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月でつくる未来につき、  作者: 中本すい
戦争前夜編
40/44

40.Blowback 05

 久々にキャンパス内をリオは歩いていた。いつもは敷地の端にあるアノマリー科の研究棟からシャイアンへ向かうルートしか使っていなかったからだ。そこでふと、学生の数がいつもより少ないことに気づく。スキャンして周囲を確認すると、周りにいるのはセラン国籍の生徒ばかりであった。


 外国籍の学生がほとんどいない。おそらく戦争が始まるかもしれないから帰国したのだろう。


 テレビ番組では呑気な予測ばかり流しているが、さすがにここに集まるような頭の連中には、今がどれだけ危険な状況か伝わっているようだった。


 議長に言われた通り、理事長室に向かってリオは歩みを進めた。校内には職員補佐用のマシナリーたちがあちこちに立っている。


 何年か通った場所なのに改めて見るとどこもかしこも怪しく見えた。多くのマシナリーは緑に光る瞳をしている。元々の設定かもしれないが、ここが最高評議会議長――未来人の箱庭であることを思えば、ほとんどは未来人か関係者だろうとリオは予想した。


 また、すれ違う他学科の教授や講師も緑の瞳をした者が何人かいた。人間であるはずなのに彼らも疑わしく感じられた。久しぶりに見るキャンパスの風景がまるで別世界のように思えた。

 

 中庭にある空中ディスプレイのニュースを少なくない学生が真剣な様子で眺めていた。昼休みの時間なこともあるのだろう。


『セラン政府は自治権返還に関しては、時代錯誤のナンセンスな要求であると明確に拒否をしており――』

『――連邦大統領府補佐官はセランの重力インフラをはじめとした人類共通の財産とも言える技術の独占を非難しつつ、軍事的緊張の高まりの懸念を――』


 ニュースキャスターの無機質な報道のあとに、コメンテーターたちによる討論が始まっていた。


『――どのツラ下げて連邦はこのコメントを表明してるのでしょうか。スターファイター2隻という過剰戦力を月面に派遣し、アルファポイントから試作の戦略兵器を月軌道艦隊に持ち込んだという話ではないですか!』

『連邦の中枢はあくまで関与しておらず、現場の判断という意味だと専門家は仰っています。また持ち込まれたのは戦略兵器ではなく戦術兵器であると軍事評論家の――』

『艦隊を動かしておいて大統領は知らないなんて道理が通るとでも!? 戦略兵器だろうが戦術兵器だろうが、宇宙に剥き出しの都市にとって脅威に変わりはない――』

『――様々な意見が国際社会で交わされる中、セラン政府の技術力と経済力を背景にした傲慢な外交がこの事態を呼んだと――』

『火星および地球の戦線でも緊張が――』


 ちょっとセランから離れてる間にまた事態は進んでいた。いつも冷静で非現実的な意見ばかりのコメンテーターも今回は感情丸出しだ。それがパフォーマンスなのか、本気の焦りなのかはわからない。だがニュース映像に出てくる境界宙域の自由連邦艦隊の姿は、戦争が近づいているのを感じさせた。


 以前までは友好国の軍艦として見ていたが、今はいつその砲塔がセランの都市に向けられるかわからない恐怖が存在した。また、それに対抗するようにかなりの数のSPDの巡洋艦が睨み合うように航行している。同型艦なことがここまで事態がエスカレートしたことの悲哀を感じさせた。


――――――――――


 大学の管理棟八階にある理事長室の前にたどり着いた。扉の両脇には警備用のボットが無言で立っている。外見は一般的な警備ボットと大差ない。しかしフレームの隙間から覗く人工筋肉は、ナノマシンで強化されたリオの肉体ですら容易に引き裂けそうであった。学内ということからか武装はしていないが、それでも戦力としては過剰なほどだ。


