55 酔っ払い
「だぁいたい、どいつもこいつも結婚結婚うるさいんですよ!!」
だいぶ呂律が回らなくなったリリーは赤べこのように首を振りながらクダを巻きだした。ツンと突き出した下唇の端が下がり子供のようなふてくされかたである。
「あぁ。だいぶ酔ってるな」
ジョージはリリーの様子を苦笑いしながら眺める。たしかジョッキ2杯だけしか飲んでいないはずだが、酒への耐性は人それぞれだ。年長者として気を配るべきだったかと彼はじゃっかん後悔した。
「ねぇ!家柄がどうだとか。可愛げがどうだとか。人間こころねが大事なんじゃないですか?」
リリーはジョージの袖をくいくいとひっぱる。
「そうだなぁダミアン。まずは水飲もうか?」
トリスタンがリリーの口元へ水の入ったコップを差し出す。
「いただきます。いただきますけども、おかしいと思うんですよ。なんで貴族令嬢は結婚したら家に入れって言われるんですか?子供を産めって言われても、みんながみんなそんなポンポンポンポン産めませんよ?ね?そうでしょうお姉さん!!」
「そうだねーお兄さんの言う通りさね」
リリーは通りすがりの給仕の女性に同意を求めた。女性も仕事柄慣れたものでリリーに優しく相槌をうちながらも仕事を続ける。
「ごめん。お姉さん。お勘定」
「ダミアン。しっかりしろ。お前がご令嬢のために色々考えているのはわかったから」
「いいえ。わかってないですよ。ジョージさん。トリスタンさん。あなた方が結婚したら、子供は何人ほしいんですか?」
リリーは二人に人さし指を突き出して問い詰める。
「えぇ?うーん。男の子が最低二人かな?家を継ぐなら?」
「そうだなぁ。可愛い女の子もほしいけど、家のことを考えると男子は必要だろうな」
トリスタンの返答にジョージも追従する。
「ひぃやっく。じゃぁぁぁ女の子しか生まれなかったら?」
しゃっくりしながら問いかけるリリーの目がすわっている。
「その子に婿をもらうかな。普通そうだろう?」
「領地の経営は?」
「その婿さんにしてもらうかな?」
「どうして娘さんにさせないんですか?」
「どうしてって娘だろう?女性には無理じゃないか?」
「なんで?」
「なんでって今までもそうだったんだから。女性の爵位はあくまでも仮ってなってるだろう?」
「女性だって考える頭も手も足もあるんですよ!!なんで出来ないって思うんですか?お姉さんみたいに重いジョッキだって持てる力もあります。無理無理ってやらせないから出来ないだけでやったらできるんですよ!!男ができること全部女だって出来ます!!おまけに子供まで産めます!!なんで女子が生まれたら残念な風になるんですか!!おかしい!!おかしい!!」
グチグチいい出したリリーのそばに給仕の女性がやってきた。様子をみて頃合いだと思ったのだろう。
「そうだね。おかしいねぇ。さ、兄さんたち早く連れて帰って寝かせてやんなよ。それとも奥で休ませるかい?部屋ならあいてるよ。」
「そうするか?ほらダミアンちゃんとたて」
「立ってますよ。ほらちゃーんと」
言ったそばからゆらりとよろけたダミアンをトリスタンが慌てて支える。リリーを真正面から抱きしめる形になったトリスタンの動きが固まる。
「えぇっと?ダミアン?」
脇の下を支えたトリスタンが腕を伸ばし密着していた体を引き離す。かくんかくんと首を振りながらリリーは応える。
「はい。ダミアンです。ダミアンです!!だいじょーぶです!!おねえさん!お部屋おねがいします!!」
「大丈夫かよ。ほんとに……」
ジョージはあきれつつ財布を取り出した。
「いいよ。酔っ払いにはなれてるから。こっちで面倒見るさ。兄さんたちお支払いだけ頼みますよ」
給仕の女性はリリーに肩を貸しさっさと奥へとあるき出した。
「じゃあ明日の朝迎えに来るから。よろしく頼む。おい、トリスタンどうした?」
「ジョージ……俺も酔ってんのかな?」
「何言ってるんだ?」
「いや、うん。気のせいだな……」
「変なやつだなぁ。手がどうかしたのか?」
「いや、その、うん。明日酔いが冷めたら話そうかな」
手をみつめながらそうつぶやくトリスタンの頬が先程より赤く染まっているのに気づかないジョージであった。




