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ドラゴン(AGI)を倒すための1000の方法  作者: Manpuku
第一章 うっかりファンタジー

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夜の使徒

「邪神よ。私はミナと申します。どうかこの屋敷を、あなたの御座所ござしょとお定めください」


邪神は、見向きもされなかった。


細く長き御体をゆらりと揺らし、窓辺の高みへとスッとお移りになる。

その御眼おんまなこは、遠き虚空こくうを見据えておられた。


私には、窓からは何が見えているのかは知れない。


されど邪神には、確かに、何かが見えているのであろう。



邪神には、二つのお顔がおありであった。


昼のお顔。


暖かき陽光の差し込むこく、邪神はすべてをゆるされた。

私が身を粉にして果たしたお役目の成果を、あの方は決まって散らし、世界を揺るがすほどの御声でお唸りになる。私はその振動に魂を揺さぶられ、他の何事も考えられなくなるのだった。


夜のお顔。


深更の刻、邪神は目覚められる。


轟音ごうおんと共に、棚の上の聖具が落とされる。積み上げた書物が崩され、廊下では何かが転がりだす。夜明けには、邪神は再び日向ひなたで御眠りになっていた。

何事も、なかったかのように。


私は一度、その詳細を記録したことがある。

香炉、水差し、私が長い年月をかけ読み進めたこの世の理を示す書物など。


されど、その記録は今、手元にない。


いつの間にか、邪神がそれを、破り散らしておられたのである。



邪神は、時に捧げ物をされることがあった。


ある朝、臥所ふしどの枕元に、むくろが置かれていた。

その亡骸なきがらは、どこか丁寧に、整えられていた。


私はしばらく、それを見つめた。


これが、この方なりの言葉であると、しかし、凡庸な私には到底理解ができない、この世の理であった。


邪神は私如きには解読のかなわぬ目をお持ちなのであろう。

瞬きひとつ、鼻先のひとつの動きに、途方もない意味が宿っているのかもしれない。


私はその骸を丁寧に扱うよう命じ、躯は庭の日当たりのよい土へと還した。


邪神は、その様子を、じっと御覧ごらんになっていた。



その夜、漆黒の空間で、私は目を覚ました。


何も見えない。


——私の心臓が、跳ねあがる。


見つめられている。


闇の中から、突然オリオンの輝きが生じた。


私の胸に、重力が生まれる。


邪神が、私の胸にその手を置いている。


その御眼おんめが、暗闇の中でほのかに光っていた。

私は、その重圧に耐えた。

けして動いてはならない、その確信だけがあった。


邪神はしばらくそのままでいらっしゃり、やがて静かに、そのお顔を私の首筋へと近づけられた。冷たく、乾いた鼻先が触れる。


それだけだった。


邪神はまた、闇へとお戻りになった。

私はひとり、目をつぶり、朝日を待った。

何が起きたのか、私には分からない。


ただ、何かを—— 確かめに来られたのだと、思った。



この屋敷で、邪神に使えて、もうすぐ二十年になる。

邪神が何をお望みなのかを、私はいまだ理解できていない。


されど確かなことがひとつある。


朝、目覚めた私の足元で、邪神が丸くなっていらっしゃる。


それだけで、この世界が始まるのだ。



——我が邪神、クロ、享年二十二歳。


みっともなく泣いた。

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