 リオが扉の前に立つと、片方のボットが手を前に出して制止してきた。


「止まってください、スキャンします……確認できました、リオ様。入室許可が降りています。お入りください」


 扉が静かに開いた。中には重厚な机と椅子、応接用のソファが整然と配置されていた。理事長室らしい内装ではあるが人の気配はなく、使われている形跡もない。まるで偉い人の部屋という概念だけを忠実に再現したモデルルームだ。


「呼び出しておいて……いないの?」


 リオは視界を切り替えた。可視光から赤外線、紫外線、各種センサーモードへ。それでも何も映らなかった。光学迷彩であれば僅かな歪みが生じるはずだが、それすら存在しない。


 ――本当に誰もいない?


 視線を巡らせたそのとき、奥の執務机に設置された手をかざすタイプの認証端末が目に入った。次の瞬間、頭の奥に直接響くような声が流れ込んできた。


 ――誰……?


 鋭い痛みが眼球の奥を貫く。リオは思わず頭を押さえた。視界が一瞬揺れ、耳鳴りが止まらない。こめかみを襲う拍動する痛みに思考がかき乱される。


 頭を抑えながら一歩ずつ近づいていくと、その痛みは薄れていった。代わりに何かが輪郭を持ち始めた。


「知らないはずなのに――知ってる。わからないのに……私は何を……?」


 リオは端末の正面に立った。思考が微かに乖離する感覚に包まれながら、吸い寄せられるように手を伸ばす。そして認証部分に手をかざした。

 

 端末が小さな駆動音を立て数度強く発光した。次の瞬間、リオの視界に無数のコードが濁流のように流れ込み、生体情報への強制アクセスが始まる。本来なら自動で弾くはずの防壁がアクセスを素通りさせていった。


 ――セキュリティが機能しない!?


 文字化けした警告文が幾重にも重なり、その最下部にただ一つ簡素な選択肢が浮かんだ。

 

『Yes / No』


 一瞬の躊躇のあと、リオは「Yes」を思考操作で選択した。直後、空間が悲鳴を上げた。スパークが周囲に炸裂し、圧縮された空気が弾けるような衝撃音をこだまさせる。

 

 視界が緑の閃光に塗り潰され――リオの姿はその場から消失した。


――――――――――


 一瞬、視界が光に包まれ、身体が宙に浮くような感覚に襲われた。直後、まぶた越しに再び緑の閃光を感じて、ゆっくりとリオは目を開けた。


 見知らぬ場所だった。理事長室にいたはずなのに、そこに広がっていたのはトランスポート層に似た機械的な空間――ただし、そこははるかに狭く、工業プラントの中のようであった。


「今の瞬間移動(テレポート)だよね? 未来人ってそんなことまでできるんだ……」


 驚きはあったが、リオは思ったよりも冷静にこの現象を受け止めていた。瞬間移動(テレポート)という次元違いの技術に対して、なぜかそれほど感情が揺さぶられなかった。


 そのとき、足音が響いた。硬い金属床を打つヒールのような乾いた音。機械的な空間に反響しながら、ゆっくりと近づいてくる。振り返ると、そこには人型の何かが立っていた。


 銀色の長い髪。同じく銀色の金属で形作られた手脚。女性的な脚線美を強調するタイトなドレス風の装いが、その無機質な身体を包んでいる。しかし露わになった四肢はまるで精巧な金属製人形のようで、生身の温度を一切感じさせなかった。


