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第21話:『漢の肉肉要塞 ――小さな栄養戦争――』


「ゲェーッ! 先生、野菜ジュース毎日購入の刑だけは勘弁してくださいよぉ!」


四時間目の生活・健康チェック。

学年主任の先生に「野菜パラメーターがゼロだ」と突き放された佐藤が、色黒の顔をこれ以上ないほど絶望に歪めて机に突っ伏していた。


だが、佐藤の机の上では、大人の検閲を乗り切った茶色いお弁当箱の小人たちが、佐藤譲りの猪突猛進さで勝利の雄叫びを上げていた。


『うおおおっ! 唐揚げ、ハンバーグ、豚生姜焼きの三色コンボ! 我が肉肉要塞の防衛成功だぜぇ!』

『見たか大人の検閲班! 漢のフルパワーに緑色の隙間など一ミリもないわぁ!!』


(いや、怒られてるから防衛失敗だろ佐藤の小人……)


忠敬が心の中で呆れていると、担任の先生が冷酷なトーンで告げた。


「佐藤、今日の放課後までに何か一品でも"緑色の野菜"を弁当箱に入れた写真を提出しろ。さもなければ、明日から毎日、購買の特濃ゴーヤジュースを目の前で一気飲みさせるからな」


「特濃しかもゴーヤ……っ!? 殺す気か!!」

佐藤が白目を剥いて悲鳴を上げた。


昼。

クラスメイトたちがお弁当を取り出し始める中、佐藤の机の周りでは、この危機を脱するための緊急会議が始まっていた。


『大変だ! 主人がゴーヤの毒牙に侵されてしまう!』

箸の小人がカタカタと震える。

『誰か! 誰か緑色の救援物資を持っていないか!?』


その必死の叫びに、隣の席で丁寧に荷物をまとめていた高橋くんの、白いお弁当箱の小人がビシッと手を挙げた。

『情報提供だ! 我が高橋班、本日の完璧な栄養バランスの余剰として、仕切りのレタスの奥に”手つかずのミニトマト”が一個残留している!』


『何だって!? ミニトマトは赤色だが緑のヘタがついている! 栄養学的には大勝利だ!』

『でも高橋様はもうカバンを閉めようとされている! 急げ!』


高橋くんの筆箱の小人が、主人の指先に向かって必死に叫ぶ。

『ご主人! カバンを開けてください! 佐藤くんの要塞にトマトの弾頭を撃ち込むのです!』




――コトッ。


だが、高橋くんの耳に届いたのは、ペンの位置が数ミリずれただけの軽いプラスチックの音だった。

高橋くんは不思議そうに首を傾げ、何事もなかったようにカバンのジッパーを閉めていく。



『だめだ……几帳面すぎてカバンが完璧にロックされた……!』

『もう時間がない! 先生がカメラを持って教室に来てしまうぞ!』

佐藤の小人たちが絶望の涙を流す。



(……はぁ。本当にこいつらは大袈裟だな)



忠敬は何も言わず、自分のカバンから、今朝母親に「余ったから食べなさい」とタッパーに詰められていた、手つかずのブロッコリーを一個、箸でつまみ上げた。そして、突っ伏して泣いている佐藤のお弁当箱の真ん中へ、無言でドスッと突き刺した。



肉肉要塞のド真ん中にそびえ立つ、圧倒的な緑の巨木。



『『『ミ、ミドリが来たァァァーーーッ!!!』』』



お弁当箱の小人たちが、まるで奇跡の救世主を迎えたかのように一斉にブロッコリーに抱きつき、涙を流した。



「うおっ!? ぶ、ブロッコリー……! 忠敬、お前いつの間に……!」

顔を上げた佐藤が、お弁当箱の中の緑の輝きを見て目を丸くする。


「落ちてたぞ」


「弁当のおかずが床に落ちてるわけねぇだろ! !!!でもありがてえぇぇ!!」

佐藤は猛烈な勢いでスマホを構え、ブロッコリー入りの弁当の写真をパシャリと撮影して先生へと送信した。



直後。

ちょうど教室に入ろうとしていたのか、廊下から先生の「よし、佐藤セーフだ!」という声が聞こえ、佐藤の小人たちは抱き合って大歓声を上げた。


手首のクロノが、呆れたように

『大袈裟な』

(マジでな)


忠敬とクロノの意見は一致した。


たった一個のブロッコリー。

人間から見れば、ただの野菜だ。だが小人たちの世界では、ゴーヤの脅威から要塞を守り抜いた、歴史的大勝利の象徴だった。



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