↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/47

第22話 高校の友達と、中学の友達と

 翌日から、通常授業が始まった。


 結論から言うと、高校の授業は中学より進むのが速い。


 数学の一時間目で、担当の教師が「この単元は三日で終わります」と言った。三日。中学なら三週間かけていた気がする。


 英語も似たようなものだった。教科書の一ページ目から、知らない単語が四つあった。


 昼休みになる頃には、クラス全体が少し静かになっていた。みんな同じことを考えている顔をしていた。


「これ、やばくない?」


 矢野が開口一番に言った。


「やばい。三日って何だよ、三日って」


「高校ってこんな速いの? 聞いてないんだけど」


「俺も聞いてない。入学案内に書いといてほしかった」


「ねえ堀口くんは?」


「……俺、数学の途中から意識なかった……」


 前の席の堀口が、机に突っ伏したまま答えた。


 昨日は緊張していたのに、一日でだいぶ喋るようになっている。


「一ノ瀬、購買行く?」


「行く行く。何がある?」


「知らん。行けば分かる!」


 昼は、教室の後ろのほうで食べることになった。


 俺と矢野と堀口。それから、昨日教科書を運ぶのを手伝った子が「混ざっていい?」と来て、四人になった。名前は西野といった。


 そこに、後ろの席の二人が机を寄せてきて、六人になった。


 初日にしては悪くない、と思っていたが、二日目でもう倍になっている。


「一ノ瀬くん、パンそれだけ?」


「購買の残りがこれしかなかった」


「何それ?」


「たぶんコロッケ」


「たぶんて!」


 西野が笑った。


 高校の昼飯は、中学の給食と違って各自バラバラだ。弁当の奴もいれば、購買の奴もいる。矢野は菓子パン二つとゼリー飲料という、どう見ても足りない構成だった。


「矢野それ足りるの?」


「足りない」


「なら買えよ」


「並ぶのだるい」


「だるいで昼を捨てるな」


 こういう会話が、たぶん一番大事なんだと思う。


 中身は何もない。だが、こういうのを積み重ねた先に、三年間がある。


 中学の頃の俺は、こういう時間に別のことをしていた。ノートに設定を書いたり、窓の外を見て「そろそろか」と呟いたりしていた。


 あれはあれで楽しかったが、今のほうが健全だとは思う。


 スマホが震えたのは、コロッケらしきものを食べ終わった頃だった。


 中学のグループだった。


 三宅『おい』


 三宅『入学式終わったよな?』


 三宅『約束』


 大沢『覚えてるか?』


 大沢『五人で潜るって言ったやつ』


 忘れていなかった。


 忘れていないどころか、この三週間ずっと頭の隅にあった。


 入学式のあとは五人で潜る。三月の終わりに、金山の帰り道で交わした約束だ。


 あのときの俺はLv1で、借り物の剣も満足に振れなかった。


 今はLv69で、Dランクで、50万回再生の動画に映っている。


 三週間で何が起きたら、こうなるんだ。


 山吹『土曜どう?』


 藤堂『土曜は空いてる』


 大沢『俺も』


 三宅『いけるぞ』


 既読だけつけて、返事を考えた。


 行きたい。普通に行きたい。あいつらとまた潜れるなら、それは嬉しい。


 問題が二つあるだけだ。


 一つ。金山ダンジョンは閉鎖されている。俺のせいで。


 二つ。五人で潜ると、俺は王になれない。


 孤高ナル王ハ、独リデ立ツ。この頃の俺が書いたスキルは、誰かと一緒にいる間は効果を失う。それ以前に、四人の前で名乗るなんて死んでもできない。


 つまり、五人で潜ったら、俺はLv69の素の状態で戦うことになる。


 いや、待て。


 Lv69だぞ。


 素でもSTRは50を超えている。中学の三年間で覚えた体の使い方もある。無銘だって呼べる。


 普通に、強い。


 問題があるとすれば、あいつらから見たら、俺が不自然に強すぎることくらいだ。


「一ノ瀬くん、こわい顔してる」


 矢野が覗き込んできた。


「してないって」


「してるよ。彼女?」


「残念ながら、中学の友達」


「なんだー!」


 露骨に興味を失った顔をされた。分かりやすいな、おい。


「土曜に潜ろうって話になってて」


「え、潜るの? 一ノ瀬くん探索者やる派なんだ!」


「やる派ってほどじゃないけど」


「どこ行くの?」


「それが、まだ決まってない」


 金山は閉鎖中だ。


 スマホが震えた。


 藤堂『金山は閉鎖中だから別のところになる』


 藤堂『F級で近いところだと、港のほうか、守山』


 三宅『どっちでもいい』


 大沢『任せた』


 山吹『おまかせ』


 藤堂『なら守山で』


 決まるのが早い。藤堂がいると全部早い。


 俺は指を動かして、すぐに返した。


 朔『行く』


 朔『土曜、守山な。遅れんなよ』


 送信してから、少しだけ息を吐いた。


 久しぶりに、五人で潜る。


 嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。


 問題が山積みなのは、いったん置いておく。


「ねえ一ノ瀬くん!」


「ん?」


「今日このあと空いてる? みんなでカラオケ行こうって話してて」


 矢野が、机に寄りかかりながら言った。


 後ろの席の二人が、こっちを見て頷いている。西野も、堀口も。


 入学二日目で、もうそんな話が出ている。


「え、今日?」


「そう、今日。善は急げって言うじゃん!」


「急ぎすぎだろ」


「親睦会だよ親睦会。いる? いらない?」


 いる。


 めちゃくちゃいる。


「行く。絶対行く」


「やった!」


 矢野が両手を上げた。西野が笑って、堀口が「俺も行く」と小さく言った。


 中学の友達と土曜に潜って、高校の友達と今日カラオケに行く。


 俺が想像していた高校生活は、たぶんこういうやつだ。


 厨二病さえなければ、完璧だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。