↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女に人生を操られていた侍女ですが、国境の将軍様だけは私を信じてくれました  作者: RiePnyoNaro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/33

その16 壊された石像と、将軍の本音~後編~

ベルが


「私、ですか?」


「ああ。君が何かに気づいたのだろう?」


 胸がどきりとした。


 将軍は、私の考えを聞こうとしている。


 身分の低い侍女だからと、軽く扱っているわけではない。


 ……でも、それは、私を特別に思っていることとは違う。


 ベルは気持ちを切り替えた。


「石像を壊したのは、人間ではなく、地面に潜る魔物ではないかと思います。台座の周囲だけ土が乱れていますし、穴の縁にも爪痕があります。それに、折れた腕の断面は、何度も揺さぶられたように崩れています」


「揺さぶられた?」


「はい。もし人が壊したのなら、道具で叩いた跡が残るのではないでしょうか。でも、ここにはそれらしい跡がありません。

魔物が地面の下を通り、台座の下を掘ったことで石像の土台が不安定になった。その状態で、何かがぶつかって腕が折れたのではないかと」


 言いながら、私は自信がなくなってきた。


 ただの推測にすぎない。


「もちろん、確かめなければわかりませんけれど……」


「いや、筋は通っている」


 将軍は即座に答えた。


「庭師、台座の周囲をこれ以上掘り返さないように。魔物が潜んでいる可能性がある。兵を呼んで調べさせよう」


「かしこまりました!」


 庭師が走り去る。


 将軍は、もう一度ベ私を見た。


「よく気づいたな、ベル」


 たったそれだけの言葉だった。


 けれど、胸の奥が熱くなった。


 褒められたことが嬉しい。


 それ以上に、将軍が私の考えをきちんと聞いてくれたことが嬉しかった。


 私は、慌てて視線をそらした。


「たまたま気づいただけです」


「たまたまでも、気づける者はそう多くない」


 将軍の声は、いつもどおり真面目だった。


「君は、自分が思っているよりもよく周囲を見ている」


 そんなことを言われたら、期待してしまうではないか。


 ベルは唇を引き結んだ。


「……ありがとうございます」


 その後、駆けつけた兵士たちが庭を調べた結果、台座の裏から小型の魔物が掘ったと思われる穴が見つかった。


 石像の破損は、地面を掘り進んだ魔物が台座の下を崩し、傾いた像の腕が折れたことによるものらしい。


 人間が故意に壊した証拠は見つからなかった。


 将軍は、街に出没した魔物との関連を調べるよう兵士に命じた。


 ひとまず、石像破壊事件は解決したのだった。


「ベルさん、すごいですわ!」


 ジョアンナが、目を輝かせてベルの手を取った。


「ちょっとした違和感から、あそこまで考えられるなんて!」


「いえ、そんな……」


「私もびっくりしました! 薬草の話をしていたときも思いましたけど、ベルさんって、よく気がつくんですね!」


 コニーも嬉しそうに笑った。


 二人に褒められて、ベルは少しだけ照れくさくなった。


 けれど、将軍の視線を感じると、また胸が痛くなった。


 私は、将軍に認めてもらいたかったのだろうか。


 それとも、ただ、嫌われていないと確かめたかっただけなのだろうか。


「ベル」


 将軍が、ベルを呼んだ。


「少し、話せるか?」


 ベルは一瞬、迷った。


 けれど、ジョアンナとコニーが気を利かせて少し離れてくれたので、断る理由がなくなってしまった。


「……はい」


 将軍は庭の端にあるベンチへベルを促した。


「先ほどから、私を避けているように見えるのだが」


 いきなり核心を突かれ、ベルは息を呑んだ。


「そ、そんなことはありません」


「そうか?」


「はい」


 将軍は、納得していない顔をしていた。


「ならばいい。だが、何か気に障ることをしたのなら、言ってほしい」


 ベルは、うつむいた。


 言えるはずがない。


 あなたが私を何とも思っていないと知って、傷ついたのです、なんて。


「……何もありません」


「ベル」


