↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/51

第8話 虚空から刀を呼ぶ

 闇の向こうを見つめたまま、俺は5分くらい立ち尽くしていた。


 その間に、王は切れていた。


 入りたい。とてつもなく入りたい。


 誰も見つけていない道。未登録領域。推奨レベル???。こんなものを目の前にして帰れる奴がいるなら、そいつは厨二病を本当に卒業している。


 だが、俺の手元にあるのは損耗率68パーセントの借り物の鉄剣だ。


 王になれば強い。だが10分で切れる。切れた先が未登録領域の奥だった場合、STR8の高校生が闇の中に放り出される。


 しかも倒しても経験値は半分。


 いや、待て。


 俺は、あることを思い出していた。


 診断を受けた日の夜、クローゼットの奥を漁っていたときのことだ。


 武器の書の中でも、特に気に入っていた何十本かには、召喚の口上まで書いてあった。


 あのときの俺は、表示を見て勝手に絶望していた。


 書ノ保管(解放条件:未到達)

 限界突破(解放条件:未到達)

 召喚(解放条件:未到達)


 だが、あの【召喚】は、本当に武器のことだったのか?


 †王ノ書†に書いてあった【召喚】は、確か、十二席とその軍勢を呼ぶスキルだ。ページには「空を埋め尽くす龍の群れ」とか書いてあった。この頃の俺は、何を見せたかったんだ。


 つまり、あれは「軍勢を並べる」スキルだ。


 武器を一本呼ぶのは、別だ。


 俺は自分のステータスを開いた。


 スキル:我ガ記シタ言葉ハ、戯言ニ非ズ


 説明文を開く。


 【我ガ記シタ言葉ハ、戯言ニ非ズ】


 「汝が幼き日に刻んだ言葉は、戯言にあらず。それは未だ世界が追いつかぬ、真実であった」


 効果:己が書き記した設定を降ろし、その存在として顕現する

 ※降ろせるのは一度に一つまでです

 ※厨二病の言動を止めると解除されます


 一度に一つまで。


 これまでは、その一つを王に使っていた。


 だが、別のものを降ろしてもいいはずだ。


 例えば、武器を一本。


 俺は岩壁に背中を預けて、武器の書の中身を思い出した。


 あの書には、刀、剣、槍、銃、それから分類不能のロマン武器まで、何十本という武器が書いてある。


 当時の俺は、アニメでもゲームでも、かっこいい武器を見るたびにページを増やしていた。ただし真似たのは見た目と属性だけで、設定はいちいち自分で盛った。そういうところだけは律儀だった。


 先頭は当然、王の相棒の剣だ。右腕のタトゥーに封印されていて、一振りで星を断つとか書いてあったやつ。


 呼べるわけがない。


 だが、刀のページの真ん中あたりに、一本だけ妙に記憶に残っているものがある。


 刀身が黒く、光を一切反射しない刀。属性は無。


 設定はやたらと長かった。王が最初に手にした刀で、斬った数だけ持ち主を覚えていて、終焉の力で打たれているから刃こぼれしない。そんなことが、細かい字で一ページ半にわたって書いてある。


 それだけ書いておきながら、名前の欄にはこうあった。


 【無銘】※名前は後で考える


 結局、考えていない。


 三年間、名無しのまま置かれた刀だ。


 だが、口上だけは、しっかり書いてあった。


「――銘も無く、意味も無く、斬れ、無銘」


 それだけだった。


 口上のある他の刀には、三行も四行もある大仰なものが付いている。炎を纏うやつには炎の詩が、雷のやつには雷の詩が、それぞれ恥ずかしいほど長く書いてある。


 この一本だけ、一行。


 名前を決めていなかったので、名前がないことを、そのまま口上にしたんだと思う。


 だが、短いぶん、言い切りやすい。


 よし。


 やるか。


 周りを見た。誰もいない。通路の先も、後ろも、人の気配がない。


 息を吸って。


「――銘も無く、意味も無く、斬れ、無銘」


 右手のひらに、熱が集まった。


 空間が歪む。黒い粒子が渦を巻いて、一振りの刀になった。


 鞘はない。抜き身のまま、俺の手に収まっている。


 刀身は黒い。岩壁のほのかな光も、まったく反射しない。そこだけ空間が切り取られているみたいに見えた。


 うわ、出た。


 本当に出た。


 握ってみる。


 軽い。


 借り物の鉄剣とは比べ物にならない。同じくらいの長さなのに、重さが半分以下だ。


 これは、やばい。


 試しに、左目に意識を向けてみた。


 何も浮かばなかった。


 そういえば、そうだ。魔眼は王の目だ。今の俺は王じゃない。武器を一本降ろしているだけの、ただの厨二病だ。


 性能は、自分で確かめるしかない。


 岩壁の隅に、軽く刃を当ててみる。


 すっと入った。力を込めたわけでもないのに、岩に細い線が刻まれている。


 一ページ半も設定を書いた刀にしては、たぶん、地味な結果だと思う。


 だが、借り物の鉄剣では、こうはならなかった。


 ただ、逆に言えばそこがいい。炎も雷も出ない。光りもしない。呼んでも誰にも気づかれない。


 人目を避けて潜っている俺には、これ以上ない一本だった。


 自分のステータスを確認する。


 氏名:一ノ瀬 朔

 Lv:10

 職業:厨二病


 STR:14


 王にはなっていない。


 ということは。


 この状態で倒した場合、経験値は。


 俺は闇の隙間に背を向けて、1階層を戻った。


 ゴブリンはすぐに見つかった。


 一体。壁に背をつけて、こちらに気づいていない。


 気配を消すスキルは、先に切れていた。だが、向こうが気づく前に距離を詰められた。


 刀を振る。


 入った。


 五日前、ここで刃が止まって、俺は吹っ飛ばされた。


 今回は、半分ほど入って止まった。


「っ、この……!」


 ゴブリンが暴れる。棒が肩に当たって、目の前が白くなった。


 だが、吹っ飛ばなかった。


 STR8が14になっている。刀が軽い。一拍堪えて、もう一度振る。


 二度目で、ゴブリンが崩れた。


 砂になって消えて、牙が一本落ちる。


 肩が痛い。息が上がっている。それでも、数秒で終わった。


 だが、表示が出た。


 Lv:10 → Lv:11


 ※の一行がない。


 経験値が、全額入っている。


「よっしゃあ!」


 岩の通路で一人、拳を握ってしまった。


 これだ。これなんだ。


 武器だけ呼べば、経験値は全額で、しかも数秒で倒せる。


 もちろん、王にはなれない。降ろせるのは一つまでだから、王の姿でこの刀を持つことはできない。


 だが、今の俺に必要なのは、圧倒的な力じゃない。


 レベルだ。


 その日、俺は武器だけを呼んでゴブリンを二十四体倒した。


 王になっていないので世界は遅くならない。だが、無銘は軽い。振れば入る。追いつかれなければ負けない。


 一体あたり数秒。移動のほうが時間を食うくらいだった。


 全部、経験値は全額入った。Lvは13になっていた。


 帰りのゲートをくぐるとき、俺は一度だけ振り返った。


 あの闇の奥は、まだ誰も知らない。


 入学式まで、あと十二日。


 それまでに、あそこに入れるだけのものになっていよう。


 そのときは、本当にそう思っていたんだ。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや★評価をいただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白い!王かっこよ。そして召喚剣という厨二病のロマンか詰まってますね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。