かにそうなのかもしれない。

 馬鹿みたいに無茶をして帰ってきた時、怒って、寝かせて、飯を食わせる場所。

 乃亜が静かにいつも言ってくる。


『ただいま、叔父さん』

 

 いつも、乃亜はそのように言ってくれる――それも、必要な事なのだろう。


「美玲……明日、来られるか?」

『朝一で行くわよ、もう準備中!表向きは現場確認と事情聴取して、裏では記録整理と口裏合わせしとくわ!』

「頼む」

『その代わり、少しでも寝なさいよ?』

「わかった、努力する」

『約束ね?』

「……分かった。約束する」


 静かに息を吐いた後電話を切ると、親父がこちらを見ていた。


「本条さんか?」

「ああ。朝一で来るってさ」

「そうか……智明、この件はもう家の中だけでは済まん。だが外へ出しすぎれば、乃亜は守れない」

「ああ」

「とりあえず、今は寝なさい。これからの事は寝た後に考えよう」

「……悪いな、父さん」


 父さんはそのように言った後、そのまま奥の方に行った。

 残された俺は再度乃亜に視線を向け、そしてセレネたちに目を受ける。

 ふと、その時ルクスが俺に近くにいた事に気づいた。

 壁際に立っていると思っていたのに、いつの間にか俺のすぐそばまで来ていたらしい。

 相変わらず無駄な気配がない。


「……なんだよ」


 俺が声をかけると、ルクスは布団で眠る乃亜へ視線を向けたまま答えた。


「主を運んでいただき、感謝する」

「礼を言われるようなことじゃない。叔父として当然だ」

「叔父、か……」

「なんだ。不満か?」

「いや……」


 ルクスは静かに首を横に振った。


「主には、そういう存在が必要なのだと思っただけだ……前の世界でも、主は一人だったから」

「……そうか」


 その言葉に、俺は一瞬返せなかった。

 乃亜の身体にいるのはノアーーだが、その身体は乃亜のものでもある。

 そして俺は、そのどちらにも中途半端にしか手を伸ばせていない気がしていた。


「……俺に何ができるんだろうな?」


 思わず、そんな言葉が漏れてしまった。

 ルクスが何も言わず、こちらを見る。

 金色の瞳は静かで、けれど妙に厳しいような気がした。


「……主は戦える、私も……セレネもだ」

「ああ」

「ただ、主は休むことが下手なんだ」

「ああ、それは知ってるわ」

「頼ることも、あまり得意ではない」

「それも知ってる」


 ルクスは淡々と言ってくる。

 俺は静かに頷く事しか出来ない。

 対し、その瞳で俺を捕えながら、答えた。


「主が倒れた時に怒り、無理をした時に止め、帰る場所を用意してほしい」

「……美玲と同じこと言うんだな」

「本当の事を言っただけだ」


 それを聞いて、少しだけ笑いそうになった。

 召喚獣だのなんだのと言われても、今の言葉は妙に人間くさい――いや、もしかしたら人間よりもずっと真っ直ぐかもしれない。


「お前は、いや、お前たちは本当に乃亜のことを大事にしてるんだな」

「当然だ——主は私の主……ですが、それだけではないからな」


 ルクスはそのように言いながら眠る乃亜を見る。


「主は、多くを失っても前に進んでいた……しかし、だからこそずっと一人だった。だからこそ、あなたと言う存在が今必要なんだ」

「……それが俺の役目か?」

「――あなたが望むなら」

「望まなかったら?」

「それでも、あなたはやるだろう?」

「……」

「違いますか?」


 クソ、違わないから腹が立つ。

 俺は小さく息を吐き、布団の上の乃亜を見た。

 呼吸は落ち着いている。


「やっぱり、起きたら説教だな」

「……そうしてくれ」


 俺がそう言うと、ルクスはほんの少しだけ目を細めた。

 笑ったのかもしれない。分かりにくいが。

 ふと、窓の外は少しずつ白み始めていた。

 異常な夜が終わり、普通の朝が近づいてくる。


 だけど、本当に何も終わってはいない。


「帰る場所、か」


 俺は思わず、小さく呟いたのだった。

 静かに呟きに対し、ルクスは何も言わなかった。



読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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