44 宰相の思惑
「この魔石というのは面白い物なんだよ。広い世界の中で発掘されるのは我が国と隣国の一部。まだ見つかっていない魔石の鉱脈がどこかにあるのかもしれないが。魔道具と一緒に使わなければただの石だからね。妖精との相性が悪いというのもつい最近の発見でね。いやー面白いね」
はっはっはっと大きな声で笑う宰相はリリーに向かってニヤリと笑った。
「さて、君にお願いした仕事の件だが首尾はどうかな?」
ぎょろりとした灰色の瞳は知性を感じさせるがその輝きはおねだりしておいたおもちゃを貰う前のこどものように興奮している。
「あの?お願いした仕事?とは?」
リリーには宰相が何を言っているのかさっぱりわからない。灰色の瞳の上の太い眉根が寄せられたが、そんな顔をされてもリリーだって答えられるものならこたえている。
「君は自分の仕事の内容がわからないまま王太子執務室でオーベアライヒの不正を暴こうとしていたのかな?」
「え?あの。本当になんのことだか」
「ヨーグ、お前の娘はいいなぁ。お前の代わりに私の部署に入ってもらおうかな。お前よりよっぽど可愛げがあるしな」
「娘が聡いのは私譲りです。可愛げは妻からですが」
憮然とした父がたしかに可愛げのない口調でこたえたのを聞いてリリーは思わずくすりと笑ってしまった。だが次の言葉でその笑みも消える。
「仕事熱心だし王妃様にも可愛がられているし精霊にも気に入られているようだし家に閉じ込めておくのはもったいないな」
宰相という決まりを作る立場のこの人でさえ四角四面に貴族界の伝統を疑うこともしないのだ。仕事ができ人脈があっても女性が結婚後家に縛り付けられることを良しとしている。リリーの胸が暗い未来の想像で重たくなる。宰相の顔を見ていられなくて視線が落ちた。
アルフォンスとの婚約を邪魔することが出来てもこのままではすぐに次の婚約者を連れてこられるのだろう。王妃との繋がりができた今リリーは不名誉な噂に目をつぶっても良い物件として見られるのだ。レオのことを解決すれば静かな修道院生活まであと少しだったのに、何故こうなってしまうのか……
「そうそう。王妃様だけでなく未来の王太子妃にも懐かれているようだね」
その言葉にリリーは膝上で固く握りしめていた手に落としていた視線をあげた。
「未来の王太子妃……」
「そうだ。君の本来の仕事だよ。さ、あの二人の様子はどうなのかな?そろそろ報告がほしいと思っていたんだ」
ワクワクを隠そうともせず宰相はリリーにねだった。
「……え、あの二人って、あの、お二人ですか?」
リリーの頭に浮かんだのはもちろん王太子とシシィであったが、いや、まさかという思いが言葉を詰まらせた。
「まさかお互いなんとも思っていないということはないだろう?」
「え?私が王太子殿下の執務室に行かされたのはそのためだったのですか?」
「何のためだと思っていたのかね?」
「嘘を見抜ける精霊の呪いをつかって不正を見つけるためだと思っておりましたが」
「そんなのわざわざ王太子殿下の執務室でなくても君がやったように資料を当たればある程度のことはわかる。だが人の心のことは資料からはわからないだろう。王太子殿下とシシィ様のことはなかなかに繊細な問題でね。まずはお二人の気持ちを確かめたかったんだ」
「お二人の気持ち……」
自分が期待されていた役割が全く思っていなかった方向から託されていたと知りリリーはパチパチとまばたきを繰り返すのだった。