 そして顔――


 そこには目も鼻もなく、液体金属の膜が貼りついたような無表情の表面があるだけだった。マネキンのように何も映さない。お面のようだ。


 その異形の姿にリオは息を呑んだ。その顔の液体がゆっくりとうねり――唇だけが形作られる。


「やあ、リオ。本体で会うのは初めましてだね。私がエメスだ。そして、ようこそ最高評議会へ」


 目の前の異形はやはり議長本人であった。声は一体どう出しているのか……見た目に反して自然な女性の声だった。


「それってマシナリーなの? ボットなの?」

「この体はマシナリーだよ。VT-00。君の部屋にも置いてあるVTシリーズの一番最初のプロトタイプ。それに私の意識が入った回路を組み込んである」


 つまり、それは――


「すっごい旧式?」

「そう言われるとロートル感が出るけど、市場に出せないような技術も注ぎ込んでるから、最新型以上に高性能だね」


 そう言う彼女は腕を掲げると、表面の切り込みから腕がいくつものパーツに別れて展開した。内部には妖しく光る球体があり、フレームのような部分がクルクル回っている。


 何かしらの高性能さをアピールしているようだが、技術が違いすぎて何を示しているのかさえリオには伝わらなかった。それを察して、展開していた腕を議長は閉じて会話に戻った。


「未来人は人工物にしか宿れないってベネラ……予言者の話は本当だったんだ」

「奴の語ったことの多くは本当の話さ」

「じゃあ、あなたたちは本当に未来人で、タイムトラベルしてきてるの?」


 議長は腕を組み片手を顎に添えた。顔が無いながらも、器用に考えるような仕草を見せる。


「そうだね。厳密なタイムトラベルとは違うけど、『意識』――君たちでいう魂や自我――そういうものをこの時代に向けて飛ばした存在だ。そして生命体を依代にはできない。ここまでは聞いてるよね?」


 その言葉を受けリオは小さく頷いた。


「うん。正直そんな技術力あれば人間の意識なんて乗っとれそうな気がするけど……」

「不思議なことにね、超常の存在と言えるほどになった我々の意識ですら、現代の人間の意識に触れれば消し飛んでしまう……意識単体はそれくらい脆いのさ」


 そういうものなのか……未来人でも万能ってわけじゃないんだ。


「ところで他の議員は? というか……こんな場所が議場なの?」


 周囲はまるで工場だった。剥き出しの金属の床に無数の配管。用途の分からないチューブや回路が、血管のように壁や天井を這っている。議場ではなく、重化学プラントの奥底と言われた方がしっくりくる。


 議長が自身の胸に手を当て胸を張った。


「ここだよ――私が最高評議会そのものだ」

「……どういう意味?」

「我々の意思は、私を通して統合され最適化される。つまり私は我々の代表であり、私がこの都市の最高評議会そのものだ」

「最高評議会の存在すら……嘘ってこと?」


 セランは民主主義国家ではない。最高評議会という組織に支配された実質的な官僚国家だ。末端の代議員はいるが権力は大して持っていない。それでも市民は、非公開といえど合議制でこの都市は動いていると信じているはずだ。


「ひとりによる独裁だと人類は本能的に嫌悪するからね。『議会がある』と思うだけで、独裁感は薄まるでしょ?」

「……」

「それに実務の大半は官僚が回しているから、独裁だろうがそうでなかろうがあまり関係ないよ」

「でも……」

「我々の目的の前に合議制は不要だ。この時代に来る前に我々の意思は統一されている。箱庭の管理者は私ひとりで十分だ」

「ほかの未来から来た人たちは?」


 この空間には議長以外の存在が感じられなかった。最高評議会が彼女ひとりだとしても、ほかの未来人がどこかにいるはずだとリオは思った。


「進みながら話そうか」


 議長の差し出した手のひらに従って進むと、前方の通路はいつの間にか緩やかな下り坂へと変わっていた。床と壁がそのまま傾斜を描き施設の奥へと続いている。


 リオと議長が端まで来た瞬間、鈍い駆動音が響いた。通路の先端が切り離され、ふたりが立っている床全体がそのまま斜面に沿って動き出した。床そのものが斜行エレベーターだったらしい。


