↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/48

第24話 スキルを見せたら、突っ込まれた

 土曜日、午前9時。守山ダンジョンの前。


 着いたときには、四人とも先に来ていた。


 三週間ぶりだった。


 たった三週間なのに、全員が少しだけ変わって見えた。大沢は髪を切っていたし、三宅は日に焼けていたし、山吹は制服のズボンのまま来ていた。藤堂だけが何も変わっていなかった。


「久しぶりー!」


「おい朔、痩せたか?」


「痩せてないって」


「顔がやつれてる」


「気のせいだって、気のせい」


 気のせいではない。この三週間、俺は死にかけて、20時間帰らず、50万回再生の動画に映って、入学式で緊張して、カラオケで厨二病の歌を全力で歌った。


 やつれもする。


「で、どうよ高校?」


「聞いて驚け。友達できた」


「早っ!」


「しかも二日目でカラオケ行った」


「早すぎだろ!」


 大沢が笑った。


 こういう会話をしていると、三週間前に戻った気がする。四人とも、俺のことを何も疑っていない。


「そうだ朔!」


 藤堂だった。


「お前さ、結局あれ何だったんだ? エンペラーの件」


 来た。


 来ると分かっていた。むしろ、よく三週間も待ってくれたと思う。


「俺も聞きたかったそれ!」


 三宅が食いついた。


「ニュース見たときマジで叫んだからな。C級だぞC級。しかも一人で」


「うちの親まで見てたからな、あれ!」


「俺、学校で友達に自慢したもん。中学の友達がやったって!」


「山吹お前それ信じてもらえたの?」


「めっちゃ疑われた!」


 大沢と山吹が勝手に盛り上がっている。


 藤堂だけが、スマホを出していた。


「一応調べたんだけどさ」


「調べたのかよ」


「気になるだろ普通に!」


 画面をこっちに向けてくる。


「ゴブリンエンペラーの討伐記録、公開されてるのが国内で27件。一番若い人で24歳。ランクはBで、パーティ六人がかり」


「六人でやっと?」


「そう。六人でやっと」


 藤堂が俺を見た。


「で、お前15歳のFランクで一人だろ。数字だけ見たら意味が分からない」


「意味が分からないよなあ」


 自分でもそう思う。


「怒ってるわけじゃないぞ。ただ純粋に、何があったのか知りたいだけだ」


「心配もしてる」


 大沢が横から言った。


「20時間だぞ! 俺ら、本気で死んだと思ったからな」


 そうだよな。


 その通りだ。


 俺は、息を吸った。


 この三週間、この瞬間のために何度も頭の中で練習した。


「スキルが生えた」


「生えた?」


「レベル上がって」


「あー、なんだ、そういうことか!」


 拍子抜けしたような声だった。


「いや、そりゃ生えるか。レベル上がれば生えるもんな」


「世界初の職業でも普通に生えるんだな」


「当たり前だろ。職業が何だろうとレベルは上がるんだから」


 山吹が言って、大沢が頷いた。


 驚かれるのは、そこじゃない。


「で、どんなスキルなんだよ?」


 三宅が身を乗り出してきた。


「厨二病のスキルって何だよ。気になって夜しか眠れなかったぞ」


「普通に寝てるじゃねえか!」


「武器を出すやつ」


「武器?」


「呼ぶと出てくる」


「え、それだけで十分やばくない?」


 藤堂がスマホをしまった。


「武器召喚系のスキルは珍しいぞ。国内だと確認されてるのが10件もないはずだ」


「そうなんだ」


「そうなんだ、じゃない。お前それ結構すごいやつだぞ!」


「まあ、でも、それでエンペラーやれるか?」


 大沢が首をひねった。


「武器出せても、振るのは自分だろ。レベル足りてなきゃ無理じゃね」


 鋭い。


 こいつ、たまに鋭い。


「中でなら、見せられる」


「見せて!」


「見たい!」


「見せろ!」


 三人が即答した。


「じゃあ入ろうぜ。話は中でいいだろ!」


 三宅が背中を叩いてきた。相変わらず痛い。


 守山ダンジョンは、F級だった。


 中は金山とよく似ている。うっすら光る岩の通路。広さも、明るさも、そう変わらない。


 違うのは、こちらのほうが人が多いことだ。金山が閉鎖されたので、そのぶん流れてきているらしい。


