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第25話:『勘の強制終了 ――漢のノー勉・完全敗北祭――』


「へへっ、俺には忠敬の”神の勘”と、高橋の”神ノート”があるからな! 次の理科の定期テストも、前日の一時間だけ2人に頼れば余裕で赤点回避よ!」



いつものマッグのテーブル席で、佐藤がコーラを片手にだらしなく色黒の顔を緩めて豪語した。

忠敬はマッグのレジカウンター、高橋くんは手洗いへ行っており、2人とも不在の時だった。

その机の上には、一文字も開かれていない真っ白な問題集が転がっている。




そこには小さな目撃者がいた。

高橋くんの筆箱の小人と、忠敬の黒いハンカチの小人、そして他の文房具の小人である。高橋くんと忠敬の小人たちは、机の上で腕を組みながら冷ややかな視線を佐藤へ注いでいた。佐藤の小人も白い目で主人を見ている。



そして、


『前回の成功で完全にクズ化してないか?』

『ウチの佐藤がすまねぇ…っ!』

『調子に乗ってる』

『ああ。僕たちの主人の親切心と、あのインク職人のリークを”自分の実力”と勘違いしているな』

『今回は甘やかし厳禁だ。スルーの構えをとるぞ』


小人たちの間で、満場一致で”佐藤完全遮断スルー協定”が結ばれた。




そして迎えた定期テスト当日。

「わ、わかんねぇ……! 記号の選択問題すら、文字が記号に見えねぇ……!」


テスト開始から十分。

佐藤が必死の形相で、ガタガタとシャーペンを震わせながら忠敬の方へとチラチラ視線を送ってきた。完全に”また机を傾けて答えを見せてくれ”という、甘えきったおねだりの視線だ。


だが、忠敬の机の上の文房具小人たちは、それに冷めた目を向けた。


『全班員、位置を固定せよ!』

定規の小人が厳格に叫ぶ。


『テスト用紙の角度、一ミリの傾きも許さない! 佐藤へ向けたブラインドを徹底維持しろ!』

『今回はお灸を据える時だ。主、そのまま動かないでくれ!』


(……当然だ。お前は一度、どん底まで落ちて反省しろ)


昨日席に戻った忠敬は、小人たちから怒涛のリーク報告を受け済みだった。


(いままで甘やかしすぎた)


忠敬は内心で冷たく突き放すと、自分のテスト用紙を完璧にガードしたまま、迷いのない手つきで解答欄を埋めていく。佐藤の視線は完全にシャットアウト(スルー)し続けた。


佐藤は絶望の涙を流しながら高橋くんの方を向いたが、几帳面な彼はいつも通り自分の世界に超集中しており、カンニングの隙など一ミクロンも存在しなかった。




数日後の放課後。

職員室に呼び出された佐藤の前に、真っ赤なインクで【2点】と殴り書きされた答案用紙が突きつけられた。


「……――――佐藤。お前、前回の抜き打ちから一体何を学んだんだ」

鬼教師の氷のような声が響く。


結果、佐藤には容赦のない自業自得の鉄槌が下された。

一、1ヶ月間のスマホ没収

二、週末の部活の大会、出場停止

三、放課後、毎日3時間の地獄のマンツーマン補習



「忠敬ぇぇ……高橋ぃぃ……俺が悪かったよぉぉ……!」

教室の片隅で、スマホを奪われ、部活のユニフォームも奪われた佐藤が、魂の抜けた顔で2人に泣きながら土下座をしていた。



その情けない姿を、忠敬は冷たく見下ろす。

クロノも『自業自得のログ、完璧に記録完了だね』と、冷めた目で佐藤を見つめた。



そんな佐藤を尻目に、忠敬は教室を出た。

廊下に出た瞬間、向こうから「コツ、コツ……」と静かな、しかし確実な足音が近づいてくるのが聞こえた。あの鬼教師の足音だ。


「ひっ……! きた、来ちゃったよぉぉ……ッ!」


背後の教室から、佐藤の絶望に満ちた悲鳴と、ガタガタと机が震える音が響いてくる。

忠敬は振り返ることなく、まっすぐ校門へと歩みを進めた。


校門を出たところで、忠敬のポケットの中でクロノが満足げに胸を張った。


『忠敬。佐藤のスマホの”勉強応援アプリ”に、毎日3時間の学習ロックを遠隔で仕込んでおいた。これで先生の補習が終わっても、家でスマホは使えないね』

「……お前、あいつを完全に仕留める気か?」

『ログは嘘をつかないからね』


夕暮れの通学路。

忠敬はカバンの紐を握り直し、佐藤の冥福を(ほんの少しだけ)祈りながら、まっすぐ家路についた。



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