42 宰相コーニッツ
昨夜王妃からの呼び出しがおわり部屋に戻ってきたリリーは扉を開けると床に落ちている手紙を見つけた。どうやら扉の下から差し込まれたものらしいそれはレオのプロポーズを受けた後リリーが父に会いたいと書いた手紙の返信だった。
『明日の朝早くダミアンを迎えに来る』
署名はなかったが手短な手紙は父の優美な筆跡で書かれていた。疑う必要もない父の手紙であった。
そのため今朝は早くから男装を整え父の迎えを待っていたのだが。
ダミアンことリリーを迎えに来たのはまだ若い侍従だった。
「おはようございます。ダミアン様をお連れするように言いつかっております」
言葉少なに挨拶をした彼はリリーを引連れまだ暗い中王宮の一角にある馬車の待合所まで連れてきた。白みはじめた東の空に鳥の声が響く。
「お連れしました」
地味だがしっかりとした作りの馬車の扉を叩き従者が告げる。
「どうぞ」
従者が扉をあけリリーが乗れるように手を貸す。
「早く入り給え」
重く渋い男性の声に急かされリリーが転がり込むように乗り込んだ先には暗い車内の中に浮かぶ白塗りの顔。
「きゃ」
叫び声をあげようとしたリリーの口が塞がれる。
「父だ。リリー落ち着きなさい。手をはなすよ。大きな声を出さないように」
こくこくと頷くと白塗りの顔の向かいに腰掛けた父の隣に座らせられた。
「はじめまして。朝早くからすまないね。私は宰相のコーニッツ。君の父上と一緒に仕事をしている」
よく目を凝らして見つめると白塗りの顔に見えたものは仮面であった。
「はじめておめにかかります。リリフォリア・アデノフォラにございます」
「父上が自慢する通り可愛らしいお嬢さんだね。王妃殿下から聞いたよ。なかなか面白い話があるらしいね」
リリーが父にちらりと視線を送るとコクリと頷かれた。
父にまで話はとおっているならば話は早い。リリーが見抜いた本音も含めて信用してもらっているということだろう。
「オーバーライヒ侯爵様の関係された書類を調べまして、魔石の流通量及び食料に関しても隣国への不正な横流しの疑惑が浮かびました。
十年前の書類は残念ながら先日アルフォンス・ランズフートに奪われましたがその他の書類を調べ裏付けを取りました。はっきりとオーベアライヒ侯爵の名前が出ていなくともその関係者の名前が関わっている資料は手元に集めることが出来ました。
足りない証拠については宰相様の協力を仰ぐようにと王妃殿下からお口添えをいただけました」
仮面の下の表情がわからないので少し不安になりながらもリリーは一息に要件をつげた。
「……」
何も言われないまま静かな時間がすぎる。ちらりと父を見ると膝の上の手を握られた。
(心配するなということかしら?)
「リリフォリア嬢」
「はい」
「アルフォンス・ランズフートと婚約破棄しても王太子殿下との婚姻は難しいと思うのだが、それでも君はかまわないのだろうか?」
若干申し訳無さそうな声で宰相が告げた言葉にリリーは全力で頷いた。
「そんなことは全く望んでおりません!!一生結婚をするつもりもありません」
リリーは言い切ったあとで自分の手が震えていることに気づいた。
「一生?」
震えているのはリリーの手を握る父の手であった。
「一生?」
急に十歳は老け込んだように見える父を見てリリーは己の失敗に気づいた。
「予定は未定で決定ではありませんわよ。お父様。おほほほほほ」
おほほほほとごまかしてみたが全く信じられていないのは父に改めて聞くまでもないのだった。