「装備、借りるか?」


「俺はいい」


 大沢が言った。腰に短剣を二本差している。


「買ったのか?」


「親に金出してもらった。入学祝い」


「いいな!」


 三宅も自前の盾を持っていた。山吹は杖を、藤堂は解析用の端末を。全員、自分の装備を揃えている。


 三週間のあいだに、四人もちゃんと進んでいた。


 俺だけが、別の方向に進みすぎただけだ。


 最初のゴブリンは、5分もしないうちに出てきた。


「行くぞ!」


 三宅が前に出る。盾で受けて、大沢が回り込む。山吹が火を撃ち、藤堂が指示を出す。


 三週間前より、明らかに動きがいい。


 そして、俺の番が来た。


「朔、一体来てる!」


 右の通路から、二体目。


 俺は、息を吸った。


「——無銘よ、我が手に」


 声は、抑えた。


 抑えたが、本気で言った。手を抜けば出ない。


 空間が裂けて、黒い粒子が渦を巻き、抜き身の刀が手に収まる。


 背後で、四人が息を呑む音がした。


 ゴブリンが跳んだ。


 斬った。


 一撃だった。抵抗はほとんどなかった。


 砂になって消えるのを見届けて、俺は刀を下ろした。


 通路が、静かだった。


 3秒あった。


「……おい!」


 大沢だった。


「今なんて言った?」


 来た。


 来ると分かっていた。分かっていたのに、他に方法がなかった。


「無銘よ、我が手に」


「言わなくていい。もう一回言わなくていいから!」


「言えって言っただろ、今」


「言ってない。俺はなんて言ったかって聞いただけ!」


 大沢が頭を抱えた。


「お前さあ、卒業したんじゃなかったのかよ!」


「した。卒業は、した」


「今のどこが!?」


「あれは詠唱だから。厨二病とは別」


「詠唱が一番厨二病だろうが!」


 山吹が腹を抱えて笑い出した。


「だめだ、無理、苦しい!」


「笑いすぎだろ」


「だって、だって『我が手に』って」


「他に言い方がないんだよ。スキルで、そう決まってるの」


「誰が決めたんだよ!」


 俺だ。


 この頃の俺が決めた。


「え、待って。あの日、包帯捨てて眼帯捨てて、卒業したって言ってたよな?」


「言った」


「三週間前だよな?」


「三週間前だ」


「早くない?」


「早い。認める」


 自分でもそう思う。人生で一番早い出戻りだと思う。


「いや、でもさ」


 三宅が、笑いながらも真面目な顔を作った。


「かっこよかったぞ今の!」


「やめろ」


「本当だって。俺、ちょっと鳥肌立った!」


「やめろって、マジで」


「朔が言うとハマるんだよな。昔からそう」


 一番効くやつを言うな。


「で、その詠唱さ」


 藤堂が口を挟んだ。


「必須なのか? 言わないと出ないのか?」


「出ない。絶対出ない」


「試したのか?」


「試した。小声でも出ない。噛んでも出ない」


「うわ!」


「本気で言わないと出ない。そういう制限なんだよ」


 四人が、同時に俺を見た。


「じゃあお前、あのエンペラーのときも……?」


 言ったよ。


 もっとすごいのを言った。


 だが、それは言えなかった。


「まあ、色々あったんだよ」


「色々ってなんだよ!」


「色々は色々だ」


 大沢がまだ笑っている。


「いやー、朔が朔で安心したわ!」


「どういう意味だよ」


「そのままの意味」


 山吹が目元を拭いながら言った。


「卒業とか無理だって。お前に厨二病抜いたら何も残らないじゃん」


「失礼すぎるだろ!」


「褒めてる!」


「どこがだよ。褒めてないだろ、それ」


 だが、悪い気はしなかった。


 この三週間、俺はずっと隠していた。隠して、誤魔化して、汗をかいて、布団の中で悶えていた。


 こうやって笑われるのは、久しぶりだった。


「で、真面目な話なんだけど」


 大沢が、笑いを引っ込めた。


「今の、何?」


「だからスキルだって。さっき言ったろ」


「いや聞いたけど。聞いたけどさあ!」


 大沢が刀を指さして、それから自分の頭を抱えた。


「何もないところから出てきたぞ、今。空間歪んでたよな!?」


「歪んでた」


「歪んでたな」


「歪んでたよね?」


