第13話 テレビの向こうで、俺が哀れまれている
返信を打つ前に、通話がかかってきた。
グループ通話だ。四人全員入っている。
出た瞬間、耳が死ぬかと思った。
「朔ーーー!!」
「生きてんのか!?」
「おいうるせえよ三宅、一人ずつ喋れ!」
「朔、聞こえるか? 返事しろ!」
「聞こえてる! 全員聞こえてる! 近い!」
スマホを耳から離した。
「お前なあ!」
大沢の声が一番でかい。
「20時間だぞ!? ニュースで名前見たときマジで心臓止まったわ!」
「悪かったって!」
「悪かったって、じゃねえよ! 俺ら何回連絡したと思ってんだ!」
「……267件」
「数えるな!」
笑い声が混ざった。山吹だ。
「でもさ、無事だったならよかったよ。ほんとに!」
そう言われると、ちょっとだけ照れくさい。
「それより」
三宅が食い気味に割り込んできた。
「あれ何だよ! C級! エンペラー! お前レベルいくつだったんだよ!」
来た。
俺は天井を見ながら、なるべく平坦な声を作った。
「……二十一」
「にじゅういち!?」
「推奨百二十だぞあれ!」
藤堂だ。当然、調べている。
「どうやって倒した?」
「囲まれて、逃げ場なくて、必死にやってたら倒れてた」
「必死にやってたら倒れてた?」
「……うん」
沈黙が3秒あった。
「いやおかしいだろ!」
「おかしいよな!」
「そりゃ、おかしいけど」
自分でもそう思う。
だが、これ以上は言えない。言った瞬間に、俺は全部を説明しなければならなくなる。
中学のノートのことも、真顔で名乗っていることも、前髪が伸びることも。
「厨二病のスキルじゃねえの?」
心臓が跳ねた。
山吹だった。悪気なく言うところがこいつの怖いところだ。
「世界初なんだろ? レベル上がってんならスキルも生えてるじゃん」
そこを突かれると、逃げ場がない。
レベルが上がればスキルが生える。小学校で習う話だ。今の俺がLv68まで行っていて、何も生えていないほうが不自然になる。
「生えたけど」
「お、なんて名前?」
「地味なやつ」
「名前!」
「……言いたくない」
一瞬、間があった。
「え、なに、恥ずかしい名前なの?」
「違う!」
「絶対それじゃん!」
「違うって!」
違わなかった。
「厨二病の職業から生えるスキルって、そりゃ名前はやばいだろ!」
「やめろ!」
「『封印されし我が右腕』とか?」
「やめろって!」
大沢が爆笑していた。真実に一番近いところで爆笑していた。
「まあ、火事場の馬鹿力ってやつじゃね?」
三宅が能天気に言った。
「死にかけると人間すげえ力出るって聞くし!」
「それで推奨百二十倒せたら誰も苦労しねえよ!」
「でも現に倒してるじゃん!」
「それはそう」
結論が出ないまま、話が流れていく。
こいつらは俺を疑っていない。ただ驚いているだけだ。それが一番きつい。
「あ、そうだ朔! テレビつけろ!」
大沢が思い出したように言った。
「6時のニュース! 中部テレビ! さっきやってた!」
嫌な予感がしたが、リビングに降りた。
両親と聖奈がテレビの前にいた。三人とも振り返って、無言で画面を指した。
中部テレビだった。東海三県に流れている局だ。
『——金山ダンジョンで、これまで確認されていなかった領域が発見されました』
見慣れた金山の風景が映っている。フェンスと、コインパーキングと、黒い扉。あそこに毎日通っていた。
『発見したのは市内在住の15歳の少年で、ギルドによりますと、この領域で難易度C相当の個体の討伐も確認されたということです』
アナウンサーが手元の原稿を見ながら続ける。
『F級ダンジョンでC級相当の個体が確認されるのは極めて異例で、ギルドは等級の再評価を含めた調査を進めるとしています』
名前は出なかった。
15歳の少年、とだけ。
さすがに未成年の実名は出さないらしい。
ほっとしかけたところで、画面がスタジオに切り替わった。
『しかし15歳でC級というのは、相当な実力の持ち主なんでしょうね』
『ええ、ギルドの発表では職業も世界初のものだそうで』
『世界初、といいますと』
『名称は……ええと、厨二病、だそうです』
スタジオが笑いに包まれた。
俺の家のリビングは静まり返った。
「に、兄さん……っ」
「言うな!」
「テレビで厨二病って! あははは!」
「言うなって!」
父が無言で立ち上がって、台所へ行った。たぶん気を遣ってくれたんだと思う。母は「すごいじゃない」と言いながら、笑いを堪えていた。
スマホの向こうでも、四人が爆笑していた。
「聞こえた!? 今の!」
「アナウンサーが厨二病って言った!」
「公共の電波で!」
「やめろ!」
ネットニュースにもなっていた。地元メディアの記事が3本。コメント欄はそこそこ伸びていたが、全国ニュースにはなっていない。
東海圏止まりだ。
学校で誰かが見ていたら、それだけで話が回る。
入学式まで、あと八日。
通話を切って、部屋に戻ったところで、スマホが震えた。
知らない番号だった。
出ると、聞き覚えのある声がした。
『お忙しいところ失礼いたします。ギルド名古屋本部の三島です』
「あ、はい」
『今朝はお疲れさまでした。お体の具合はいかがですか』
「まあ、なんとか」
『よかったです』
少しだけ間があった。
『それで、本日はご連絡がありまして』
「はい」
『一ノ瀬様の探索者ランクについてです』
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