62 母
アレクサンダーは何故この話を今されるのかはわからなかったが、この赤ん坊が誰なのか理解した。
母であるはずのクリスティーナに視線を向けると潤んだ瞳で見返された。
「その令嬢は?」
「彼女も兄たちが出奔したときに行方不明になっていてね。
なんでも探し物の得意な占い師に二人の行方を探させたときにもめて精霊の国に飛ばされていたらしい。
ある日ひょっこり大きなお腹を抱えて帰ってきたんだけど、さすがの彼女も兄たちの話にショックを受けてね。出産がはやまって。
泣きながら兄たちの名前を呼びつつ事切れたんだ。
こちらはかわいいけれど身体の弱い女の子が一人残されて親族に引き取られて育ったよ」
「それで叔父上は何が言いたいのでしょうか?」
「だから君たちの恋は近親婚にはならないと言っているんだよ。甥よ」
「私たち?」
「そう。シシィと君。だから盛り上がりすぎて国を棄ててでもこの恋を叶える❗何てことはしなくてもいいよと言っておきたくて。血は争えないって言うだろう。」
「どういうことですか?」
「自分とシシィは血縁関係にあるのでは?と思った君は自分の恋心に蓋をして、シシィの幸せを妨害するめんどくさい男になってただろう。
あれはシシィの母親が死ぬ間際にわびたい人の名前を呼んでいたんだが、その中に現王、君の父上の名前もあったから間違った噂が広まったんだ。
シシィは王の隠し子ではないのか?聞いたことがあるだろう?
大丈夫、君の父親はわたしの一番上の兄で現王ではないんだ。
そして君の母上はもちろん一番上の兄の婚約者だった方だ。
とても美しい人だったよ。
クリスティーナ様と同じ髪色目の色だったから誰も君たちのことを疑わなかっただろう?
クリスティーナ様は婚約中に君を産んだ奔放な王妃とやゆされてしまって本当に申し訳なかったけれどね」
「いいえ、元はと言えば私の妹が悪いのです。愛し合う二人を引き裂こうとしたのですから。アレクサンダー様が本当のお父様お母様にあうこともできず、私が母の振りをして……申し訳ありませんでした」
クリスティーナは頭を垂れた。
母として慈しんできてくれた女性が自分に頭を下げる光景に耐えられずアレクサンダーはその細い肩を優しくつかんだ。
「母上、やめてください。今の話が本当だとしてあなたは汚名を被って実子でもない私を王太子として立ててくださったんだ。母上を責める気はありません。あなたが私の母であることは変わりません」
アレクサンダーの優しい言葉にクリスティーナの瞳から涙がこぼれ落ちた。
「本当に優しい子に育って……母は嬉しいです」
そっと寄り添う二人の姿を見てトビアスは満足そうにうなずいた。
「うん、うん。よかった。それでこそ我が甥だ。さ、シシィを助け出してそのまま国を捨てて逃げたりしなくてもいいとわかったなら探しに行こうか」
「叔父上……情緒が足りないと言われませんか?」
「ないな、王族にそんな口を聞くものがいたら大問題だろう?親族とはいえその言葉傷ついた。甥よ、この暗く苦い気持ちを晴らすためにも早いところシシィを見つけてめでたい話を持って来い」
そう言ってからりと笑う叔父の姿に泣いていたクリスティーナも笑い出した。
「そうね。あなたが抱きしめて差し上げなくてはいけないのは私ではないわね。さぁ行きなさい。父も母もここで待っています」
「はい。ではすぐに戻ります」
そう言ってアレクサンダーは部屋を出ようと扉に手をかけた。
そこへトビアスが声をかける。
「あ、ちょっと問題があるとすればシシィの父親は人間じゃない。君の愛を証明する相手の精霊なんだ。まあ頑張ってほしい」
さぁ行って来い!!と背中を押され部屋を追い出されたアレクサンダーは理解できずに扉の前で思わず叫んだ。
「はぁ????」
ばたんと閉められた扉の中からは何もかえってこなかった。
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