 三人が口々に確認し合っている。


「どこに入ってんの、それ。異空間とか?」


「たぶん?」


「たぶんて何だよ。自分のスキルだろ!」


「説明書ついてないんだよ、これ」


「そりゃそうだけどさあ!」


 山吹が刀に顔を近づけてきた。


「うわ、真っ黒。全然光反射してない。何これ、塗ってるの?」


「知らん」


「知らんて!」


 本当に知らない。この頃の俺が「光を一切反射しない」と書いたから、そうなっているとしか言えない。


「てか今の一撃だったよな?」


 三宅が我に返ったように言った。


「ゴブリン一発で消えたぞ。俺ら三人がかりでやってるのに!」


「それは……まあ」


「まあ、じゃないって。おかしいだろ!」


 そうだね。おかしい。


「ちょっと持たせて!」


「やめとけ、切れるぞ」


「触るだけ!」


「指、飛ぶぞ」


「うわ本気の顔してる!」


 三宅が手を引っ込めた。


 四人が刀の周りに集まって、わいわい言っている。


 正直に言うと、この反応は嬉しかった。


 怖がられるかと思っていた。距離を取られるかと思っていた。だが、こいつらは普通に面白がっているだけだ。


「名前は? 名前あんの、それ」


「ないよ」


「ないのかよ!」


「ないんだよ、これが」


 本当にない。それだけは、何度聞かれても嘘じゃない。


「えー、もったいない。こんなかっこいいのに!」


「つけろよ名前!」


「やだ」


「なんで!?」


 つけたら負けだと思っているからだ。名前をつけた瞬間に、俺はまた中学2年に戻る。


「じゃあ俺がつけていい?」


「よくない」


「黒いやつ!」


「センスがなさすぎる」


「ひどい!」


 大沢が笑った。


 山吹が、腕を組んで真顔で言った。


「いや、名前ないのがいいんだろ。逆にかっこいいって、無銘の刀」


 心臓が跳ねた。


「な、なんでそう思うんだよ」


「え? なんとなくだけど。名前がないって、設定として強くない?」


 合ってる。


 名前が、無銘だ。


 こいつ、何も知らないのに当てにくるのやめてほしい。


 その輪の外で、藤堂が端末を見ていた。


「朔」


「ん?」


「今の、解析かけたんだけど」


 心臓が止まりかけた。


「え、お前そういうのできんの?」


「術式解析士だからな。スキルの構造読むのが本職だ」


 藤堂が画面をこっちに向けた。


 そこには、何も表示されていなかった。


 エラーですらない。真っ白だった。


「読めなかった」


「読めないこともあるの?」


「あるにはある。格上の相手とか、構造が複雑すぎる場合とかな」


 藤堂が画面を見つめたまま続けた。


「でも、そういうときは『解析失敗』って出るんだ。ちゃんとエラーが返ってくる」


「今のは?」


「何も返ってこない」


 藤堂が顔を上げた。


「読み取りにいって、対象が存在しないって判定された。目の前で振ってるのに」


 沈黙があった。


「……こわ!」


「俺のスキルがこわいのかお前のスキルがこわいのか分からん」


「両方だろ!」


 三宅と大沢がそう言って、空気が少し緩んだ。


 藤堂は端末をしまって、それから、いつもの淡々とした声で言った。


「まあ、いい」


「いいのか?」


「良くはないけど、聞いたら言うのか?」


「言わないな、たぶん」


「だろ」


 藤堂が肩をすくめた。


「なら待つ。言いたくなったら言え。それまで聞かない」


 姉と同じことを言われた。


 この三週間で二回目だ。


「ただな、朔」


「なんだよ、改まって」


「無茶だけはするな。マジで」


 藤堂の声が、少しだけ変わった。


「あの日、記録見たときな。入場から12時間経って、まだ退場してないってなってて」


「うん」


「3時間くらい、どうしようか迷ったんだ。通報したらお前が怒られるかもしれない、でも何かあったら」


 俺は、何も言えなかった。


「結局、ギルドに電話した。あれ俺だから」


「そっか。お前だったんだ」


「だから、20時間はもう勘弁してくれ。俺の胃に悪い」


 俺は頷いた。


 頷くことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。