「これって、どれくらい下がるの?」

「ここからだいたい一キロくらいかな」


 一キロ……。


 リオの知識でも、これほどの施設が存在する場所は想像がつかなかった。少なくとも都市のある民間層にはないだろう。


「今、私たちはどこにいるの?」

「メンテナンス層のさらに下だよ。表向きには、まだ人類が活動していないことになっている深さになる」

瞬間移動(テレポート)って、そんなところまで一気に来られるんだ」

「我々の時代は何億光年の彼方とも精神体で行き交う世界だからね。物質であってもこの程度は容易(たやす)いさ」


 そう言いながら議長の顔を覆っていた液体金属が揺らめいた。表面が滑らかに変形し、色と質感が人肌に近づいていく。やがて形作られたのは、VT(ヴィーティー)を思わせる人間的な顔だった。


「この方がリオも親しみやすいでしょ?」


 遠隔操作(プロキシ)越しによく見せていた、わずかに傲慢さを含んだ議長の笑みが浮かんだ。


『――! 約束……必ず……』

『何度でも……』

『……さようなら……』


 まただ。議長の顔を見た瞬間、頭の奥が鋭く痛みいくつもの声が流れ込んでくる。今回は言葉が聞き取れる……。


 リオは片手で頭を押さえよろめいた。


「大丈夫かい? かなりの地下だからね。人間の体には影響が出てもおかしくない。一応、気圧や環境条件は調整してあるんだけど」

「ううん……ただ幻聴があっただけ。最近、ちょっと多くて」

「ふうん……?」


 そう言いながら覗き込んでくる議長の視線は、心配というより観察に近かった。まるで症状の経過を確認しているかのようだ。


「ここからは長い。座りなよ」


 議長が手をかざすと、周囲に散らばっていた金属片が引き寄せられ、音を立てて組み上がっていく。形を変え折り重なり、あっという間に一脚の椅子となった。リオが座るのにちょうどいい高さで、肘掛けまで備えている。


「……それって。エメスは……議長は、超能力が使えるの?」


 超能力は人間にしか使えないはずだ。議長の体はマシナリーのはずなのに。


「君はこれがどこから来た力かわかっているのかい?」

「人間の突然変異……だよね? 脳の活動領域に関係してるらしいけど、原因はわからないって授業で習った」


 リオは一般に知られている超能力者の説明を口にした。


「今の人類にとって未知の力であることは確かだ。なぜなら――その力は『我々の力』なのだから」

 

 思わずリオは目を見開いた。超能力の起源は謎でしかなく、それは当たり前のことだった。まさか未来人に関係していたとは。


「我々って……未来人のってことでいいんだよね?」

「そうだ。我々がこの時代に来るとき、全員がうまく定着できるわけじゃない」


 予言者が似たようなことを言っていたのをリオは思い出した。


「我々の意識が宿るには高性能な演算装置が必要だ。しかし、高速で移動する太陽系の中で、適切な回路に辿り着けるかどうかは……賭けに近い」


 一呼吸置くように議長は自身の分の椅子も生成し腰を下ろした。脚を組み、肘掛けに片肘をついて頬杖をつく。


「時代も、場所も、必ずしも狙い通りにはならない。そして辿り着いたとしても、生命体に触れれば我々の意識は容易く砕ける。地球圏には失敗した我々の欠片がある時期から大量に増えた」

「そんな話、聞いたことないよ」

「当然だ。光学的に観測できるものじゃない。そして欠片が急激に増えた時代から、現代人の中に『ある力』に目覚める者が現れ始めた。それが――」

「……超能力者」


 議長は頬杖をついたまま静かに頷いた。


「そう。適性を持つ人間が空間に散らばる欠片を取り込み、未来の我々の力の断片を扱えるようになった。それが君たち超能力者だ。おとぎ話に登場する魔法使いも、行く時代を失敗した我々の欠片を取り込んだ人間の逸話が元になっているのだろう」