 将軍の声が、少しだけ柔らかくなった。


「私は、君が何かを隠しているときの顔くらい、わかるつもりだ」


 その言葉に、胸が締めつけられた。


 将軍は、私のことを見てくれている。


 それだけで嬉しいと思ってしまう自分が、どうしようもなく情けなかった。


「……将軍は」


 ベルは、思わず口を開いていた。


「私のことを、どう思っていらっしゃいますか?」


 将軍が目を見開いた。


 しまった。


 こんなこと、聞くつもりではなかったのに。


「あ、いえ! 今のは忘れてください!」


 ベルは慌てて立ち上がろうとした。


 けれど、将軍が静かに言った。


「大切な協力者だと思っている」


 ベルは動きを止めた。


「君は、危険を承知で私に協力してくれた。君の家族が人質に取られていることも知っている。だからこそ、私は君を守りたいと思っている」


 将軍は、まっすぐ私を見つめた。


「少なくとも、君を軽んじるつもりはない」


 ……大切な協力者。


 それは、恋愛感情とは違う。


 でも。


 将軍が私を軽んじていないと言ってくれたことが、嬉しかった。


「ありがとうございます、将軍」


 今度は、少しだけ自然に笑えた。


 将軍も、ほっとしたように表情を緩めた。


「よかった。ようやく、いつもの顔に戻ったな」


 その言葉に、私は思わず顔を赤くした。


 いつもの顔。


 将軍は、私のいつもの顔を覚えていてくれたのだ。


 それだけのことが、どうしてこんなにも嬉しいのだろう。


 そのとき。


「将軍! お客様がお見えです!」


 執事の声が庭に響いた。


「誰だ?」


「王室専属顧問魔術師の、ハリー・ハルマン様です」


「ハリーが?」


 やがて、黒髪に黒縁眼鏡の青年が、悠々と庭へ入ってきた。


「やあ、エルンハルト将軍。お邪魔するよ」


 ハリーは軽く手を振り、ベルを見つけると、にやりと笑った。


「おや? ベルじゃないか。君までいるとは、珍しいね」


「ハリーさんこそ、どうしてこちらへ?」


「近くまで来たから、将軍の顔でも見ておこうと思ってね。……おや、庭が騒がしいようだけど?」


 ハリーは、折れた石像と地面に残る穴に目を向けた。


「街に現れた魔物が、庭にも入り込んだらしい。石像の破損も、その魔物が台座の下を掘ったせいだとわかったところだ」


 将軍が説明すると、ハリーは納得したようにうなずいた。


「なるほど。魔物の仕業なら、君の屋敷に忍び込んだ犯人を探す必要もないわけだ」


「ああ。念のため兵士に庭を調べさせたが、ほかに異常はなかった。街の魔物については、引き続き討伐隊が対処する」


「それなら安心だね」


 ハリーはベルに視線を戻した。


「それにしても、ベルが事件解決の手がかりを見つけたんだって? なかなかやるじゃないか」


「たまたま気づいただけです」


「たまたまでも、気づける人間は貴重だよ」


 ハリーは意味ありげに笑った。


「ねえ、将軍。彼女をもう少し大事にしたほうがいいんじゃないかな?」


「……何を言っている」


 将軍の眉間に、深いしわが寄った。


「私は彼女を大切な協力者だと思っている。それ以上でも、それ以下でもない」


 その言葉に、ベルの胸が小さく痛んだ。


 けれど、先ほど将軍が言ってくれた言葉も、確かにベルの中に残っている。


 ――少なくとも、君を軽んじるつもりはない。


 今は、それで十分だ。


「さあ、皆さん。そろそろお茶にいたしましょう」


 ジョアンナの明るい声が響いた。


 コニーも嬉しそうにうなずく。


「私、将軍のお屋敷のお茶って、どんなものか気になっていたんです!」


「大したものではないが、ゆっくりしていってくれ」


 将軍がベルたちを屋敷へ促した。


 ベルはその背中を見つめ、そっと微笑んだ。


 昨日、将軍の言葉を聞いたときは、もう二度と顔を合わせたくないと思った。


 けれど今は、もう少しだけ、この人のそばにいたいと思っている。


 恋愛感情ではなく、ただの協力者としてでもいい。


 いつか、私自身が胸を張って将軍の隣に立てるようになるまでは。


 ベルはそう願いながら、将軍の後を追った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。