41 復讐するは我にあり
「で、今日はどんなことがわかったのかしら」
王妃はリリーに向かって本題に入った。王妃とリリーたちの間の卓には甘いお菓子が山と積まれているがどうやらまだそれに手を伸ばしてはいけないらしいとリリーはつばを飲み込んだ。
「アレクサンダーはまだ何も聞いてないようだったけれど?」
「はい。今日は報告書をまとめ終わったときにはアレクサンダー様にはご報告できなくて。魔石の流通量を十年前から追いかけまして、今回の件おそらくは隣国の動きと関係しているのではと思っています」
「あら?国内だけではなかったの?」
「はい。オーバーライヒ様のなさっていることを考えても収支の合わない魔石は国内にはすでにないと思われます。毎年少なくない量が隣国へ流れ、かつ隣国で内乱が起きている年とも呼応しています。食料についてもオーバーライヒ様の縁故の領地で豊作なのに領民の市場に出回らず価格が下がることがないため、魔石だけでなく食料に関しても国外へ秘密裏にもちだされているはずです」
「そう。資料をあたっただけでそこまで見抜いたの?」
王妃は満足気に目を細めた。
「もちろんこのままでは証拠不十分で逃げられるのはわかっています。あと少し固めなくてはいけないのはもちろんなのですが、私の元婚約者アルフォンスをやり込めるためにはあと一つといったところで」
「問題ないわ。あなたが気づいたこと宰相に言えば更に詳しく調べることはできるわ。あなたのお父様もあなたの仕事ぶりにお喜びになるでしょうね」
『いいじゃない。あなたを裏切った男を底辺まで叩き落とす証拠、探してあげましょう』
ほほほと扇の奥で笑い声を上げた王妃クリスティーナはご機嫌である。
「さぁ楽しくなるわね。オーバーライヒ家の少なくない領地をほしがる貴族たちはたくさんいるもの。この件が公になればこちらの味方になる貴族は少なくないわよ。あなたの新しい婚約者もすぐに見つかるわ!!」
「え?私はそんな……」
王妃が乗り気になればなるほど自分の復讐心が縮んでいく気がしてリリーは戸惑った。それに婚約者など欲しくない。まずはレオのことを父に説明して断らなければおいおいと修道院にも行けないのだ。
(今のままでは修道院に入ってもレオが押しかけてくると思うのよね)
頭のおかしな人物がどの程度自由を許されているかわからないが彼の侍従が外出を許せばリリーのいる修道院まで押しかけてくるのは容易いことのように思える。
「いいのよ!!貴族令嬢として生まれたからには一番大事なのは世継ぎを産むこと、お家の存続。アデノフォラ家は男子に恵まれなかったものね。アデノフォラ伯爵はあなたのお母様の後に後妻を取りたくないそうだし、今のままでは女子が二人だけだもの。アデノフォラ家の歴史を絶やさないためには良いお婿さんをとらないとね」
パタパタと扇で仰ぐ姿も優美なまま王妃は貴族としては当たり前の常識を説く。
「でも……」
王妃は急に声のトーンを落として囁いた。
「あなたが強くなれば好きな人を守れるのよ。その時にはお好きになさい」
ね!と軽くウィンクをする王妃は今度はどんな勘違いをしているのか、リリーには皆目けんとうがつかないのだった。