「じゃあ……私も?」


 胸の奥に重たいものが沈んだ。リオにとって、この事実は興味よりも複雑な思いを抱かせた。


「未来から来た誰かの意識か、すでに砕けていた欠片を君の意識が吸収した。それだけのことだ」

「……誰かの魂を吸い取って、力を得たってこと?」

「魂という言葉はあくまでわかりやすい例えに使っただけ。それに砕けた時点で意識としては死んでいる。君が罪悪感を抱く理由は何もない」


 そう言われてもリオの胸に残った居心地の悪さは消えなかった。


『失敗した……ごめんなさい……―――』


 まただ。知っているような女の人の声。こんなふうに頻発するのは今まで一度もなかった。一瞬、歪んだリオの表情に議長は気づいたらしい。


「また幻聴かい?」

「うん……。こんなに聞こえること、今までなかったのに……」


 その言葉を受けて議長の口角がわずかに持ち上がった。


「そうか。いい傾向だね」

「……何が?」

「すぐにわかるよ。――いや、わかってくれると助かる、かな」


 まるでこの声の正体を知っているかのような物言いだった。


 ――議長は知ってる? この声が何かを。


「我々は過去へ来る際、あらゆる記憶や人格を消去している。持てるのは記録や、創造の計算に必要な演算情報だけだ」

「……それは聞いてる」


 ベネラから聞かされた話と同じだ。


「だから我々の意識というものはある意味で無色なんだ」

「でも……あなたはすごく人間らしく感じる。予言者のベネラも……」

「それは後付けさ」


 議長はあっさりと言った。


(ベネラ)は人格を捨てなかったイレギュラーだけどね。私はこの時代に定着したあと、新しく構築された人格だ。元の私とは別物だよ」


 リオは自分の知らなかった世界の一端を垣間見た気がした。けれどここに来た目的は雑談ではない。


「……超能力がなんなのかはわかった。あなたたち未来人のことも。それで、議長は私をここに呼んでどうするつもりなの?」


 リオは真っ直ぐに問いを投げた。


「ミールを助けるために、私は何をすればいいの?」


 本来の目的に話を引き戻す。


「君に見せたいものがある。この先の一番下にあるもの」

「……それを見たらどうなるの?」

「もしかしたらすべてが上手くいくかもしれない」


 議長は軽い調子で続けた。


「そのくらいの期待で君を呼んだんだ」

「私が何かを知ったところで、この戦争を止める方法なんて思いつかないよ……」


 ミールが戦闘で摩耗し続けるなら、救うには戦争そのものを止めるしかない。だが、マクシィの件――唯一思いついた策は実行され成功した。それでも戦争が終わるかといえば、冷静な思考は望み薄と結論づけていた。今さら自分が何かを知って――何ができるというのか。

 

「ああ、君に期待しているのはそんなことじゃないよ」

「……?」

「私の希望が叶えば自ずと答えは出る。それにね」


 議長は肩をすくめるように言った。


「戦争が止められるなんて、最初から思っていない」

「……止められなくてもいいの?」


 議長は両手のひらを上に向け、わざとらしく困ったような仕草をしてみせた。


「連邦の言い分は正直めちゃくちゃだからね。セランはこの時代の人類に貢献するため、『重力インフラ』を含めた基幹技術を格安で安定供給してきた」

「……」

「各都市を繋ぐメンテナンス層だって善意で一元管理している。ここまで誠意を示しても野心で侵略してくるなら……どうしようもないでしょ?」


 理屈としては議長は確かに正しい。


「あらゆる生命線を握られているのは……怖いんだと思う」

「我々に害意はない。しかも少ない対価で提供してやってるのに?」


 その言葉にリオは言葉を失った。正論だ。だが、感情が完全に抜け落ちている。圧倒的な力を持つ側の無自覚な傲慢さがそこにはあった。人と人ですら合理性だけの関係など結べない。ましてや国家同士なら――


「……そういう上から目線なところが、今に繋がってるんじゃない?」

「この時代のコミュニケーションは難しいね」


 それきり会話は途切れた。斜行エレベーターが進む低い駆動音だけが無機質な空間に響いていた。

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