59 朝になれば
ドアがあき幾人かの気配が二人に近づく。閃光に視界を奪われていたシシィとアンナはろくに抵抗できず猿轡をはめられそれぞれ袋に詰め込まれた。
あれよあれよという間に運ばれる。硬い板の上にのせられた感覚と揺れから馬車に乗せられたのがわかった。ガタゴトと揺れる石畳をしばらく過ぎ、小さな石が跳ね上げられる砂利道の音、そして二人がやっと袋から出されたのは暗い部屋。
小さな明り取りが壁の高い位置にあることから地下室のようだった。月明かりが部屋の一部を照らしだしている。部屋の真ん中の柱により掛かるように二人は座らされている。
「朝になればきっと私達がいないことに皆が気づくわよ」
そばに立ち見張りをしているらしいベアグにシシィが言った。
猿轡を外してくれたので口は聞けるがシシィもアンナも手足は縄で縛られている。
「もうしわけありません。そうなる前に逃げさせていただきます」
震える声でハイデンが言った。やっと聞き取れるほどの小さな声だった。
「私の技術を買ってくださっている方がいるのです」
「魔石の使用量が段違いになったのはやはりベアグ氏の発明だったのですね」
冷静にアンナが言った。
「ご存知でしたか。これからは私を認めてくださった方に協力させていただきます。この国で貧乏貴族の私の発明は上司達に奪われるだけ。もう、こんな国にこだわる必要はありません」
「それはお気の毒だと思いますが、あなたの技術をもっとも役立てることのとできる国は魔石を算出し魔道具を開発するこの国だと思いますよ」
「それはこれから変わっていくんです。いえ……私達が変えていくんです」
「どういう意味ですの?」
「これ以上は私の時間がありません。申し訳ありません」
そう言うとハイデンはもう一度二人に猿轡をはめた。
「お二人がとても位の高いご令嬢だと上のものに知らせましたので誰も失礼はしません。どうか大人しく待っていてください」
そういうとハイデンは白髪だらけの頭を下げて部屋を出ていった。
カチャリと鍵をかける音がし足音が去っていく。
十分に足音が遠のいてからアンナがもぞもぞと脚を動かしだした。
片方の靴を脱ごうとしているのか盛んにかかとを石造りの床に擦り付ける。
しばらくそうしていたがカチリという硬い音がなりかかとの一部が外れた。
「シシィ様。足か腕をこちらによこしてください」
「さすがはアンナね。かかとに刃を仕込んでおくなんて」
「ふふふ。淑女としての常識ですのよ」
「そんなマナー習ってないわよ」
クスクスと楽しそうに笑いながらシシィが縄に巻かれた足首をアンナに近づけた。今までの経験からもアンナがいて自分が危険な目にあったことは一度もないのだ。今回もその通りになりそうだとシシィは思った。
ハイデンにナイフを突きつけられようが閃光で目潰しを受けようがシシィが恐怖に取り乱さなかったのはひとえにこの有能な侍女のおかげであった。
しばらくアンナがかかとに仕込んだ刃をシシィの足首を結ぶ縄にこすりつけていたがプツリと解ける。つづいてシシィは手首を近づけると自ら腕を動かした。再び縄はプツリと切れて床に落ちた。
「はぁ、やっぱり縛られるのは苦手だわ。私は自由を愛するわ」
手首を振りながらシシィが呟いた。すぐさまアンナの縄をほどき出す。
アンナの縄も解け二人は部屋の入口の扉のそばに寄った。
耳をすますが何も聞こえない。アンナが軽く頷いて自らの結い上げた髪に触れた。
ぱらりと解けた髪が背中に垂れる。
「鍵開けもできるだなんて、アンナ有能すぎだわよ」
アンナの手にしたピンが鍵穴に差し込まれたのを見てシシィは嬉しそうに呟いたのだった。
「待っていろと言われたけれど、私達返事はしていないものね」
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