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15話

この回から鉤括弧が「現地語」『日本語』と逆になります。

 

 

 

 

 予知夢で見た通りの番──ラウラ様が召喚され、いたたまれなくなり逃げ出したところをエドアルド様に止められ、お詫びをしたいという彼のご厚意に甘えて一人隠れて暮らした事。その出発前にヴァレリオ様が来て、番に出会ったにも関わらずまだ私を想い続けてくれており、何とかするから待っていてと声をかけてくれた事。それから一年後にティルナノーグに黒竜が侵入し番の部屋を襲撃する予知夢を見て、番に何かあればヴァレリオ様も危ないから自分が身代わりになろうとこの宮殿に戻ってきた事。そこで黒竜の長であるイムレの番が自分であると言われ、連れ去られそうになった事。ヴァレリオ様は私を諦めないでいてくれたけれど私はその気持ちを裏切り、イムレの力を削ぐ為に死を選んだ事。

 転生後ももしもやり直せたら、と魔法陣を作っていたら魔力が足りない筈なのに何故か発動してここに召喚され、ヴァレリオ様がラウラ様の存在を知っていたから彼が時間を戻したのだろうと推測した事。何とかして元の世界に帰り、今度こそジュリアとヴァレリオ様に結ばれて欲しいと望んでいる事──。「消えてもらった」という誰かの話は、迷った上でまだ確証がないと伏せておいた。

 

 前世の話はつい最近乃亜くんに同じような話をしたばかりだったから、あまりつっかえることなく事情を伝えることが出来たと思う。ジュリアは目を見開いたり眉を寄せたり表情をあれこれ変えながらも、長い話を最後まで黙って聞いていた。

 

「本当に、貴女はわたくしなのですね」

「信じて貰えたなら良かった」

「信じ難いですが……今朝からヴァレリオ様の様子がおかしかったのです。昨日までと雰囲気が急に変わったといいますか……。そしてわたくしに、今度こそ大丈夫だと仰いました。なんの事かと不思議に思っていましたが、そういう事情がおありだったのですね」

 

 それはつまり、ヴァレリオ様はかなり直近に戻ってきたということだろうか。私が死んでどれくらい後から今に時を戻したのか分からないけれど、番召喚の直前に戻ってきているあたり神力もギリギリだったのだろう。

 

「そういう訳だから、もう彼の事を諦めないで欲しいの」

 

 計り知れない彼の努力を無駄にしないためにも、かつての自分に一番言いたかったことをハッキリと告げる。この時の私は竜族にとっては番より優先されることなどないと思っていた。だから番が現れて尚愛される筈がないと決めつけて逃げようとしたのだ。けれどそれでも彼は愛し続けて、諦めないでいてくれた。そこまでして手を差し出してくれたなら、いくら頑固な私でも今度こそ彼の手をとれると。

 ──思ったのだけど。

 

「……それについてなのですが、わたくしが貴女の世界に行った方が良いかと思います」

「え?」

「経緯がどうあれ、貴女がヴァレリオ様の番であることは事実でしょう? ヴァレリオ様は望んだ相手と番になれた上に力も得られますし、わたくしが黒竜の長に見つかっては困りますから、それが最善かと」

 

 こういう個人の感情よりヴァレリオ様に関わる損得を優先する現実的なところ、我ながら私っぽいし、言っていること自体は正論ではある。いや、私と元は同じ思考だから正論だと感じるだけか。けれどここで言い負かされるわけにはいかない。

 

「ちょっと待って。私がヴァレリオ様のことまだ好きって前提で話進めてるよね?」

「あら、そうでしょう? 生まれ変わった程度で消えるような想いではありませんから」

「うぐ……で、でもそれじゃ駄目なんだって。だって私はもうヴァレリオ様が愛してくれたジュリア・ザハじゃない、七瀬珠璃愛っていう別人なの。性格だって結構変わった。話してて分かるでしょ?」

 

 何故か顔立ちが結構似ているとはいえ、それでも色彩は全然違う。こっちの言葉でだって一人称や言葉遣いは変わった。常識も異なるから、膝上丈の服だってノースリーブの服だって抵抗なく着れる。前世がジュリア・ザハだとは言えても、これで同一人物だなんてことは流石に言えない。しかし彼女は納得する様子はなくて。

 

「……わたくしは、もしも来世のヴァレリオ様が会いに来てくださったなら、姿や言葉遣いが変わっていても彼の心が変わっていないのであれば、きっと好きになると思います。貴女もわたくしなら、この気持ちを分かっていただけるのではないかと」

「それは……そうだけど……」

「そして、時を戻すくらいですからきっと、ヴァレリオ様も同じ考えだと思います。寧ろ、今のヴァレリオ様は貴女と同じ時を生きたヴァレリオ様なのですから、真実を打ち明ければきっと貴女を望んで下さるでしょう」

 

 何としてでも説得したいのに、こちらが論破されそうになっている。確かになぁ、って思ってしまう自分がいて首を横に振った。

 

「だって違うんだもん。ヴァレリオ様がジュリアを手放して私を選ぶのは、『キャラ崩壊』っていうか『解釈違い』っていうか……」

「『キャラホーカイ、カイシャクチガイ』とは……?」

「要するに、ヴァレリオ様にはジュリア・ザハに一途でいて欲しいってこと!」

「貴女も元はジュリア・ザハではありませんか」

「元ね、元! それにジュリアが二人ってなったらヴァレリオ様を困らせてしまうでしょ?」

「ですが貴女が番としてヴァレリオ様の傍にいて、わたくしが異世界に避難することが、ティルナノーグにとって一番良い選択かと」

「だから〜……ティルナノーグの為にって我慢した結果が今なの!」

「前回と今とでは状況が違うでしょう?!」 

 

 お互いヒートアップしてしまって、座って喋っていただけなのに呼吸が荒くなり、落ち着けるように深呼吸をする。ジュリアも長い長い溜息を吐いた後、窓の外に視線をやってぽつりと呟いた。

 

「平行線ですわね……」

 

 相手は昔の自分だから、考え方が分かっているから、説得なんて簡単だと思っていたけれど意外と難しい。それはつまり……自分の意思に反することを願っているということなのだろうか。私が帰って彼女とヴァレリオ様が結ばれることを、本当に願っているつもりなのに。

 

「……貴女がどんな想像してるか知らないけどさ。私は今の人生にまぁまぁ満足してるんだよ。それに元の世界にも、大事な人がいるの。だから帰る」

「え? 貴女、まさか……」 

「家族だから! 浮気じゃないよ!」 

 

 この頃家族は私のことを"娘"ではなく"王子の番様"として扱っていた為に余所余所しい関係だった。だからヴァレリオ様やティルナノーグの為という話から論点を変えると、家族愛というものを知らずにいたジュリアには否定の仕方が分からなかったようだ。我ながらずるいやり方だとは思うけれど、相手が昔の自分というのもあって手段は選んでいられない。

 

「それなら強制はしませんが……ヴァレリオ様の番という立場を捨ておいてでも帰りたい世界なんて、わたくしには想像がつきません」

 

 ヴァレリオ様より優先されうる存在というものの想像がつかない彼女だからこそ、ヴァレリオ様の傍にいるべきだ。

 

「兎に角帰るから。だから貴女は今度こそ最後までヴァレリオ様の傍にいて」 

「……分かりました。ですが、気が変わったらいつでも仰って下さい」

「あのねぇ……」

 

 まだ完全には諦めていない様子の彼女に溜息を吐いた後、今後どう振舞うかの詳しい話をした。

 


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