王とキンカ
「王よ。臣はキンカにございます。何なりと、この身に仰せ付けくだされ」
王は、未だ幼き君であらせられた。
畏まる我が前に、ただ無言のままに座しましている。
遠き国よりの旅路の疲れにや、その小さき王は、微かに身震いをしておられた。 これよりのち、私は王の近習たる護衛、かつ侍女長として、畏まって仕えることとなったのである。
王には、日々欠かさぬお勤めがおありであった。 朝に夕、下界をあまねく視察されること。
暗雲の垂れ込める嵐の底にあっても、神々の怒れる雷鳴の轟く中であっても、王は私を伴い、視察へと赴かれる。己の汚れを気にせずに草をなぎ払い、深く生い茂る森を進む。ひとたび何事かの異変を察知されるや、その場にたちまち結界を張り巡らされた。そうして、毎度の視察の折には、必ずや尊き糧をその手より生み出されるのであった。
王の御成長は、目を見張るほどに早かった。
わずか数年のうちに、逞しき青年の姿となられた。
これぞ高貴なる血脈の証であろう。その姿は美しく、気品に満ちあふれておられる。王は視察に万象の恙なきを確かめ、御心を安んじられたのか、その足取りも軽やかになられる。
城下の民どもは、王の御姿を仰ぎ見るや、誇らしげに道を譲り奉る。
王は隔てなく民どもに視線を注がれ、自ら歩み寄られるのであった。
王の御言葉を賜った者は、誰もが自然と笑みをこぼした。
かかる尊き王の御許に仕え奉りて、早くも十五年の歳月が流れ去った。
王の血脈は、成長こそ早けれど、ある定めの年端を越えるや、その肉体は急速に衰えゆく。それは逃れられぬ呪いであり、抗えぬ宿命でもあった。
王の務めとしてこの地へ加護を授け続けたが故であろうか。
あるいは、長きにわたる視察の折、幾度も結界を張り巡らされたが故であろうか。
されど、微かに震える御身を励まし起こし、王はなおも視察へと下界へ赴かれるのであった。
ある夜、私は王に召しだされた。
王は、私に目配せをされる。
近くへ寄れ、と無言のままに促すかのように。
私は王の御身に、そっと触れ奉る。
聖水を調合したる液に、女神の涙にて織り成したる布を浸し、王の御身体を優しく拭い申し上げた。
それから、しばらくのちのこと。
王は、静かに、動かれなくなった。
——長き歳月を共にせし友、我が若き王——アーサー(享年16歳)に捧ぐ。




